70 三つ角村 | 鰤の部屋

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数年の時を経て気まぐれに更新を始めたブログ。
ネタが尽きるまで、気が済むまで更新中。

私は四角(しかくい)という国内の旅情報雑誌の記者。次はどこへ行こうかと地図を長めていると、扇状の形をした村を見つけた。
 名は三つ角村。行き方を調べみると、交通の便は自家用車でも面倒な場所にあり、秘境と呼べるほど別の人里から離れた村だった。さらに情報を集めてみると、そこはトンでもない噂話を発見でき、これはもう行ってみるしかないと、私の好奇心に火が点けられた。

「三日間、お世話になります。三角(みかど)です」
「ようこそいらっしゃいました。何も無い村ですが、ご容赦くださいな」
 私が厄介になるのはこの三つ角村の村長さんの家。噂が本当ならどうやっても私を受け入れてはくれないと考え、偽名を使って連絡を取っていた。閉ざされた空間と言える場所にあるにも関わらず、村の人々は取材に快く協力をしてくれ、村長に至っては宿まで提供してくれた。外貨を獲得しようとしているからか、はたまた婿、嫁を集めるためだろうか?それとも本当に人の善い人の集まりなのかを知るには時間が足りないため、考えるのは止めた。
 取材は順調すぎるほどに進み、村で過ごす最後の晩。私はある程度壁は取り除けたと考え、村長に尋ねてみた。
「この村の家は全て扇形で、三つしか角がありませんよね。今まで頂いた食事も、野菜や豆腐の切り方は全部三つしか角が無かったですし、何か云われがあるんですか?」
「ええまあ。四という数字は縁起が悪いと聞いた事がありませんか?この村では四は死へ繋がるとして嫌われているんです。若い人には馬鹿にされるかもしれませんがね、昔からの風習なもので」
「いえいえ、そういった古い風習は貴重ですし、お客さんはそういうのに興味を持ってきますよ。だから気にしないで大丈夫です」
 私はこの話を聞いて、心の中でガッツポーズをしていた。
 村の夜は早く、二十時にもなるともう全員が眠りに就く。私はその中で一人起き、そっと外へと抜け出した。
(ライト、ライトッと)
 鞄から取り出したのは懐中電灯、それに三角形の木。一辺を円く加工してある私のお手製だ。
「噂は噂だしね。村長さんの家で試してみますか」
 私は村長の家のカーブのかかった面に向かった。
 そして、そのカーブの中心地に加工した木を置いた。
「さぁて、どうなる事やら」
 変化は五秒とかからず起こった。
 もぐらたたきのように村長の家が消えたのだ。地下に引っ込んだ訳では無い。家が無くなり、更地状態になったのだ。
 噂は本当だった。非現実的な出来事を目の当たりにして私の心がはしゃぐ。
「もう一度」
 別の家にまた木を置く。するとまた消える。置く、消える、置く、消える。この繰り返しを、私は楽しんでいた。
 我に返った時には全ての建物が消え、辺りはそれはもう綺麗なものだった。
「やりすぎちゃった……」
 けれども罪悪感は不思議と無い。私が体験したこんな荒唐無稽な出来事を誰が信じるだろうか?オカルト好きな人間だってそうは信じないだろう。
 三つ角村の家の角を四つ角にすると消えるだなんてそんな噂話を。
 何事も無かったように車に乗り、頭の中でどこに記事を練り、どこに持って行こうか、そればかり考えていた。


終わり



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