【「本は “差異の迷宮”を抜け出し 相手にたどり着くために」 ~思考する芸術家 ホジェル・メロ ~】



2014年に「小さなノーベル賞」といわれる「国際アンデルセン賞」を受賞したブラジル人画家・ホジェル・メロ氏による講演会。
講演タイトルは、

『本、それは差異の迷宮』 (7/23@国際子ども図書館


ポルトガル語の通訳は山﨑理仁氏でした。



開会の挨拶で、国際子ども図書館の本吉館長より
「日本では南米の本や絵本はあまり知られていない。知るきっかけとなれば...」との言葉がありました。





ちなみに現在日本語版で出ているメロ氏の絵本は、現在こちらの作品のみ。
中国で出版され、世界中で翻訳されています。


☆『はね』

(曹 文軒(ツァオ・ウェンシュエン)/作 ホジェル・メロ/絵  濱野京子/訳 2015年 マイティブック)



この絵本『はね』は、
大人の世界の入口で、戸惑い悩んでいる
大きな子どもたちへの「心の物語」。

小さな子どもたちには、悲しみの先の希望を
大人の読み聞かせで、見つめてもらいたい「心の物語」。

(出版社ホームページより)



こちらの『はね』(マイティブック)については、以前ビジネスパーソン向けのサイトの中で紹介させていただいております。よろしければご覧ください。


☆DODAキャリアコンパス15/12/11記事【大切な事は絵本が教えてくれる】http://doda.jp/careercompass/compassnews/20151211-14602.html


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ブラジリア出身のメロ氏。
まずは自身の創作のルーツについて説明されました。



このブラジリアという街はかつて建築家のオスカー・ニーマイヤーとルシア・コスタらにより「芸術の街」として設計されましたが、その後の軍事政権によってすっかり変えられてしまったそうです。

氏の育った時代にはすでに様々な表現・哲学書も排除された後であったといいます。
しかし、

「思想は街の中に「線」としてしっかりと残されていた」(メロ氏)

「思考」が紙の上の「線」につながる...

「「絵を描くこと」は、「線を描きながら思考すること」と学んだ 」(メロ氏)




またデフォルメされた人物や建物の「形」や衣装の「色」は、様々な宗教...信仰、人種など“差異”の表現として用いられることが多いとのこと。





自身のあるいは他の表現者による様々な仕事、(ブラジル国内でまだ存在するという)〈児童労働〉をテーマに描いた作品等に触れながら、


芸術の中に哲学的な要素を読み取ることの重要性・差異を読み取ることの重要性について 一貫して語られました。




メロ氏にとって、

「”絵“と”言葉”に違いはない」(メロ氏)


・・・この発言はかつて、イメージ...偶像崇拝を禁ずる宗教の人からの脅迫につながったこともあるとのことでした。




「“差異”に対する敬意を獲得するための戦い」
(メロ氏)こそが重要であり、


「“唯一のメッセージ”というものがあるわけではない。もっと様々な問いかけを作品にこめている」(メロ氏)

と力強く語られました。
そして氏の表現のひとつの形として、



「“本”は、差異の迷宮を抜け出し相手にたどり着くためのもの」(メロ氏)

と意味づけられました。


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最後の質問タイムでは来場者からの「子どもにメロ氏の本を読むときの活用法は?」と聞かれ、「ない。ご自由に」と苦笑いされながらも、


「読者は作者の考えを覆すような読み方もできる」のであって、

「“読むこと”は、“覆すこと”である」(メロ氏)

といった言葉も聞くことができました。


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画家であるメロ氏。しかし絵だけではない。

言葉にも圧倒的な力があります。

あらゆることへの問いかけを決して止めない...さすがは国際アンデルセン賞画家と思わずにいられない、思考を刺戟されるような内容でした。
無数の葛藤や迷いの中で苦しみながら自身の「表現」を追求し、このような哲学を獲得するに至ったのであろう...「本物」に出会えた感動の余韻が今も残っています。


これからの活動に生かしてまいりたいと思います。


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講演終了後に『はね』(マイティブック刊)にサインをいただき、レセプションパーティーでは直接今日の感動と作品への思いをお伝えする機会にも恵まれました。


ホジェル・メロ氏、マイティブック松井さん、国際子ども図書館の皆さま、素晴らしいひとときをありがとうございました。





絵本コーディネーター 東條知美