本日は『小腸閉塞(small bowel obstruction:SBO)』についてです。実は本邦の分類と異なり、欧米では『SBO』=『ileus』ではありません。イレウスの概念は明らかな機械的閉塞のないものを指しており、麻痺性イレウスに相当するものです。


ただし、『小腸閉塞=イレウス』というのが本邦では共通言語になってしまっていますので、注意してください(用語の問題も大事ですが、本質を見抜くことがもっと大事です。そこを間違えなければどちらでもと私は考えています)。


下記のように大きく2つ(機械的閉塞と機能的閉塞)に分類することができます。



①機械的閉塞(mechanical obstruction)


閉塞起点が存在するもので、完全閉塞と部分閉塞があります。


血行障害を伴ってくる場合は締扼性(strangulation)のことが多いです。癒着バンドやヘルニアによって離れた腸管の2点が1箇所で閉塞(多くは捻じれる)することによる『closed-loop obstruction』は締扼し血行障害を伴う可能性が高い病態です。


救急医の挑戦 in 宮崎

(closed-loop obstructionのimage)


CT画像がこちらをご参考ください

http://www.qqct.jp/seminar_answer.php?id=731



機械的閉塞の『原因』は下記のように分類できます



腸管内由来:先天性閉塞、腫瘍、腸重積、炎症による壁肥厚など


腸管外由来:癒着、ヘルニア、捻転(S状結腸捻転はコモンですが、小腸捻転は珍しい)など


SBOの50%以上が癒着性閉塞です。他の原因としてはヘルニアと腫瘍性が多いです。癒着に比較してヘルニアは締扼しやすい(ヘルニア28% VS 癒着8%)です。




救急医の挑戦 in 宮崎



下図は閉鎖孔ヘルニアのレントゲンとCTです



救急医の挑戦 in 宮崎

管腔内閉塞:バリウム、異物、胆石、食物(こんにゃく)など



②機能的閉塞(functional obstruction)


明らかな機械的閉塞がないタイプを指します。麻痺性イレウス(adynamic ileus)とも呼ばれるタイプです。術後の機能的閉塞や薬剤、感染(虫垂炎、憩室炎、胆嚢炎など)や炎症(膵炎など)の波及によるものが多いです。急性腸管膜虚血(SMA塞栓など)は救急疾患としてしばしばこのタイプの閉塞を発症させます。


※その他にも偽閉塞(pseudo-obstruction)というものもありますが、はっきりしない概念です。




病歴の特徴


SBOの腹痛は規則的な反復性(間欠性)の局在がはっきりしない腹痛で波があります(だんだん強くなりだんだん弱くなる、crescendo-decrescendo pattern)。一回の痛みは数秒~数分程度の痛みで、近位の閉塞では数分毎に痛みを繰り返しますが、より遠位になればなるほどこの間隔は延長します。


この痛みの性状が持続性やより重症になってきた場合には虚血(血行障害)を伴ってきた、つまり、外科へのコンサルトが必要だと考える必要があります。→followのポイント



一般的に近位閉塞であればあるほど、訴えは大きくなり、嘔吐なども出やすくなります。また発症してから来院までの期間も短くなります。一方、遠位の閉塞であれば、比較的症状はmildですが、お腹の張りは近位と比べると目立ち、また1、2日経過してからの来院というように期間は長くなります。




初期治療


絶食、消化管の減圧、補液、感染症対策(抗生剤投与)と外科手術のタイミングを見逃さないことが重要になってきます。


通常人間の体では、唾液、胃液、膵液、胆汁、腸液などの消化液が毎日7-8リットル分泌され、その大半が大腸で再吸収されますが、SBOに至るとこうした消化液が吸収されないためかなりのvolume depletionになることが多いです→補液が大事。


締扼性や、それ以外の病態でも血行障害による虚血のサインがあれば外科コンサルトが必要です。また、保存的治療をしても48時間経過しても臨床症状が改善しない場合も同様です。



※癒着性イレウスの臨床的検討 : 保存療法の適応と限界について

http://ci.nii.ac.jp/naid/110004693950