監督・脚本 アッバス・キアロスタミ
脚色 マスメ・ラヒジ
編集 バフマン・キアロスタミ
撮影 ルカ・ビガッツィ
出演 ジュリエット・ビノシュ、ウィリアム・シメル
2010年 フランス/イタリア
『本物を証明する意味で、贋作にも価値がある』と、
本物と偽者の関係を通して芸術の意味を探る著書『贋作』の出版記念に、
イタリアのトスカーナ地方の小さな町にやってきたイギリス人作家の
講演場面から始まる本作は、講演で出会ったギャラリーの女主人と作家とが、
デート中に交わす男女の愛についての議論に置き換えられて、
講義を続けて聴かされている様なストーリー展開で、映画よりも演劇で
アプローチした方が良かったのではないかと思えるダイアローグ劇です。
赤の他人だった二人が、やがて夫婦のような言動を初めるに到っては、
観客は真実と偽りの境界が曖昧になり、原題のタイトルのように、
偽物も認証されれば本物になるというキアロスタミ監督のマジックに陥っていきます。
長年連れ添ってきた夫婦が、新婚時の愛を取り戻す事など幻想なのですが、
偽りの愛であっても、想像力によって本物の愛になりうるというメッセージは、
“愛”を“世界”に置き換える事も可能なテーマなのです。
この作品が、映画としての体裁を保ち得る事が出来たのは、ジュリエット・ビノシュの
クローズアップ演技のお陰でしょう。1983年に21歳で映画デビューして以来、
『ボンヌフの恋人』『存在の耐えられない軽さ』『トリコロール/青の愛』
アカデミー賞を受賞した『イングリッシュ・ペイシェント』、そして本作で、
昨年のカンヌ映画祭女優賞を受賞する等映画界の第一線で活躍し続ける彼女の
演技力と未だに衰えない美貌は本物で、贋作が生まれる余地のない唯一無二の
存在と言えるのではないでしょうか。
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