ホームレス入門 | Book Review’S ~本は成長の糧~

ホームレス入門



著者: 風樹 茂
タイトル: ホームレス入門―上野の森の紳士録
★★★★★★★★★☆



僕は大学で居住問題を考える学生NGOに入っています。その活動で韓国とフィリピンに家建設にも行きました。海外での経験はとても濃いもので考えさせられました。

しかし、それ以上にショックだったのが昨年の冬に訪れた釜ヶ崎での経験でした。たった2泊3日だけでしたが、一日過ごしてそこに住む人たちが普通の人であること、確かに生きていることがショックでした。

「当たり前じゃないか」と思う人は視野の広い人です。僕自身、ボランティア活動をしていて理解があるつもりでしたが、自分の目で見ることの経験の大きさの違いは天と地の差がありました。

前置きが長くなってしまいましたが、この本の舞台は大阪ではなく上野公園です。作者が失業して、息子と上野公園にフラっと入り込んだのが始まりです。作者が失業保険を受けながら約一年間、上野公園で出会った人たちとのドラマがこの本には詰まっています。

◆あらすじ◆

この作品は時間軸に沿って書かれています。時は2000年、作者が43歳の時の出来事です。3歳の息子と共に初めて上野公園に足を踏み入れた彼はヘミングウェイという名前を作者に付けられた老人と出会います。

時には親方にビールをおごる約束を忘れてしまったせいで追い掛け回されたり、公園で炊き出しをしている韓国系の教会に乗り込んでみたり、アルゼンチン日系移民のウーゴに振り回されたり、とその生活は読むものを飽きさせません。

作者は自分の経験を活かし、ホームページによって日本のホームレスの現状を伝えようと考えます。それを実践するために積極的に様々な人と出会い、質問を投げかけます。そして、争議団や警察署、公園管理事務所などにもインタビューを行ったり、大衆団交に参加したりするなど、よりホームレスに近い立場から情報を集め思考します。

最初から最後まで読んで見ても、普通の小説のような読後感を読者には与えないでしょう。しかし、この作品全てがメッセージを持って訴えかけてきます。

◆感想◆

まだまだ自分の知らない世界があることに気付かされる一冊でした。就職活動が終了すれば、日本を一周することを計画しています。それはもっともっと日本という社会を知る必要があると思うからです。実社会に出る前に見ることは絶対に意味があると信じています。

この本を手にしたのは、僕が大学生活で居住問題に関する活動をしているという背景を持っていたからでした。そういうこととは関係の薄い方が手に取る確立はかなり低いと思います。しかし、少しでも興味のある方は読んでみて欲しい一冊です。一方的な押し付けがましい価値観を本の中で主張するわけではなく、あくまでも自分の経験を書いておられます。タイトルにも入門とついていますが、この本は入門書として最適な一冊です。

読んでいる最中に、作者の行動や対応にイライラさせられることもありましたが、それは作者が何もかも包み隠さずに、素直に嘘をつかず書かれたからだと最後に気付きました。実際、後半部分は作者の行動力に感心ばかりしてしまいました。ここまで自分をさらけ出して書くことが出来るなんて一つの才能だと思います。

僕も作者と一緒でヘミングウェイのおじさんが好きになっていました。最後におじさんと再会したとき、僕もあったかい気持ちになりました。

巻末には、資料集として作者が考えた政策提言がされています。文庫版あとがきに書かれていたのですが、行政もこの政策提言を参考にいくつか実行に移しているようです。作者の行動が本が、そして何よりこの本の登場人物一人一人が国を動かす力となったんだと感じました。

内容量も抱負なので、かなり気合を入れて書いてしまいました。もう少し端的にわかりやすく書きたいのですが、まだまだ書き足りないぐらいです(^-^;それに今日の書評はかなり満足しています(笑)