減らせ体重!バーチャルレースは異種格闘技!【緊急速報 その4】 | 自転車で糖尿病を克服した!

減らせ体重!バーチャルレースは異種格闘技!【緊急速報 その4】

【前回からの続き】


A子は遅れていた。


他の3人はとっくの昔にはるか先へと行ってしまった。


苦しい。きつい…。


ここは最後の7パーセントの登り坂。すでにトリプルのインナーロー(30×27)を使いきってしまっている。


普段、それほどの距離を乗ってないのだもの…。いきなり16kmのレースだとか、タイムトライアルとか言われても、そんなのできる訳ないじゃない…。あたしはただ楽しそうだから来ただけなのに、もう坂道もあるし、そんなに馬鹿みたいに力が出せるわけないじゃない…一番左の女の子だって、いつも大弛峠を往復したりしてるらしいし、B夫にしたって、毎月何百キロも乗ってるし、そんな人たちと同じに走れるはずがないじゃない…


えーん…(-_-)


だけどA子はがんばった。もうみんながゴールしてても、自分ひとりで走っている状況になっても、7パーセントの坂道がどんなにキツくても、最後までは走る。これまでもそんな生き方をしてきたから、今回だってそうする。


あと少し…。A子がんばれ!そんな声援が聞こえてくる。あと1km。あとちょっと…。


A子がこの16kmバーチャルレースで最後のがんばりを見せているそのとき、B夫と他の2人(ヤングライダーと軽量級女性ライダー)はすでにそれぞれのバイクを降り、最終走者であるA子の最後の一踏ん張りを見つめていた。


トレーナーもA子に声援を送る。


7パーセントの坂道で大きくスローダウンしたA子のキャノンデールは、それでもその後の平地でなんとかスピードを立て直し、もう視界に入っている(はず)のゴールを目指し懸命の走りを見せる。


「あと100メートル!」


「あと50」


「あと20」


「やった!お疲れさま!」


何の華やかさもない。観衆もたったの4~5名しかいない。見ようによっては単なるローラー台の練習だ。だがこの瞬間、船堀にあるこのセミナールームは、ほんの15分ほど前とは全く異質の感動に包まれた!


全員から拍手が起きる。


A子は泣いてはいない。本当はただ辛かっただけなのかもしれない。もしかしたら、それを“感動的”という言葉でくくること自体、すでに違うのかもしれない…。


自転車のトレーニングが全く不足していたA子にとって、約50分間も無休憩で過酷なコースを走り続けるなんてことはまさに“想定外”だったろう。だけど彼女はひとことも弱音を吐くことなく、きっちりと“完走”したのだ。B夫はちょっとだけA子にすまない…と思った。


実は、A子のこのがんばりこそが、今日一番の“偉業”だったのかもしれない…。B夫は、ほんの15分前のあの“個人的感動”がちょっとかすんだような気がした。


ほんの15分前のあの個人的感動…


そう、B夫とヤングライダーの稀に見るデッドヒートのことだ。


実際、最後の最後まで勝負はわからなかった。最終的についた差は僅か3秒。距離に直すと30メートルほどだろうか。勝者は、最後のゴールの瞬間には両手を上に上げ、バンザイの姿勢をとりながらゴールした。そんな動作が無意識で出てしまう程の苦しく、激しい戦いだったのだ。


ちょっとその勝負を解説する。


しかしここまで体重差がレース展開に明らかに影響を及ぼすとは…。知ってはいたが、それでもやはり驚きだった。まるで絵に描いたように、平地(&下り)と登り坂で勝者が入れ替わった。そしてそのパターンは最後まで変わることがなかった。


体重は自転車レースにおいては、致命的な意味を持つ!(いや、何も体重が多いのが悪いと言っているわけじゃない)それを徹底的に再確認するサンプルともなるレースだった。それだけの体重差と脚質の違いがありながら、ついたタイム差はたったの3秒史上空前の“異種格闘戦”だったといえないこともない。


平地ではすべてB夫が先行した。平地が長ければ長いほどその差は広がっていった。得意になったB夫は下りと見るとさらに全力で踏んでいったのだから、その距離はどんどん開く。


だが、それが登り坂となると状況はきれいに逆転する。勾配が急であればあるほど、B夫は見事に失速し、ヤングライダーはB夫との距離を急速に縮める。そして坂道の終わりまでにはB夫に追いつき追い越す。


これが何度も繰り返されたのだ。だから、B夫にとって一番の難所である最後の7パーセントの登り坂を前にしたとき、最初の仕掛けを行った。坂道前の平地と下りを、今までにも増して強力にダッシュ、つまりアタックし、ゴールまでそのまま逃げ切る作戦に出たのだ。


だが、ここでB夫の課題が浮き彫りになった


スタミナ不足だ。ハイパワーの長時間持続力が課題なのだ。


結果的に、7パーセントの急坂でB夫は以前にも増して失速し、見事にヤングライダーに捉えられることとなってしまった。


あぁ、哀れなB夫よ、またやっちまったか…。これで勝負はついたな…。ヤングライダーよおめでとう!とB夫自身も思った。


だが、ここからが今日のB夫の違うところだった。B夫は最後の力を振り絞り、そのままスリップストリームを利用してなんとかそれほど差をつけられることなく坂道を走りきると、それに続く平地では以前のようにダッシュしないでヤングライダーの後方1メートルの距離をずっとキープし続けたのだ。


B夫がヤングライダーの前に出たのはゴール前、ほんの200メートルになったあたり。それまでは“付き位置”を決め込んだのだ。まぁ大人ならではの“思慮深い”作戦といえば聞こえはいいが、坂道で力を使い果たしているのだからそれしかできなかった、という考え方もある。


いずれにせよ、最後の200メートルのスピードはB夫が上回った。簡単に言うとゴールスプリントで勝ったということになる。最後はB夫とヤングライダーはしっかり抱き合い、お互いの健闘を讃え合ったことは言うまでもない。(おっと抱き合ってはいなかった。握手だけだったけど)


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最後にトレーナーからのペダリング解析ということになった。


B夫は想像に反して、引き足を非常によく使ったペダリングをしている、ということが判明した。パワーピークが来るのが、時計の針でいうと4時過ぎくらい。これはどちらかというと遅い方で、遅くなる理由は下死点付近からの引き足がかなり使われているせいだという。


またデータからもパワーがたれてきてしまうことは読み取れるとのことなので、B夫の場合は高パワーをいかに持続できるか…ここに強化ポイントがあることになる。


やはり出た。苦手な持久力だ。


また、持久力を上げるにはいかに均等に効率よく力を使ってペダルを回すか、ということが重要になってくるので、もう少し速い段階でパワーピークが出るような走りをマスターすることが重要かも、とのことだった。そのためには大腿筋(太ももの前面)の筋肉をもう少し活用する必要がある、ということになる。自転車に乗りはじめた頃はまさにその筋肉しか筋肉痛にならなかったので、意外にも、その後の鍛錬でずいぶん他の筋肉を使うようになったのだなぁということが判明したことになった。


大前提として、このペダリングが絶対に良い…という公式のようなものはないのだそうで、人により理想のペダリングは随分違うのだという。


また、約33分間のレースでの平均ワット数は253ワットほど。これは結構パワーがあると言える数字だとのこと。B夫はそれを聞いてちょっと嬉しかった。だけど体重がこんなにも影響力があるのだなぁということは再、再、再確認した。


「パワーは下げずに体重下げろ!」


これはこのセミナー以後のB夫の“座右の銘”となった。この日以後、B夫の枕元にはいつもこの言葉を書いた色紙が置かれていることはもちろんここで書くまでもない。


上記の標語の他にも以下のような標語が考案され、いまやB夫の部屋は標語で埋め尽くされているという噂も耳にする。


「落としていいのは女と体重!」


「評判下げるな、体重下げろ。」


「減らせ体重、減らすな給料。」


「減量三昧、パワー百倍!」


などなど…

こうしてB夫とA子のはじめてのペダリング解析セミナーはめでたく終了したのであった。

【完】

次回は「クロスバイクの栄光と挫折シリーズ」の最終章!ある日の出来事!


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