ドリアン | 新書野郎

ドリアン



塚谷 裕一
カラー版 ドリアン―果物の王

中公新書のカラー版、植物編。タイトル通り、丸ごと一冊ドリアンの話。著者は植物学の先生なので、一応、学問的な講釈もあるのだが、このお方、実は大変なドリキチらしい。ということで、ドリアンは臭くないという主張から始まり、素人には難しいドリアンの選び方も指南してくれるし、ドリアンの品種から、歴史から、何でも教えてくれるので、かなり面白く読めた。持論として戦前の南洋研究を評価しているらしく、バナナやマンゴの高級果物説も、戦後の伝説に過ぎないと一蹴する。そういったことと関係しているかどうか分からぬが、日本人のドリアンに対する偏見も何とか是正したいという意思が痛いほど伝わってくる。私はむしろ偏見というか未知なのではないかという気がするのだが、ドリアンが好きと公言する日本人は著者の様な真性の人は少なく、所謂、なんちゃって「現地化」の人たちに多いのではないかとも睨んでいる。私自身のドリアン初体験はスリランカであったということもあって、よく言う「チーズの腐った匂い」ではなく、「ガム」という印象だったのだが、味云々より、強烈なドリアン体験は、やはりマレーシアであった。ある日ペナンで知り合った華人グループにドライブに誘われ、どんどん山道を上っていくと、何もない山中にいきなりドリアン屋台が数件並ぶところに出た。それまで陽気に喋っていた連中は車から降りると、戦闘モードに入り、物凄く真剣な顔付きでブツを吟味。それが約一時間続き、ただならぬ気配に不安を感じたところで、おそろしく大量のブツ(トランク一杯分)を購入。出発しても終始無言で、猛スピードで山道を下る。何か危険な匂いを感じたが、急カーブで林道に入ると、いきなり秘密アジトみたいな小屋に到着。そこに大量のドリアンを運び入れると、驚愕の饗宴が始まったのだ。(続く)
★★