少し前になりますが、日本ラグビー協会の方とお会いし、JARTAトレーニングに関するラグビーのパフォーマンスアップにおける可能性についてお話ししてきました。






あまり知られていないかもしれませんが、日本ラグビーの世界における立場としては、すでに世界トップ10に位置しているほど高いのです。

そして2016年からはスーパーラグビーという世界屈指の大会に日本のチームが公式参戦することも決まっているのです。






それだけ最近の日本ラグビーは力をつけてきていますし、僕は今後の発展に非常に期待しています。






実は今回のラグビーW杯に向けて何人かのトップ選手を分析する機会をいただき、動きをじっくり見てきました。

しかしながら、ニュージーランドやオーストラリアを始めとする世界トップクラスの国々の動きと日本の代表クラスの選手の動きはまだ本質的な能力という視点では遠く及ばないと言えます。






当然競技ですから、「動き」以外にも勝敗を決する要因は多岐にわたり、それらの総合的な結果として試合の勝敗が決まるので、力の差が選手の「動き」だけにあるとは言えません。






ただここでは、「人間の動き」を専門とする僕の立場からは「動き」という観点で話を進めるのが妥当かと思っています。






ですので、あくまで勝敗を決する全ての要因のうち、「動き」に焦点を絞った内容となることをご了承ください。






まず、下記記事にあるように、ラグビーの日本代表は過去に日本独自の強みを手にいれるために古武術家を代表チームのトレーニング指導者として招き、古武術の動きをラグビーに活かすための取り組みを試みたことがあります。

http://number.bunshun.jp/articles/-/823074






しかしながら、それは期待されたような結果を生み出さなかったそうです。





なぜなのでしょうか。






古武術をはじめとして、合気道など武道・武術の技術体系の中には「柔能く剛を制す」など、体格や筋力でおよばない相手に対してでも相手を制するというものが多々存在します。

小柄な武道家が大柄なスポーツ選手を圧倒する場面を見たことがある方もいらっしゃると思います。






そういった場面を目の当たりにすると、当然「これは大柄な欧米系の選手に対抗するための希望となる」という発想にたどり着きます。

普段から欧米とのフィジカルの差をどう埋めるかが念頭にある方としてはごく自然な話なのです。






そして武道のエキスパートに指導を受けた。

それなのに、良い成果を得ることができず、結果として継続することは困難になっている。





なぜなのでしょうか。






以下は僕なりの一つの答えです。


それは、「武道家の先生がラグビーを理解していなかった」ということです。

指導の導入に際して、恐らく、武道的な身体の使い方や動きを理解・体感してもらうために、選手を相手にデモンストレーションを行ったと思います。







そして恐らく、ラグビー選手は太刀打ちできなかったはずです。

であればその場では誰でも「ラグビーで使える!」と思うはずです。






しかし、ここには大きな落とし穴が存在します。

何かといいますと、「そのデモンストレーションはラグビーではなく、武道・武術だから」です。






武道家、しかも達人相手に、武道・武術をやったこともない選手がそもそも太刀打ちできるはずがない、という前提を見失っているのです。






つまり、それに気づかず武道・武術のトレーニングを継続しても、残念ながら「武道・武術ができるラグビー選手」が出来上がるだけです。






なぜそうなってしまうのかというと、武道家の先生を含めて指導側が「ラグビーの運動構造を理解していなかった」のが原因です。






いくら武道・武術の概念が有効だからといって、その全てがラグビーに活かせるはずがありません。





であれば、「両者の相違点・相同点を明確に分析し、合致する部分をどうラグビーに活かすのか」「相違点をどう排除するのか」という観点が導入の大前提として必要なはずです。






これは武道・武術の導入だけでなく、全ての他種目競技トレーニングの導入(クロストレーニング)において、効果を得るためにはなくてはならない視点です。

それどころか、その運動構造の理解をないがしろにすると、他競技トレーニングによってパフォーマンスが低下することもあり得るのです(マイナスの学習)。






昨今、武道・武術の概念の導入やクロストレーニングの導入が多くみられますが、本当にそこで提供されるトレーニングが本来の競技の運動構造にフィットしているのか、厳重に考える必要があります。






代表合宿、国際大会、そして選手生命は本当に短いです。

その中でいかに無駄な努力をしないか、させないか。

それが我々の命題です。






日々なんとなくやってきている、常識とされるトレーニングにおいてもこの観点は非常に重要なので、ぜひ一度考えてみてください。







JARTA

中野 崇