ベルカ、吠えないのか?
ベルカ、吠えないのか?
古川 日出男 文藝春秋 2005-04-22 売り上げランキング : 3,651 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
多くの書評で好評価をもらっているこの作品。表紙の写真がインパクト強すぎて敬遠していたのですが、このミステリーがすごい!2006年にランクインしたことから、読んでみることを決めました。
古川日出男さんの作品は初めて(初めての作家の方が多いですが)で、これまた今までにないタイプの書き方で新鮮でした。まさにニヒルという言葉が似合うのではないでしょうか。あとはハードボイルドとも言えるかも。
ストーリーは戦後になる少し前の日本軍が飼っていた軍用犬から始まります。この軍用犬の歴史を人間の歴史と上手くシンクロさせながら、フィクションとして仕上げています。人間とは違う点、犬の繁殖能力や血統の重要性、人生(寿命)の短さなどを巧みに表現しています。
それぞれの犬に人格(犬格?)を持たせ、思考させ、言葉を紡ぎ、行動させる描写はそれだけでゾクゾクさせる躍動観を生み出しています。多くの方が、感想で書いていますが、この犬の歴史を系統樹(家計図)としてしっかりと記録していきながら読んでいくと、この本の魅力は何倍にもなるのかもしれません。
しかし、僕自身がこの作品をあまり高く評価できなかったことは、犬の系譜がとても複雑であったから、というわけではありません。問題点は、犬の歴史と人間の話(現在)との文体のギャップと、最後のあっけなさにあります。犬のパートでは、本当に詩的で、感性をどこまで磨けばこのような文章を書くことができるのかと、感嘆してしまうほどの表現の上手さなのですが、これと普通のストーリーの平坦な書かれ方に違和感を覚えてしまいました。
また、軍用犬の歴史はとても興味深く、犬の名前との関連性や多種多様な人生(犬生?)は面白いのですが、あまりにも量が膨大で途中から食傷気味となってしまいました。
人類の歴史と共に歩んできた犬の歴史をフィクションとは言え、触れることのできるこの作品は教養を磨くには持って来いの作品です。
←ためになる書評ブログがたくさんあります