パイロットフィッシュ | Book Review’S ~本は成長の糧~

パイロットフィッシュ

4043740018 パイロットフィッシュ
大崎 善生

角川書店 2004-03-25
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おすすめ平均

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★★★★★★★★☆☆

「聖の青春」を読んで、一瞬でファンになってしまった大崎善生さんの作品です。吉川英次文学新人賞受賞作ということで、期待に胸を膨らみつつ読みました。

◆あらすじ◆

主人公・山崎は「月刊エレクト」というアダルト雑誌の編集者。物語の始まりは、19年前に別れた由希子からの突然の電話だった。これがきっかけとなり、19年前の記憶の海に身を投げ出す山崎。

消えたようで消えていない記憶、忘れようと努めても忘れることの出来ない思い出の数々。

過去(記憶)と現在を行き来しながら、出会いと別れを考えさせられる。

自分なりの言葉で表現してみましたが、全然あらすじに触れられていませんね(^-^;

◆感性の集合体→記憶の集合体◆

あらすじでも触れましたが、この小説では「記憶」が大きなテーマとなっています(と僕が思っているだけかもしれませんが)。

人は若い頃は、好きなように自分の感性の赴くままに発言し、行動します。その姿は、恐れを知らない勇猛果敢な兵士の様相。

しかし、年を取るにつれて、その感性は鈍っていき「現在」ではなく、若い頃の「過去」に目を向けるようになります。

そして、過去の言動に後悔し、それを何とかして消し去ろうと努力します。それは決して勝ち目のない無謀な戦いであるにも関わらず・・・。それを象徴する人物がこの小説にも出てきます。山崎の旧友、森本はその戦いの果てにアルコールで脳を精神を傷つけてしまいます。

作中に出てくる一文がとても印象的だったので引用します。
唯一自分に大切なのは感性であり、その感性を振り回して生きていけばいいと思い込んでいた。

こんな感覚を覚える年齢はいつからなんでしょうか?まだ僕はその狭間で揺れる状態のようです。感性を振り回すことの恐怖を覚えることは、自分に守るものができたのか、振り回すだけの体力がなくなってしまったのか、理由は様々でしょうが、この感覚は年を取ることで避けることができないものの1つだと考えています。

大切なことは、作中でも書かれていましたが、それを自覚した上でどのように付き合うのか、になるんじゃないかと思います。

◆人は、一度巡りあった人と二度と別れることはできない◆

この見出しは、文庫の裏表紙にも書かれているこの作品の最初のフレーズです。

記憶」をテーマにするとともに、もう一つのテーマとして「出会いと別れ」がこの作品では描かれています。

つまり、人は一度出会うと(物理的に)別れたとしても、記憶の中では存在し続けるということですね。

これ以上書くと、内容がバレていってしまいそうなので、このあたりで感想は終了したいと思います。

最後に、印象的だった箇所を引用して終わります。

本当に偉い人間なんてどこにもいないし、成功した人間も幸福な人間もいなくて、
ただあるとすれば人間はその家庭をいつまでも辿っているということだけなのかもしれない。


100円コーナー

アジアンタムブルー 」が続編のようですね。みなさんのブログを見てみると、「パイロットフィッシュ」ほどの評価は得られていませんが、やはり続編というものは気になるので購入して読みたいと思います♪