試練のヤビツ峠【第二部】~「世界一詳しいビンディングペダルレポート」 | 自転車で糖尿病を克服した!

試練のヤビツ峠【第二部】~「世界一詳しいビンディングペダルレポート」

【前回からの続き】


ヤビツ峠へのプロローグ


そう、私は快調にヤビツ峠に向かっていた。真新しいロード用ビンディングペダルを装備した「ピナレロ君」ことピナレロ・アングリルは路面を滑るように走り続ける。信号待ちからのスタートの際にときおりもたつくが、それは決して機材のせいではない。私がまだこのペダルの扱いに慣れていないのが原因だ。


スタートからすでに50km近く走ったが、いまだに「よいこらしょ」と左足でペダルの踏み面を上にすることがうまくできないときがある。そしてペダルの踏み面が下を向いているのにそのまま足でギュッとやるので、スコーンと“ファウルチップ”のようにはじかれてしまうのだ。あぁ、SPDの両面踏みがなつかしい…。でもがんばるんだ!!!


国道246を進むと、ヤビツ峠の直前にちょっとした峠がある。善波峠という、規模でいうと小さな峠だ。だがこれが今回の試練のプロローグであったのだ。私はこの峠の存在を計算に入れていなかった。


この善波峠、特にそれほど“峠”というほどのものではない(それでももちろんあの「ラルプデュエズ峠」や「ガリビエ峠」などのなんちゃって山岳地帯の峠よりはずっとずっと長いが…)。距離でいうと3kmくらいか。傾斜にして3~5%くらいだろうか、ダラダラとひたすら直線的に登り続ける。


私は特に感情を動かされることなく、この峠を登りはじめた。1年半前の私であれば、「ヒェ~、これは大変なことになった。さぁ気合いを入れて…」ということに間違いなくなったと思うが、今の私は1年半前の自分ではもはやない。肉体的コンディションは過去の自分に見せびらかしたいくらいだみんなにという意味ではない、念のため)。


この坂を登る途中、突然おじさんからエールをもらった。


「おぉ~、がんばれ!」


ちょっとびっくりしたが、振り返って見ると、自動販売機コーナーで休憩中のママチャリサイクリストおじさんだった。きっと坂がきつくて休憩していたのだろう。たしかに普通のママチャリで普通のおじさんが登るのにはきつい坂だ。だが私は“普通のおじさん”ではないのだ。しかも普通の自転車ではなく、電動アシスト…いや違った、電動アシスト自転車に勝るパワーを発揮できるロードバイクなのだ


「ありがとう!」と心の中で叫びながら、淡々と坂を登り続ける。


なんなく善波峠はクリアした。全く問題ない。今の私には何ほどのものではない。私の中の懸念はただひとつ、スタート時のビンディングのはめ方を失敗しないように…それだけだ。


ただ、今にして思えば、ヤビツ峠の長さを思えば、もう少し足を温存するような走り方でここまで来た方が良かったのかもしれない…ここまで飛ばしすぎていたかも…ただ、それは後になってからはじめてわかることだ。とにかく先へと進むのだ。


これが本物だ!


さて、いよいよヤビツ峠のスタート地点名古木交差点へと到着した。この先は自販機などほとんどないはずだ。交差点付近でドリンクを補給する。ヤビツクライマー達はこの交差点を計測ゼロポイントとしてタイムアタックをするらしい。今日の目的はあくまでビンディングペダルの実地検証だ。だからタイムトライアルではないが、まぁ、念のためどのくらいのタイムが出るか計ってみるか…カチャカチャ…私はストップウォッチを操作した。


Go!


私は快調にヤビツの頂上へ向かってスタートした。今回はビンディングもうまくはめることができた。さぁ行くぞ!ロード用ビンディングペダルのパワーアップ効果もあるはずだ!私にとって何ほどの問題もない…。


最初は住宅地のような中を抜ける道だ。早速登り坂だ(あたりまえだ。峠だもの)。ギアはスコーンとインナーに入る。お、意外にキツイぞ。いきなり結構来るぞ…。


これがヤビツ峠の歓迎の儀式だった。最初の最初でそんなに大した坂ではないように見えて、いつの間にかインナー34×23くらいのギアになってしまうのだ。さすが本格派の峠…私は妙なところに感心しつつ、微妙なワクワク感を持ちながらペダルを回し続けた。


そこからしばらくは全く問題なかった。だが次のポイントで私は大きなミスを犯してしまう…。


ミスコースだ。


真っ直ぐ行けばいいのに、何を勘違いしたのか私は左の方へ曲がってしまったのだ。(おそらくヤビツ峠でミスコースする人は100人中2人くらいだろう)。私は早くもそのラッキーな2人の中に入ってしまったのだ。


おや、道が段々下っていくゾ。おかしいな…。あれっ、これきっと道を間違えたな、戻らないといけないかも…やっぱり間違いだな…よいしょっと


というわけでしばらく行ってから私はUターンしてもとの道に戻る。ロスタイムが出てしまった。せっかくストップウォッチを作動させたのに何分かわからなくなったじゃないか…。


私は正しいルートに戻ると本当のヤビツ峠を登りはじめた。快調だ。ミスコースはしてしまったが、何の問題もない。ビンディングも快適だ。


しばらく行くと長い直線の上り坂になる。ここはヤビツ峠の中でも結構キツイ部分のようだ。


おっ、自転車発見!


クロスバイクだ。がんばって登っている。きつそうだが、ひと漕ぎひと漕ぎに力を込めて一生懸命登っている感じがよく伝わってくる。


追いつけるかもしれない…。


私はちょっとスピードを上げた。だんだんクロスバイクが近づく。追い抜きざま、「こんにちは!」と声を掛け、クロスバイクに先行した。スピードはちょっと上げたままダンシングで先へ向かう。だが、後でわかるのだが、実はこれがいけなかった。私のような“重量級平坦マン系一般サイクリスト”は体力を消耗するヒルクライムでは、特に自分のペースを守らなければならないのだ。でないと足が~~売り切れ~~になってしまうのだ!


そんなことを冷静に考える間もなく、私は先へと進む。ギアは一番軽い34×25を何度か使いながら、それでも「まだまだ余裕さ…」くらいの気持ちで、先へ急ぐ。全く問題ない全てが完璧だ…そう思えた。


このヤビツ峠、こんなプロフィールである。

【距離】11700m  【平均勾配】5.69%  【峠標高】761m 


平均勾配は思ったほどではないが、問題となるのはその距離だ。12km近い。あのなんちゃって「ラルプデュエズ峠」 なんてたったの300メートルしかないのだもの…そのレベルが圧倒的に違う。こちらは、やはり本物なのだ!


もう半分、約6kmほどは登り続けて来ただろうか…。まだまだ行けるとは思うが、どうも足が重くなってきた。スピードの乗りが悪い。おや、こんなはずではないのだが…。


シャカシャカシャカ…


後ろから自転車の音だ。


あれ、誰だろう…私は振り返った。さっきのクロスバイクだった。私に追いついてきたのだ。


死闘開始のゴングが鳴る!


私はヤビツ峠の半分を過ぎたころから徐々にペースが落ちはじめ、だんだんと苦難のヒルクライムモードに入って来ていたのだ。それでもまだ「全然問題ない!」と言い聞かせていたが、自分の内側では2人の自分が壮絶なバトルを開始しようとしていたのである


[休憩をすぐにでも取った方がいい君(K君)]vs[がまんしてでも最後まで走りきるんだ君(G君)]


という強力な両者の戦いである。この時点ではまだG君が優勢だった。K君はスロースターターだからまだ劣勢だ。ところがこの勝負、スタミナ充分のK君は後から後からパワーアップしてくるのだ。やがてG君は防戦一方となることを、この時点の私はまだ知らない…。


さて、ヤビツ峠後半戦、K君対G君の死闘開始!ここからは次回!


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