夕方になり薄暗くなるまえから我が家では、ようやく昼中は消していたストーブに火を入れて…どこからともなく ねこ は帰宅すると、ストーブ前・コタツ布団の角を広げた「おザブ」に寝そべる前にストーブの横に前足を立てて座り、家族の誰彼となくそばを通りかかる顔を見上げてはもの欲しそうに鳴く。


柱から猫ブラシを取り、ねこ に見せながら「ブラッシング?」と言うと、ねこ は「ニャーーーーーーーーーーー」と長く鳴き、こちらも何か話しかけながら、まずは背中から逆毛を立て始めたところ。


ねこ が急に位置を変えて部屋の隅にある隣の部屋への猫専用通用口に向かって背中を低くして「伏せ」の体勢をした。廊下に何か気を取られているな、と思うまもなく、廊下の向こうの端の辺りで物音がした。


そっと廊下への扉に近付き、出し抜けに扉を開け、「コラッ!」とひと声たてると、廊下の突き当りには、ときどき我が家の屋内に侵入して ねこ のゴハンを食べ逃げする、例の赤い首輪をつけた小柄なオスのトラ猫が、大慌てで戸外への猫専用出入り口から脱出するところだった。


また出没するようになった、ということは、猫たちの春が始まったということかしらん。


居間にいる ねこ は、相変わらず背中を低くしたまま気を集中して廊下の様子をうかがっている。


「もういないよ、大丈夫だよ」などと声をかけ、ブラッシングを続ける。横倒しにし、仰向けにし、全身をマッサージしながら水をつけた手で抜け毛を取り、仰向けにして人間の赤ちゃんのように抱きしめるころには、赤首輪のことはひとまず忘れたかのようにうっとりと腕の中でくつろいでいたかしらん。