夜のピクニック | Book Review’S ~本は成長の糧~

夜のピクニック

4103971053 夜のピクニック
恩田 陸

新潮社 2004-07-31
売り上げランキング : 4,948
おすすめ平均

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★★★★★★★★★★

この作品は有名すぎるぐらい有名になった作品ですね。2005年度の本屋大賞 に見事選ばれた作品です。僕がこの作品のことを知ったのも、受賞してから店頭に山積みにされているのを見てからでした。この本屋大賞の「全国書店員が選んだいちばん!売りたい本」というコンセプトは見事に達成されているのではないかと思います。

高校生の貴子と融。二人には二人だけの秘密があります。しかし、その秘密は良いものではなく、その秘密によって二人の関係はギクシャクしたまま高校の3年間は終わろうとしていました。二人の通う高校では、毎年80キロを歩く「歩行祭」が行われます。そして、孝子は歩行祭である「賭け」をします。その賭けの結末は・・・

というのが、本当に簡単な物語の説明ですが、とても面白いです。ボリュームは300ページを越えるのであるのですが、次の展開がとても気になるので、一気に読み終えることができます。面白いのは、貴子と融だけではなく、登場人物それぞれの心理描写にあります。高校時代に感じたこと、思ったこと、若さによる些細な葛藤などなど、読んでいる人にとって共感するところが多くあると思います。そして、それらのやり取りひとつひとつが自分の高校時代を振り返り、ほほえましいような、恥ずかしいような気持ちにさせてくれる一冊です。

どうしていつもこうなんだろう。いつもあとから思いつく。いつもあとから感情が追いついてくる。やっぱりあたしはただの馬鹿なんだろうか。あたしのことを、クールだとかけだるいとか男子が言っているのは知っているし、自分でもそうなんじゃないかと思っていたこともあるけど、本当は単なるトロい無能な奴だとバレるのが怖いだけ。

これは途中に出てくる貴子の心の中の一部ですが、僕にとってかなり印象に残った部分です。僕自身が常日頃から感じている自分自身に対する漠然とした評価をこの文が見事に表現してくれた気がしました。まさに僕がこの貴子と同じ悩みを抱えていたし、現在も抱えているわけです。そして、

だが、正しいのは彼らだった。脇目もふらず、誰よりも速く走って大人になるつもりだった自分が、一番のガキだったことを思い知らされたのだ。

こちらは融の心理描写です。これも何だかスッと入ってくる感覚で心に残りました。高校生の10代は自分のまわりだけしか見れなくて、自分のまわりだけが世界だと考えていて、自分と誰か、自分と周りと比較することでしか、自分の居場所を見つけることができない。そんな若気の至り?のような経験は誰しも少なからずあると思います。

読んでいてどこか懐かしい思いにさせてくれる、昔を思い出させてくれる作品です。まさに青春の一冊。といっても僕はこんなさわやかな青春をすごしていません(汗)それにしても、読後の清涼感はたまらないものがあります。本屋大賞に選ばれたのも納得できる一冊です。

恩田陸さんの作品は初めて読みました。読み終えてから気付いたのですが、恩田陸さんは女性だったんですね。読んでいる時から、表現が女性ぽいなとは思っていたのですが、「陸」という名前ですっかり勘違いしていました。この本を読み終えたのは、3ヶ月以上前でだいぶ前なのですが、とてもいい本だったのでどうしても紹介したくて書いちゃいました。

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