ぬけぬけと男でいよう / 内田春菊 | 活字中毒

ぬけぬけと男でいよう / 内田春菊

春菊さんってば、どうしてこんな男を描かせたら上手なんだろう。昔からこの疑問はあったんだけど、相変わらず同じ疑問を持ってしまう。この本に出てくる主人公は女から見たら本当に最低!でも、こんなやついそうだし・・・。こんなに男心に精通している春菊さんってば実は男!?って聞きたくなるほど、心理描写が上手です。あ、でももちろん女の嫌な性格もぞっとするほど細かく書かれています。人間の嫌な部分を抜き出すのが上手なんでしょうね。


ここのところ彼女の作品は自分の離婚にまつわるものが多く見かけられ、私的にはイマイチ?な作品もありました。が、これは久しぶりに「やっぱり面白いの書けるんじゃん♪」といった感じで一気読みしてしまいました。


主人公は結婚して、妻と娘がいる十布。娘の橘香が一番大切。でも、恋人の萌実もいる。妻は浮気を知っていながら離婚をする気はなく、娘を盾にして十布を責めます。「あなたの浮気のせいで、橘香は心療内科に通うようになった!」と言われたのをきっかけに、萌実と別れようとするのだけどズルズルと引きずってしまうんです。そんな中、魔夕という新たな恋人まで作ってしまいます。3人(娘も入れると4人?)の女性の間で、束縛されているように見えながらぬけぬけと自分の好きなように生きている男の話。


夫の浮気を責めながらも、夫に愛情もたいしたなくなっている妻。でも、娘が大切だから離婚は避けたい十布。別れなくちゃいけないと思いながら、萌実の熱烈な求愛に流されていく十布。どうして誰も自分の気持ちをわかってくれないんだ!と、新しい恋人である魔夕に優しさを見出す十布。どれも本当に嫌な男の心理。十布って私から見るとものすごく自分勝手なんです。でも、自分が好きなようにやっているとは思ってない。結婚してて、娘もいて、離婚する気はないのに浮気相手はいて。浮気相手とうまく別れられずにイライラしながらも、新しい浮気相手を作ってしまう。ずうずうしいというか、なんというか・・・。でもね、読んでいるとなぜか憎めないんですよ。本人にまったくといっていいほど悪気がないから。もちろんえー、こんな男は嫌だって思いますよ。でも、彼が思ったようにチクチクと嫌みったらしく夫の浮気を責める妻も嫌だし、こんなズルズルとすがる浮気相手も嫌だし。どちらも同じ女性として痛すぎるんです。十布に同情できなくもないなぁと。


春菊さんの作品で好きだなと思わせてくれくれるところはココなんですよ。すっごく嫌な男だと思うんだけど、その周りにはちゃんと嫌な女もいて男が悪い!って糾弾しているわけじゃないんです。きっと春菊さんが基本的に男性全般に愛があるんだろうなぁって感じます。どんな嫌なタイプの男にでも、愛情を持って作品に書いてある感じ。突き放してないんです。だから読んでいるこっちも「まったく、しょうがないなぁ」って思っちゃうんですよ。世の中の男性が十布のような考えの人ばかりではないと思うんですけどね、男性の中にはこういう部分って多かれ少なかれあるんじゃないかなぁなんて考えさせられてしまいました。


ちなみに、楽天ブックスに春菊さんがこの本についてインタビュー を受けている記事がありました。


タイトル:ぬけぬけと男でいよう
著者:内田 春菊
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