「サンタ・サングレ 聖なる血」(1989) 監督/アレハンドロ・ホドロフスキー

出演/アクセル・ホドロフスキー、ガイ・ストックウェル、ブランカ・グェッラ、セルマ・ティゾー、サブリナ・デニスン、アダン・ホドロフスキー、テオ・ホドロフスキー 他

◆サーカス団の少年マジシャン・フェニックス。父親は団長でナイフ投げの名手オルゴ、母親はブランコ乗りで、幼い頃に強姦され両腕を切り落とされ「聖なる血」を流した乙女の像を狂信的に崇拝する教団の教祖でもあるコンチャ。繊細で感受性の強いフェニックスは、父親の浮気相手である刺青の女が連れている聾唖の少女アルマと心を通わせていた。
ある夜、オルゴの浮気現場をおさえたコンチャは彼の陰部に硫酸をかけた。
激怒したオルゴは彼女の両腕をナイフで切り落とし、自らも喉をかき切って死んでしまう。

一部始終を目撃したフェニックスは、精神を病み施設に収容される。やがて成長したフェニックスは両腕のない母親と再会し施設から脱走する。親子の奇妙な二人羽織芸でフリークス・ショーの人気者となるが、その裏で狂気の母親の意思に従い、刺青の女を探し出して惨殺し、歯止めの利かなくなったフェニックスの狂気は、おぞましい殺人を夢遊病のように犯してゆく―。

オススメ度 ★★★★★★★★★★10

◆究極のカルト映画「エル・トポ」「ホーリー・マウンテン」を創りあげた鬼才ホドロフスキーが、次に創った映画は、ちょっとなにか思うところがあったのか、「観客にちゃんと内容が伝わるような映画」でしたとさ。それがこの「サンタ・サングレ」。
確かに、先の2作品に比べれば非常にわかりやすい内容。美しく幻想的な童話のような映像も飲み込みやすい。

しかしわかりやすくね、とは言ってもホドロフスキーなので、一筋縄ではいきません。
登場人物のほぼ全てがきらびやかで残虐でいかがわしく恐ろしい。
監督の実の息子たちが主人公フェニックスの少年・青年時代をそれぞれ演じているが、驚くほど役のイメージに合っていて素晴らしい。
そのフェニックスの視線で展開していく物語。大事にしていたサーカス団の象が死に、街中を葬儀のパレードがねり歩き、象の巨体を崖から落とし、その死肉に群がるゾンビめいた貧民の群れは印象的。
そして目の前で父親が死に母親が血まみれになり、唯一心を通わせていた聾唖の美少女とは離れ離れになり、脆い少年の心を次々に蝕まれていくフェニックス。
その踏み躙られた心は母親に支配され、自分の意思のないままに女たちを惨殺し続ける。
救われない魂が、最終的に聖母的な慈愛を持ってして少女に包まれ浄化されるところはとても感動的。確かに今までのホドロフスキー作品には見られなかった兆候!(笑) 愛に救われる、とは陳腐な部分もあるが、美しいものと残酷なものが巧妙に折り重ねられ彩られたこの映画のテーマとしては絶妙。これを素直にいいと思わないで何が人間ぞ。(03/10/20)