生きながら火に焼かれて / スアド | 活字中毒

生きながら火に焼かれて / スアド

女の子には学校に通う権利はない。そもそも、権利と呼べるもの何ひとつない。ひとりで歩く自由さえも与えられない。その村では女の子として生を享けること自体が不幸なことなのだ。男たちが勝手に定め、盲目的に守り続けてきた法に従い、朝から晩まで家事、畑仕事、家畜の世話を奴隷にように黙々とこなし、十代の後半にさしかかる頃には親の決めた相手と結婚し、夫となった者に服従しながら男の子を産まなければならない。女の子ばっかり産んでいると夫から捨てられる。娘は二、三人はいてもいいが、それ以上は必要ない。


こんな国が現在も存在していることは知っていましたか?私は漠然と知ってはいましたが、ここまでひどいとは知りませんでした。著者のスアドは中東シスヨルダンの小さな村の生まれ、父親に絶対服従しながら生きてきていました。しかし、この法律の恐ろしいのはこんなことではありません。日本では考えられませんが「名誉の殺人」というものが存在しているということです。家族の評判や名誉を傷つけた者は家族会議で殺すことを決められてしまうんです。それも実の親や兄弟の手によって。実際、手を下した男は「英雄」として近所からも賞賛されるとのことです。これが名誉の殺人なのです。


スアドは17歳のときに恋をします。そして未婚で妊娠してしまうのです。それを知った家族によって、彼女は生きたままガソリンをかけられて火をつけられてしまいます。この村では結婚前の女性が恋愛をしたり、婚前交渉をすることはとても恥だと考えられていて、家族に恥をかかせた娘は殺しても良いというルールがまかり通っているのです。スアドはとても幸運なことに「出現(シュルジール)」という団体のジャックリーヌによって助け出されます。しかし家族にとっては名誉の殺人が失敗に終わったということは、とても恥なのでスアドの命を狙っているらしいのです。だからこの本も匿名だし、顔は出していません。この名誉の殺人は本人が死ぬまで追い回すことがあるそうですよ。


こんなことが普通に行われている国があるという事実が衝撃的でした。女性の価値というものがとてつもなく低く、男性にとっては殺人すら名誉になる。私は生まれてからずっと日本で暮らしているので男女平等であるという考えしかありません。でも、この国の人々にとっては女性なんて価値のないものなんですよね。労働力であり、息子を産むための道具でしかないわけです。しかも、そんな待遇に対して反論することも許されないのです。


決して娯楽として読める本ではありませんが、とても勉強になりました。こんな考え方の人がこの世の中にいて、とても苦しんでいる女性たちが数多くいるという事実。年間6000件もの名誉の殺人が行われていること。文化の違いや宗教の違いなどが原因なので「やめて欲しい」と彼らに訴えたところで、これらの風習が突然なくなることはきっとないのでしょうね。今すぐに私が何かできるわけではありませんし、日本が平和でよかったと安心する気持ちにもなれませんが、私は読んでよかったと感じています。


タイトル:生きながら火に焼かれて
著者:スアド, Souad, 松本 百合子
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