『審判』  深谷忠記 | ページをめくった先に広がる世界と解け合う心

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審判 (徳間文庫)/深谷 忠記
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***この本は2009年9月に読了しました***

柏木喬は、女児誘拐殺人犯として懲役十五年の判決を受けた。刑を終えて出所した彼は、ホームページの中で意図的に冤罪を被ったと主張。殺された女児の母親・古畑聖子に向けて意味深なメッセージを送り、自白に追い込んだ元刑事・村上の周辺に頻繁に現れる。柏木は本当に無実なのか?予想外の展開、衝撃の真相。
(Bookデータベースより)



主は言われる。復讐はわたしのすることである、わたしが報復する、と。
<新約聖書・ローマ人への手紙>




「もし法律が死刑にできないのなら、私がします。麗を殺した犯人を私が死刑にします!」




「冤罪」というと、記憶に新しいのが某A市で起きたSさんの事件(いわゆるA事件)でしょうか。
先日、DNA再鑑定の結果、犯行現場に残されていたDNAと不一致という結果で釈放されました。
17年半も無実の罪で身柄を拘束されたSさん。
文字にするとたった4文字ですが、流れ去った17年半という膨大な時間だけは誰にも取り戻すことが出来ない。
Sさんの想いは、おそらく誰にも推し量れないのではないかと思います。


そして本作も似たような冤罪が出てきます。
5歳の少女を誘拐し、殺害遺棄したとして逮捕された23歳の柏木喬。
彼は懲役15年の出所後、自らHPを開設。
事件は冤罪だったと主張し、事件解決に向け情報を募るとともに、真犯人は名乗り出てほしい、と訴えます。
そして当時、自分の取調べを行った元刑事村上の周辺に頻繁に姿を現す。
また、被害者の母親・古畑聖子は事件後ずっと、心の奥からたびたび現れる「鬼」に苛まされ、15年を経ても心に潜む「鬼」は消えてくれない。


柏木は、本当に無罪なのか?事件は冤罪だったのか?
真犯人はいるのか?事件の解決によって古畑聖子の心に潜む「鬼」は消えるのか?



ミスリードさせたいためなのか、中盤からラストにかけ少し冗長に感じてしまいました。
しかし法律による裁きではなく、私的な裁き、いわゆる私刑について大いに考えさせられたので良かったです。
内容としては、登場人物のエゴイズムに辟易するかも知れませんが、人間の、とくに犯罪者の心理としては案外そういうものなのかもしれないと受け入れられました。
人間誰しも少なからず自分本位な自己の保身を考えるものだと思います。


加害者が、本当の意味で被害者の立場になって考えることが如何に難しいか、も考えさせられました。
幸い個人的には、裁判沙汰の加害者にも被害者にもなったことはありませんが、もしも当事者になったとき自分はどう考えるか・・・。もしも過失なき被害者であったならば。もしも過失なき被害者を出してしまった加害者であったならば。



今年5月には裁判員制度が施行されました。
人は人をどのような基準で裁くのか。



当事者ではないので想像の域をでませんが、本作のような私刑・・・、ある意味一番の刑なのかもしれない。
その私刑の執行(と呼べるのか?)が描かれてる場面の論理と説得力に心が震えました。
貴方なら、この私刑の審判をどうくだすでしょうか?



最後に郷原宏氏の解説から一文を。

神に代わって人を裁くことの恐ろしさに身が縮む思いをしているすべての読者に、私は黙ってこの本を差し出したい。


★★★★



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