サウス・バウンド | Book Review’S ~本は成長の糧~

サウス・バウンド

サウス・バウンド サウス・バウンド
奥田 英朗

角川書店 2005-06-30
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おすすめ平均

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★★★★★★★★★★



「ララピポ」に続く、奥田英朗さんの作品としてチョイスしたのはサウス・バウンドです。はじめは、500ページ以上もあるので、敬遠しそうになったのですがとても高い評価をもらっている作品なので、奥田英朗さんをお気に入りにするかどうかを判断するには良い作品ではないかということで、読んでみました。

伊坂幸太郎さんの「魔王」と読んだ時とはまた違った意味で、読んでよかった!と思える一冊でした。

恩田陸さんもキャラクターを描くのがとても上手いな、と感じたのですが奥田英朗さんもキャラクターを活き活きと描くのがとても上手な人だと思います。やはり、小説の面白さは登場人物の魅力が僕にとって一番大きな要素のようです。

家でゴロゴロしていて、ろくに働きもしない父親・上原一郎と息子であり、主人公の二郎。第一部では、東京での暮らしが描かれています。二郎に襲い掛かる災難。世の中には理不尽なことがあるということを認識していくとともに、友人と共にその災難を乗り越え成長していく。子供の視点で、悩みやずるがしこい考え方やひとつひとつの行動がしっかりと描かれていて好きです。

特に、ある事件によって家出を試みた時の、ワクワクとする冒険心と共に親から離れることの不安の描写は本当に子供の気持ちを上手く表現しているなと感じました。

また、第一部で少しずつ父・一郎の姿も見えてきて、巧みに第二部への伏線が張られていると思います。元過激派の闘士と呼ばれた過去を持ち、公安からも目を付けられている父。また、温厚な母・さくらの知らなかった過去を知る二郎。子供なりに、事実をひとつひとつ受け止めて成長していく様は素敵です。

第一部で印象に残ったのは別れのシーンです。

別れは、淋しいことではない。出会えた結果のゴールだ。

センチになるのはいつも大人たちだ。子供には、過去より未来の方が遥かに大きい。センチになる暇はない。

この二つが印象的でした。

第二部の沖縄編はもう最高です。沖縄に、西表に行きたくなってしまいました。

私有財産という価値観を持たない人々が住み、それぞれが助け合いながら生活していく。自給自足の暮らしの中で、一郎は人が変わったように働き出す。母・さくらもまた人が変わったように沖縄での暮らしを楽しんでいる。両親のようにすぐには変われないものの、次第に沖縄に順応していく二郎と妹・桃子。

もっと詳しく書きたいのですが、上手く書く力がないことと、書きすぎると一番面白い部分をさらけ出してしまいそうなので端折ります。楽をしているとも言いますが・・・。

一郎は本当に格好良いです。その生き様は、今の僕や現代の日本人には真似できないものがあるからこそ憧れるのかもしれません。また、「正しいと思うことを貫き通す」ことは非常に難しく、それだけの強い信念と行動力が必要とされることを、一郎の姿から感じ取りました。

右でも左でもない、だけど多くのメッセージが込められているこの作品は多くの人に読んでもらいたいです。的を射ている表現だと感嘆した箇所を紹介します。

左翼運動が先細りして、活路を見出したのが環境と人権だ。つまり運動のための運動だ。ポスト冷戦以降、アメリカが必死になって敵を探しているのと同じ構造だろう。

世間なんて小さいの。世間は歴史も作らないし、人も救わない。正義でもないし、基準でもない。世間なんて戦わない人を慰めるためだけのものなのよ。


強い父・一郎と母・さくらの子供たちも強く、逞しく育っていきます。子は親の背中を見て育つとはこのことを言うのだと。いろいろなメッセージが込められていると書きましたが、やはり、二郎の成長の様子が一番好きです。このおかげで、読後により一層すがすがしい気持ちになれました。

奥田英朗さんの力作だと思います。本屋大賞 のノミネート作品が発表され、この作品が入っていたので是非選ばれて欲しいと思います。

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