『一応の推定』  広川純 | ページをめくった先に広がる世界と解け合う心

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一応の推定 (文春文庫)/広川 純
¥570
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***この本は2009年12月に読了しました***

膳所駅で轢死した老人は事故死だったのか、それとも愛しい孫娘のための覚悟の自殺だったのか。ベテラン保険調査員・村越の執念の調査行が、二転三転の末にたどり着いた真実とは?保険業界の裏側、臓器移植など、現代社会の問題点を見事に描き切った滋味溢れる長篇ミステリー。第13回松本清張賞受賞作。
(Bookデータベースより)



クリスマスイブのその日、東海道線膳所駅にて人身事故が発生した。
轢死した老人は僅か3ヶ月前に掛捨て型傷害保険に加入しており、死亡時支払保険金は3,000万円。
そして彼には、難病に侵された孫娘がいたが、現行の法律により国内では手術ができず、外国での手術が必要であった。それには渡航費や手術代等で4,700万円近い費用が必要。
募金活動だけでは全然足らず、そのために年明け早々遺族からすぐに保険金請求があったのだ。
だが、自殺だと保険は適用されない。
遺族からの保険金請求を受け、保険会社は保険調査事務所に調査を依頼する。
自殺の可能性があるため、定年退職間近のベテラン保険調査員・村越に白羽の矢が。
あの日起こった出来事とは何だったのか?事故死だったのか、それとも保険金目当ての自殺だったのか?
徐々に浮かび上がる事実の数々。真実は如何に――。




「一応の推定」とは簡単に言えば、自殺と直接的に立証できなくても、典型的な自殺の情況が立証されれば、それで足りるということ。


自殺であれば保険金を支払わなくて済むと言う保険会社の思惑(無責)と、絶対に自殺ではないと言い切り、孫の難病のためには保険金がどうしても必要な遺族側。
そんななか、中立的な立場を貫き通すベテラン保険調査員の調査は、地に足着いたしっかりとした調査ではあるがその分、地道である。そのため、物語自体も山となるような盛り上がる部分はない。アクロバティックなトリックなどがないので、地味な印象を受けたりするかもしれない。
だがその分、変な展開や余計な脚色がなく、非常に堅実なしっかりとした作品だった。
なによりも、思わせぶりなミスリードや主人公による余計な推論がほとんどないのが良かった。
部分的に多少こじつけ感があったが十分許容範囲。硬派で渋い、個人的には好きな感じの作品でした。



「ここが、原田勇治という人の人生の終着点なんです。ここから彼の生きてきた人生の時間を遡るんです」



破産や競売、保険業界の裏側や、子供の臓器移植問題なども絡み、良い意味で勉強にもなりました。
ラスト付近で、村越が、ある場所からとある場所にFAXを送る場面があるのですが、短い描写ながら良い味出してます。


それにしても著者が60歳で、しかもこれがデビュー作とは驚きました。




【一応の推定】理論
自殺そのものを直接かつ完全に立証することが困難な場合、典型的な自殺の情況が立証されればそれで足りること、すなわち、その証明が「一応確からしい」という程度のものでは足りないが、自殺でないとする全ての疑いを排除するものである必要はなく、明白で納得の得られるものであればそれで足りる。
(「生命保険契約法最新実務判例集成」より)



★★★★




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