あぁヤビツ峠[完結編]【世界一詳しい峠アタックレポート】
さて、ヤビツ峠のアタックレポート(だったけ?)もいよいよ終盤だ。
ロードバイク乗りには有名なこの名所「ヤビツ峠」、約12kmのヒルクライムのうち、私はすでに4分の3以上を登り切り、山頂まではあとわずか数キロ…というところまで来ていた。
思い起こせばあの2年前の夏の日、糖尿病発覚でどん底にたたき落とされたあの日がすべての始まりだった。最初は自転車に乗ってもわずか数キロ走っただけで足腰は悲鳴を上げ、ふとももが痙攣したあの苦しい日々…。近所の短い坂を自転車に乗ったまま登り切ることができず、泣きながら押して登った屈辱の通勤路…。あぁ、あの電動ママチャリに投げかけられた“哀れみ”のような一瞥…、そんなときに暖かく見守ってくれたA子…
すべてがまるで走馬燈のように私の脳裏を駆け抜ける…あぁ私の人生って…
「お、おい、死んじゃだめだ!」
「ヤビツ峠で足が売り切れになったくらいで、何ということだ!目を覚ませ!」
それは錯覚…幻聴のようなものだったのかもしれない、あるいはあのG君(「我慢してでも最後まで走りきるんだ」という主張を掲げる私の心の中の住人)だったのかもしれない。私はハッと目を見開くと、ほんのコンマ何秒かの幻想から現実に引き戻された。
う、く、苦しい…早く休憩したい!そう心の中のもうひとりの住人K君(「休憩を今すぐにでも取った方がいい」君、怠惰な性格だ)が私を誘う。
本格派の峠チャレンジでロードバイク乗りとしては“重量級”に属する私の体重を支えてきた足腰はもう完全に力をなくしていた。その現実から逃れ、再び力強く走る体力を得るためには、まずは身体を休めるしかない…、休憩するしかない!私はそう決めて休憩前の最後の“ひともがき”に入ろうとしていた。
と、そのときである。
あたりを一瞬静寂が包んだ…少なくとも私にはそう感じられた。
そしてその静寂を打ち破るかのように、機械の高速回転音が後方から聞こえてきた。
ものすごい勢いで近づいて来る。
UFOか!…まさか。
自転車?…それにしては近づいて来るスピードが速すぎる!
オートバイ?…いや、エンジン音がしない!
あっ、と思ったときにはそれはもう私の右側を通り抜け、私の前方へ駆け抜けていた。
そして「えっ」と思う間もなく、次のコーナーへと突入して私の視界から消えていった。
まるでジェット戦闘機!
そう感じても不思議ではない程のスピードの違いであった。
私は一瞬にして目が覚めた!そう、今のはまぎれもない自転車であった。ロードバイクだった。
そのほんのコンマ何秒かの間に私はフレームのロゴマークを見た。
「TIME」と書かれていた。フレームカラーは黄色だった。いくら高速だからといってモーターやエンジンが付いていたわけではない。まぎれもなく人間が動力源となる自転車だ。
しかし、なんというスピードの違い!
いくら私がヘタレていたとはいえ、それがいくら「ピナレロ君」より軽量のタイムのロードバイクだったとはいえ、あまりにスピードが違い過ぎるじゃないか?確かに今の人はおそらくエントリーライダーではない。それは確実だ。背中には見事な「ラクダのこぶ」ができ、スムーズなペダリングは身体の余計な揺れを一切伴わない。超ベテランかもしれない…い、いや、実業団の選手かもしれないじゃないか?あるいはジロ・デ・イタリアに出場したことのある市川さんかもしれないじゃないか!!!(ないない)
だが、このあまりにハッキリとしたスピードの違いが私の心に火を付けたのだ。あのタイムの黄色いロードバイクが絶望の淵にいた私に新しい活力をくれたのだ!もし今後彼のレベルに近づきたいなら、今ここでやめてしまうという選択肢でいいのか???あと数キロがんばれなくて、この先レベルアップできるのか???
そう、あの「ラルプデュエズ峠」で「世田谷の電動ラスムッセン」に出会ったとき と同じだ。
どうやら私はちょっとした逆境で燃えるタイプなのかもしれない(あるいは“追い込まれないと本気を出さないなまけものタイプ”という解釈もできないこともないが…)。これで次の目標が明確になった。
いつの日か今の「黄色いタイム戦闘機」に勝つ…なんてことは叶わぬ夢かもしれない…。だが、少なくともこんなにヘタレているのは自分じゃない!!!執拗に休憩へと私を誘ってきた「K君」は完全に吹っ飛んだ。(「G君」の苦し紛れの左ストレートがクロスカウンターとなって「K君」の顔面をヒット、優勢だった「K君」はその場でリングに倒れ込んだ!そんな感じだった。)
[中略]
結局、私はその日、最後の数キロをまさに気力だけで走りきり、なんとかヤビツ峠の山頂へと到達した。そのあまりに場当たり的なペース配分を反省するとともに、近い未来にまたこの峠に来るぞ!と心に誓って山を下りた。ヤビツ峠からの50キロを超える帰り道で足が使えるか…と心配したが、地上に降りてしまえば、意外に足は回復していた。246のアップダウンもそれほど苦にならず(そりゃそうだ、ヤビツよりは楽だもん)、夜になったが無事に帰宅することができた。
あ、タイムアタックの記録?
山頂に着いたとき私のストップウォッチは大体1時間2分を指していた。途中ミスコースがあり、ロスタイムがおそらく4分くらいとすると、58分程、というのが非公式な初アタックの記録だろうか(誤差はあるかも)。いずれにせよ、あまり自慢できる記録ではないとは思うが、次はなんとかこれより数分は縮めたい!そう思った。さっきの「黄色いタイム戦闘機」は40分を切っているのは間違いない、きっと…。
★そしてビンディングのお話
そして最後に「世界一詳しくはなくなってしまった、ロード用ビンディングレポート!」だが、
ロード用のビンディングはホールド感が良く、走っている限りにおいては安心感を持って走れる。これは確かだ。それと忘れてはいけないもう一つのメリットはその軽量性だろう。少なくとも私の持っているMTB用のビンディングシューズよりはロード用のそれはずっと軽く、長距離になると疲労度という点で確実に違いを生む…そんな気がした。
また、キャッチ&リリースのことだが、キャッチは私の場合相変わらず時々失敗する(それでも少しうまくなってきたが)。だがリリース、つまりペダルからシューズをはずすのは随分上手になった。下死点で外すのがやはり一番楽だが、上死点での“外しやすいペダルの角度”を見つけたので、クランクがどの位置にあってもわりとスムーズに外すことができるようになった。これで“微妙な不安”を抱えずにロードバイクを楽しむことができる。
百数十キロを走ってやっとロード用のペダルに慣れたという感じだろうか。この結果から見て、今のところMTB用のビンディングに戻す気は全くない。良い買い物だったかな?…答えはYESだ。
いやぁ、すごく長くなってしまった。また、何の“世界一詳しい”レポートなのかさっぱりわからなくなってしまった。
最近は「ピナレロ君」の話題ばかりだったので、次は久々にクロスバイクを登場させる予定!
テーマは「クロスバイクR3の栄光と挫折!」
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