富永まい「食堂かたつむり【2010】」 | 木島亭年代記

木島亭年代記

東北在住。
最近は映画も見てなきゃ本も読んでない。
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何故、私は「インビクタス」や「抱擁のかけら」が始まった今日という日に、こんなしょうもない映画を見に行っているのだろうか。私は自分の愚かさが悲しい。「DORE?」という企画を立ち上げ、普段見に行かないタイプの映画を見に行こうなどと思いあがったことをしたため、天罰が下ったようだ。先々週の「サヨナライツカ」に続き、今度はこの映画である。原作は24万部を撃っているとのことでそれなりに読めるような作品なんだろう。でももう映画で充分だ。これ以上食堂かたつむりに時間を割くほど私は暇ではないし、向こうだって厭だろう。否、そんなことはないか。何しろ劇中で「プロなら客を選ぶな」と言わさせ、それに受けて立っている主人公がいるのだ。むしろ歓迎に違いない。だが、歓迎されたってもう良いよ。私はもうお腹いっぱいだ。

物語は、彼氏にだまされたショックで失語症になった主人公が田舎に帰ってきて、食堂を開き、様々な人々との交流で再生していくという内容である。まあ田舎=ヒーリングであり、良い食生活=健康というようなことが言いたいことである。監督は新人女流監督富永まい。CMなどで活躍しているそうだ。主演は柴咲コウという大物。何しろ私の0年代ワーストの1位と2位の作品「どろろ」と「小林少女」に主演する大スターだ。なんやかんや言ってこの大スターの映画は映画館で見ているケースがたたあり、実は好きなんじゃないか説さえある。正直好きでも嫌いでもないってのが本音ではあるが、ここまできたらこの人の映画を見続けるのも良いかもしれない。

映画はファンシーなロハスといった感じの作品で、主人公倫子の空想みたいなシーンがPV調に煌びやかに演出される。とりわけ酷いのが倫子のだす料理によって抱えていた問題が解決に向かった人々が画面の中心に映り、その周りをゴテゴテのファンシーなCGで“この人の精神状態、今最高潮!”的なことを表現するのだが、もうさ、その様子はまるでパチンコで大当たりした時の画面の様である。「CR食堂かたつむり」なんてすぐ作れそう。それから、自然は美しいというような映像を展開しまくる。観光地のプロモーションビデオの様に、良いところしか映し出されていない。蚊に刺されることもないし、自然の発する悪臭(たとえば糞尿の匂い)やら、気色の悪さはまるでない。いかにも住みやすそうな場所としかとらえられていない。一見襤褸い食堂かたつむりだって、ファッション誌に出てきそうなシャレた店になっているし、田舎のスナックでも同様だ。登場人物たちの着ているものも同じ。生々しさを完全に排除し、都合の良い現実をよせ集めた退屈な田舎がそこにあり、金の匂いがなく、悪人がいない。監督がお得意とするCMの世界だ。


また肝心の人間ドラマさえも希薄だ。客のかかえる問題―――例えばブラザートムは嫁姑関係の果てに妻と子供に出ていかれているのだが、倫子のカレーを食べたおかげでたまたま向こうから電話をもらい、それだけで元気なる。また、志田未来演じる女子高生は倫子のスープ(ジュテームスープって言うらしい)でかた思いも男子と結ばれる。他にも愛人を失い日常的に喪服を着て背中を曲げ悲しそうにあるいていたおばあさんは倫子のフルコースで生気を取り戻し背筋をまっすぐに華やかな格好して歩くようになるのだ。だが、単に食事をしただけで何の葛藤も乗り越えず彼ら彼女らは何やら希望を手にする。なんともお手軽である。そして、倫子自身が抱える問題―――母親との葛藤でさえ、なんとなく日常を過ごすと言うだけで解消されていくし、結局、母親が癌になったということが二人の関係を急速にちぢめるのだから、もう言うことはない。


ところで劇中意味がわからない所があった。確か私は劇中居眠りをしていないはずなのだが、満島ひかり演じるミドリと倫子が何故仲良くなっているのか全然わからない。ミドリは倫子の中学の時の同級生だ。倫子はミドリのことを覚えていない。ミドリは今度「食堂かたつむり」に顔出すねという。友人を引き連れて店に顔出したミドリは手伝うよと言って、サンドイッチを運ぶ時に虫を入れる。そしてメンバーの一人が「虫が入っている」と大騒ぎ。食堂かたつむりの評判は悪化するのだ。何故ミドリが
そんなことをしたかというと、彼女の実家は喫茶店で、全く流行っていない。何しろミドリのパートでの稼ぎの方が良いというのだからこれはもう悲惨な状態だ。故に同じ田舎に似たような店ができそこが流行ると迷惑極まりないのである。まあ卑劣極まりない。倫子は全くミドリのことを疑っていなかったのだが、彼女の実家の喫茶店に行ったときに本人から事実を明かされ、「あんたの店なんて潰れちゃえばいいのに」という様な事を面と向かって言われるのだ。そしてそのあと一切それについて触れられず、突然倫子の母親の結婚パーティのシーンでミドリが和気あいあいとsれに参加している様子が映し出されるのだ。いつの間に仲直りしたのかさっぱりわからない。もしかしたら私が知らないうちに居眠りをしていてそのくだりを見逃したのかもしれない。否、多分そうなのだろう。いくらやる気のない映画だって流石にそこまで大ちゃくではないだろう。いやー全く気付かなかった。私、居眠りしてたんだ・・・・やばいかもしれない。


映画は冒頭倫子の半生を絵本風に紹介する。彼女をだましたのはインド人である。演出のせいで、完全にギャグにしか見えない。そのため倫子が失語症に陥るという展開に全くついていけない。あと舞台になっている田舎が“乳山”というおっぱい型の山(二つの山が連なりそのてっぺんに乳首状になっている)のふもとで、そこにはかつて胸の谷間にジャンプしようと言うバンジージャンプの施設があったらしい。一応気のきいた冗談のつもりなんだろうけど・・・・。

そして最後のシーン。予想はついていたけど、まさか玄関にぶつかった白い鳩を料理するとは思わなかった。それなりに象徴的に登場していた鳩だっただけに。まあ自分の料理に自分がいやされるってのもなんだかなぁ。

倫子の母はエルメスという名前の豚を飼っている。ブタをリヤカーにのっけってあやすシーンが何度かあるのだが、ハッキリ言って気が狂っているようにしか見えない。あとこの豚だがときどき倫子とテレパシーでしゃべる。まあ多分倫子が勝手にブタがそう言っていると感じているだけ何だろうが、どうしようもない。最終的にそのブタを料理するってのは割と良いんだが、屠殺シーンはないし、食べると言うことが残酷なことでもあると言うまでに至らないのが極めて遺憾。

まあ表面的で薄っぺらい人間ドラマとファンシーでロハスな世界を融合させ、ファッション誌・TVCMの世界に憧れる人々に向けられた緩やかで薬にも毒にもならい作品。


「DORE?」はもうやめてしまおうかな・・・・辛い