近代化と世間  | 新書野郎

近代化と世間 




阿部 謹也
近代化と世間―私が見たヨーロッパと日本 (朝日新書)

西洋史の泰斗であった阿部謹也の文字通り「最後」の書き下ろしだとのこと。人工透析の話などもあるのだが、あとがきの日付から2ヵ月後に亡くなられた様だ。それにしても、「近代化と世間‐私が見たヨーロッパと日本」というのも、文字通り、著者の最後の仕事らしい内容である。著者のいうところの「世間」が、日本の特殊的事情なのかどうかは、まだ議論があるところなのだが、西洋起源の学問を「世間」で教えなくてはならない大学の矛盾というものが、著者のテーマであったことが窺われる。その辺の事情は「自伝」に詳しく記されている様だが、輸入学問である西洋史の影の部分にも光を当てたことで、日本の「特殊性」も相対化したものの、なおも残る違和感を「世間」という答えに求めたのかもしれない。古来、日本と同じ様な「世間」が支配したヨーロッパ世界が、近代化とともに「個人」の世界に移行したとするなら、日本も、またその道を進みつつあるとみるのは自然だろう。ただ、幸か不幸か、唯一神との個人契約という条件を欠いた点が、経済的成功も、社会的矛盾も引き起こした要因なのかもしれない。いずれにしても、「西洋」を教師として捉えるのか、反面教師とするのかも、西洋という規範に則った学問で追求しなくてはならない。ある意味「オリエンタリズム」と同質な問題提起であったとは思うが、それが、日本の「世間」に関心が移ったというのも、日本的な「内向き志向」に拠るものだったのかもしれない。
★★