その日が来るまでは | 考えすぎ

その日が来るまでは

受験戦争の真っ只中にいる子供に向かって、
「勉強だけが人生じゃないよ」
と言う人がいる。


愛する人のことで胸が張り裂けそうな青年に、
「異性はその人だけじゃないよ」
と言う人がいる。


言いたい気持ちは、わかる。
状況にもよるだろうが、大方において“正しい”意見だ。



・・・でも、それはまるで、
「生きるだけが道じゃないよ」
「星は地球だけじゃないよ」
と言うようなもの。


「生きるだけが道じゃないよ」
これは、理屈の上ではとても正しい。
生きることをやめる道を選ぶ人が、現にいるのだから。


「星は地球だけじゃないよ」
これも、理屈の上ではとても正しい。
宇宙人から見れば、
必死に地球にしがみついて生きている我々は、滑稽に映るかもしれない。


生きるために苦しんでいる人は、確かに生きることに執着し過ぎているのかもしれない。
地球のことで悩んでいる人は、確かに他の星が見えなくなっているのかもしれない。




だけど、それを指摘して、いったい何になるのだろう。


懸命に生きようとしている人に、
「生きるだけが道じゃないよ」と呼びかけて、いったい何になるのだろう。
地球で育ち、地球を愛している人に、
「星は地球だけじゃないよ」と諭して、いったい何になるのだろう。


もっとも、いつの日か、
生きるだけが道ではなかったと悟る日が来るかもしれない。
地球から出て、広大な宇宙に住まうような日が来るかもしれない。


でも、その日が来るまでは、
生きることがすべてであり、この地球が全世界なのだ。




その日が来るまでは、
勉強こそが人生であり、愛する人が世界の中心なのだ。
来るか来ないかわからないけれども、
その日が来るまでは。