ご無沙汰してます。
ずっと眩暈が治まらないため養生してたせいで話が書けませんでしたが、今日は何だか調子がいいみたいなのでちょっと思い浮かんだ話を書き上げることが出来ました。
とはいってもたったこれだけで半日以上かかってますが・・・。
そんな時間をかけた割にはおバカな話ですが、よろしければどうぞ。



正しい記憶喪失のススメ【蓮バージョン】



「あの・・・あなた方は・・・そして俺は誰なんでしょうか?」

四方を白い壁に囲まれた部屋のベッドで頭に包帯が巻かれた状態で目覚めた青年は、起き上がると端正な顔に不思議そうな表情を浮かべそう口にした。
それを聞いた途端、室内にいた者全員が目を見開き呆然としてしまう。
だがその中で最年長の派手な出で立ちをした人物は、他の誰よりも早く状況を把握したのか確認するように問いかける。

「・・・冗談とかではなく本当に分からないのか?
我々のことや自分の名前、そして何故ここにいるのかについても・・・。」

その言葉に頷く様を見て、ため息をついた彼は徐に話し始めた。

「どうやら厄介なことに記憶喪失のようだな・・・。
何も分からないままだと不安だろうから、簡単に教えといてやるとするか。
まずはお前自身についてだが・・・敦賀蓮という名で人気・実力共に若手No.1俳優、そのためスケジュールは詰まっていて超多忙な日々を送っている、とまあざっとこんなところか。
で、そんなお前がどうして病室のベッドで目覚めるはめになったかというと、撮影時のカースタントで事故ったかららしい。
まったく・・・今言ってもしょうがないことだが、並外れて運動神経がいいだけに自分を過信しすぎてこうなったことを念頭に置いとけよ。
とはいっても、その運動神経のおかげで頭を強打した以外には大した怪我もなく済んでるんだが・・・。」

でもそれで記憶を失くしたんじゃ本末転倒もいいところだなどと呟いた男は再び説明に戻る。

「それじゃあ次に俺たちのことにも軽く触れておこう。
最初に説明するのはもちろんこの俺、ローリィ宝田についてだな。
俺はお前が所属しているLME事務所の社長で、日々愛の大切さを叫んでいるからか“愉快な愛の伝道師”と皆に呼ばれているぞ。
で俺の横にいるのが、お前のマネージャーを務めている社だ。
コイツはお前より5歳上の28歳で仕事的には優秀なヤツなんだが、どうも機械と相性が悪くてすぐ壊してしまうことからついたあだ名が“マシンクラッシャー”だったりする。
そしてお前の向かって右隣にいるのが・・・。」

まだ紹介の途中であるにも係わらず、不意に固まるローリィ。
彼のその態度を不審に思いその視線を辿った社や蓮も、即座に己の行動を後悔してしまう。
そう・・・何故ならば彼らの視線の先には、禍々しいオーラを放ちにっこりと微笑むキョーコがいたからだ。
彼女は周りの男たちが一様に顔を引き攣らせていることなど気にも留めずに、綺麗な笑顔のまま口を開いた。

「・・・遡ること約2年前、恋なんかしたら愚かなバカ女になると思っていた私に、再びその感情を抱かせ1年以上かけて育んだのは他ならぬ貴方でしたよね。
“俺には君が必要だ、君がいないと生きていけそうもない”なんて、大げさな台詞を口にして私を恋人にしたのも・・・。
なのに・・・人に散々心配をかけた挙句“あなたは誰”って、何ですかソレは?
ふざけるのもいい加減にしてほしいんですけど。」

一旦ここで言葉を切ったキョーコは、さらに目を細め穏やかな口調で付け足す。

「まあ忘れてしまったものは仕方ありませんから、一刻も早く思い出すようしっかりと努力していきましょうね?
そのためなら私も協力を惜しみませんから・・・。」

優しげな口ぶりなのに有無を言わせぬ迫力が感じられ、気付けば蓮は首を縦に振ってしまっていた。
そんな彼を含めた男たちの脳裏には、早く思い出さないとどんな手段を用いられるか分からないので危険といった、強迫観念にも似た思いが浮かんでいたらしい・・・。

それから1ヶ月後。
無事記憶を取り戻した蓮に周囲の人はどうやって戻ったのか聞きたがったのだが、決して経緯について語られることはなかったという。
ただこの出来事以降たまに見られるようになった、危険なシーンをスタントマンに任せている彼の姿から、何となくだが悟った彼らは問いかけないようになっていったのだった・・・。



おわり



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