不機嫌なメアリー・ポピンズ | 新書野郎

不機嫌なメアリー・ポピンズ

著者: 新井 潤美
タイトル: 不機嫌なメアリー・ポピンズ―イギリス小説と映画から読む「階級」
イギリスの文学作品や映画に欠かせない階級ネタを考察した新書。著者は5才からイギリス(香港)の学校育ちというカズオ・イシグロの様な人だが、実際にイ シグロの通訳を務めた事があるらしい。イギリスが階級社会である事はようやく日本でも「常識」になってきたが、実は従来の貴族階級、労働者階級といった色 分けで語られる構造は解消されつつあるらしい。代わりに使われるのが万国共通の、アッパー、ミドル、ロウアーで、このカテゴライズを使って、アッパーのミ ドルとかロウアーのアッパーといった具合により細分化される。こうした現代社会ではコックニーを使うベッカムも、その財力によって「ベッカム様」となる事 は可能になった。しかし、伝統的な階級意識は個人のアイデンティティに転化し、その価値観は階級がいくら階級が上下しようと不変なものであるらしい。この 本はオースティンから『ハリー・ポッター』まで様々な例を以って、作品に込められた階級の意味を解説してあるが、日本人がこのテーマについて完全に理解す るには、著者やイシグロの様なバックグラウンドが必要であろう。米国人も無理だそうで、小説『時計仕掛けのオレンジ』はアメリカ版とイギリス版の結末が異 なるとか(キューブリックの映画はアメリカ版を採用)。その一方で、インド系をはじめとするイギリスのマイノリティは、英国式階級意識を取り入れているら しい。これも祖国に似た様なシステムがあるからか。しかし、イシグロの『日の名残り』はイギリス人に言わすと「ありゃ偽もの」だとか。やっぱり日系には無 理なのか。
★★