むげ、12日の朝にこの世を去ったミニチュアダックスフンドについて。実家で飼っていたミニチュアダックスフンドについて。チロという名前でした。

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写真提供:ヤマザキミク

ずっと愛しているのに、嫌になってしまうことがたくさんあった。そこにいることが当たり前過ぎて、正直邪魔と感じたこともあった。ごめんね。チロが家に来てから月日が流れ、注がれる愛情はデクレシェンド。こういう慣れってかなしい。若い頃は毎日散歩に出掛けていた。帰りが不安になるくらい遠くに行ったこともあった。みんなが学校に部活に忙しくなって散歩に行く機会が少なくなって、ついに散歩はたまにしか行かない状態になって。その時のこと、鮮明に記憶に残っているよ。僕がリードを手に取るとチロはいつも通り喜んで見せるけど、いざ外に出ると50メートルも歩かないうちに足を止め、行きたくないと言う。なんで、いこうよって言っても足に力を込めて動こうとしない。ちょっと喧嘩した後、僕が折れて家の方向に向き直るとチロは嬉しそうに階段を駆け上がった。部屋に入ってリードを戻して椅子に座った瞬間、かなしみがぶわっと溢れてきた。いつも行ってあげられなくてごめんねって思った。それ以来リードを手に取ることはなくなった。毎日の散歩をずっと続けていたならば、病気になんてならなかったんじゃないかってそんなことばかり考えている。後悔しているんだいろんなこと。エアベッドが導入されてチロのエリアを制限し始めたことも。弟がUFOキャッチャーでとってきた大きめの人形をしきりに舐めていたね。今までにないくらいに無我夢中で舐め回すものだから、気になっていたんだ。自分の匂いをこの家に、なるべく長い間残しておくためだったんじゃないかって今となっては思う。まさかな、とも思う。




モノになっていく様子を見た。ゾッとした。怖かった。母がチロの身体を消毒液で拭いてやった。僕は声も出ず、ただ背中を撫でるだけだった。チロを専用ベッドに寝かせたところで僕は一度チロから離れてリビングで煙草に火をつけた。その瞬間僕の頭の中に、もう「生前」と言えてしまうチロの元気な姿、色んな場面が浮かび上がってきて、歯を食いしばった。唇を思いっきり噛んだ。それなのに溢れてきてしまって、限界だった。泣いた。小さく泣いた。
チロはこの家で生きて本当に幸せだったかな。あんまり自信ないよ。もっとしてあげられることあったのになあ。もっと。ごめんね。今までありがとう。僕は22年生きてて、今までもそうだったようにこれからも多くのことを忘れていくけど、お前のことは絶対に忘れないよ。絶対に。約束する。愛しているよ。