昨年末の忘年会から始まり、正月、新年会とお酒となかなか縁がきれない生活が続いて体調など壊していないでしょうか?


健康診断で肝機能障害を指摘されて『節酒』しようと心に決めた人も多いはず。


そうは言ってもなかなかお酒を勧められると断れなくて。。。なんて人は、こんなTシャツを着ていくと周囲が気をつかってくれるかもね。


救急医の挑戦 in 宮崎


アルコール関連の疾患は他にもたくさんありますが、本日は『肝機能障害~一歩進んだ検査値のみかた~』についてです。


今回、勝手に引用させて頂いた病院薬剤師さんのサイトはこちらです。

http://koccr.ame-zaiku.com/toppage.html



肝機能検査と一口にいっても下記のようにみているポイントは異なっています。



〈肝実質細胞の検査〉

肝細胞の障害・壊死をみるもの

AST(GOT)/ALT(GPT)、LDH


肝細胞の機能(肝予備能をみるもの

i.合成能の検査: PT、Alb、ChE、コレステロール
ii.解毒・排泄機能の検査:ICG試験、アンモニア


慢性の炎症をみるもの

γグロブリン、ZTTなど


〈胆道系の検査〉

胆道閉塞をみるもの

ビリルビン、γGTP、ALP、LAP


肝機能障害をぼんやりと眺めるレベルから一歩進んで、それぞれの意味するところを理解できるようになりましょう。



~肝細胞の現在の障害・壊死をみるもの~

『AST(GOT)/ALT(GPT)、LDH 』


各組識の細胞が障害を受けて細胞膜の透過性が高まったり、細胞が崩壊すると細胞内の酵素が逸脱して血液中に出現します。AST/ALTは、肝疾患ではほぼ平行して動き、健常者ではいずれも2~30以下です。


AST/ALTは現在の肝細胞の障害・壊死の検査であり、肝機能とは直接関係ないのに注意しなければなりません。例えば、ASTが200でアルブミンが4.0の慢性肝炎と、ASTが100でアルブミンが2.5の肝硬変とでは肝硬変の方が肝機能は低下していると判断されます。


AST/ALTの特徴として下記事項を押さえてください


➀ALTはASTより肝特異性が高い


ALTは肝臓の細胞質内に存在しているので、肝臓に特異的で軽度の肝障害で肝細胞膜の透過性が高まっただけでも血中に簡単に逸脱します。それに対し、ASTは主にミトコンドリア内に存在するので、肝臓以外でも逸脱し肝臓に限っていえば、より重い肝障害で逸脱する傾向があります。


➁ALTはASTより肝細胞から漏れやすく血中にとどまりやすい(半減期が長い)


ALTの方が血中での半減期が長いAST:約半日、ALT:約2日



日常よく見かける慢性肝炎や脂肪肝では、検査値は『ALT>AST』になるのが普通です。ASTが正常でALTのみ上昇していたら、まず肝疾患(脂肪肝か非活動期の慢性肝炎)と考えてよいです。


では、『AST>ALT』となるのはどんな時でしょうか?


急性肝炎の初期
肝細胞壊死が強い間は、細胞内の絶対量が多いASTが優位になります。しかし落ち着いてくると、半減期の長いALTが優位になってきます。


・(慢性肝炎から)肝硬変への移行

アルコール性肝障害
アルコールがミトコンドリアに対する毒素として作用するためか、ASTが上昇しやすい傾向。


肝臓以外からの酵素の逸脱:骨格筋、心筋、赤血球など



ASTやALTの極値やAST/ALT比も鑑別疾患を狭めるのに役立ちます
http://lifeinthefastlane.com/education/investigations-tests/liver-function-tests/


・正常の20倍(500IU)以上,特に1000を超えるウイルス性肝炎(HAV、HBV)、薬剤(中毒)性肝炎、虚血性肝炎(ショック肝)の3つがメインですが、expertによると胆管炎でもしばしば起こることがあるようです。


虚血性肝炎とは低循環に伴うものでうっ血肝も含んでいます。局所的な虚血性障害(血栓症など)であるhepatic infarctionは厳密には含んでいません。


低循環によるものですが、低血圧を伴っていなくとも起こります。(全身性の低酸素血症や貧血、もともと門脈圧亢進症があるなど)


LDHが著増している点が虚血性肝炎と疑う特徴です。


他にもトランスが1000を超える『minor cause』としては自己免疫性肝炎、Budd Chiari、Hepatic infarction、慢性B型肝炎の再活性化などがります。


自己免疫性肝炎についてはこちら

http://www.hindawi.com/journals/heprt/2011/390916/


アルコール性では500を超えることは少ないと言われています。



『肝臓以外(もしくは2次的に肝臓が障害)でトランスアミナーゼが上昇する疾患』には下記のようなものがあります。



➀筋疾患(心筋梗塞も含む):筋特異性の高いクレアチンキナーゼ(CK)が著しく上昇していることで鑑別できます。 ちなみにアイソザイムにより異なりますが、CKの半減期は半日ほどです(ASTと同じくらい)。


➁溶血性疾患や採血手技の不良で赤血球が壊れてもAST/ALTが上昇しますが、赤血球中のASTLDHが逸脱して高値となり、ALTはあまり上昇しません。


➂胆石嵌頓

➃ショック、重症膵炎、進行癌、甲状腺機能低下症(粘液水腫)など、さまざまな病態でトランスアミナーゼが上昇します。


・・・


では次に『LDH』についてです。


GOT/GPTに次いで肝疾患でよく測定される逸脱酵素がLDH(乳酸脱水素酵素)です。LDHは肝特異性はなく、あらゆる組識に万遍なく含まれます。LDHは、AST/ALTの補助的な役目を担っており、単独での臨床的意味づけは薄く、AST/ALTの解釈を補足する情報を与えてくれます


ASTに比べてLDHの上昇が目立つ場合は、肝実質障害以外の原因で逸脱酵素の上昇が起きている可能性が高いです。


肝疾患でAST/ALTと共にLDHも著増しているときは肝細胞の壊死が強いと考えます。→虚血性肝炎


肝臓以外では、LDHは血液疾患や悪性腫瘍(特に白血病、リンパ腫など)のマーカーとして利用されます。


半減期は各アイソザイムによって異なりますが、肝臓に多いLDH5では約10時間程と言われています。(ASTやCKと同じくらい。ALTよりも短い)


LDHについての以前の記事

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11321974687.html



~肝細胞の機能(肝予備能)をみるもの~


i.合成能の検査 :PT、Alb、ChE、コレステロール
ii.解毒・排泄機能の検査ICG試験、アンモニア


肝臓は人体に必要な物質の合成と有害物質の解毒の中心です。この機能は生存に欠かせないものなので相当な余裕がとってあります(肝の三分の二を切除しても生存し、数カ月で再生します。)肝臓の物質代謝能力の余裕のことを肝予備能と呼びます。


肝硬変の生命予後は肝予備能との相関が高いです。


『合成能の検査』


プロトロンビン時間(PT)
血液凝固に関与する蛋白は、主に肝で合成され、半減期が数時間から2、3日と短いので、現在の肝機能の評価に最適です。特に劇症肝炎のモニターには欠かせません。急性肝炎でPT50%以下は要注意であり、40%以下は劇症化を考えなければなりません。


肝臓は重要度の高い凝固因子(PT)をAlb、ChEよりも優先して保とうとします


・急性肝不全ではAlb、ChEはPTに先行して下がる
・劇症肝炎から回復するとき、まずPTが上昇し、遅れてAlb、ChEが上がる
初期肝硬変ではPTよりもAlb、ChEのほうがよい指標となる


アルブミン
100%肝で合成される蛋白ですが、肝機能低下以外に炎症による合成抑制、栄養不良、腎や消化管からの漏出(ネフローゼ、蛋白漏出性胃腸症)など、様々な原因で低下します。


アルブミンは著しい肝機能低下ではじめて低下し、また、半減期が長い(約21日)ので肝機能の変化の反映も遅いです。


コリンエステラーゼ(ChE)
アルブミンと動きはよく似ています。ChEの上昇は肥満による脂肪肝やネフローゼでも上昇するのが特徴です


コレステロール
肝はコレステロール合成の主役。コレステロールが基準範囲を大きく下回る場合は、かなり重症の肝予備能低下があると考えます。


『解毒/排泄能の検査』


ICG負荷試験
緑色の色素、ICGを静注すると急速に肝細胞に取り込まれ胆汁中へと排泄されます。血中ICG濃度の減少速度から肝機能を推測することができます。


肝癌切除術前の肝予備能検査として使われますが、黄疸(T.Bil 3.0mg/dL以上)の人ではビリルビンと排泄が競合するため、正しく評価できません


アンモニア
肝はアンモニアを尿素に変えて解毒できる唯一の臓器です。


肝性脳症についての記事

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11268075097.html



~慢性の炎症をみるもの

γグロブリン、ZTTなど


AST/ALTは現時点の肝細胞の障害をあらわしているのに過ぎず、それがどのくらい続いているのか、炎症性のものなのか、炎症の程度はどうか、といったことはわかりません。


蛋白分画検査でγグロブリンが増加してないか、またはA/G比が低下してないかをチェックすればよいのです。他にγグロブリンの変化を間接的に見る検査としてZTT、TTTなどの膠質反応があります。


肝硬変の多くは慢性肝炎の終末像と考えてよく、慢性肝疾患ではγグロブリンが上昇しているほど肝硬変への移行の確率が大とみなすことができます。


脂肪肝はAST/ALTの軽度の上昇もよく伴うので慢性肝炎と紛らわしいです。しかし、過栄養性の脂肪肝のみでは慢性炎症マーカーが上昇することはありません。


非活動性の慢性肝炎ではγグロブリンが基準範囲のことも多いので、慢性炎症マーカーが陰性だから慢性肝炎ではないとはいえません。


また、慢性炎症マーカーが異常だからといって肝疾患と短絡してはなりません。ガンマグロブリンは、高齢者では高めであり、慢性炎症(特に慢性関節リウマチなどの膠原病)や多発性骨髄腫においても著増します。



最後に胆道系の検査です。


~胆道閉塞をみるもの~

ビリルビン、γGTP、ALP、LAP


血中総ビリルビン値は正常では1mg/dL程度以下。2、3mg/dL以上になると皮膚や結膜の視診で黄疸が認められるようになります。


ヘモグロビンの代謝で生成したビリルビンは、そのままでは水に溶けません。血中では蛋白に結合して溶解しています。これを『間接ビリルビン』という。


間接ビリルビンは肝細胞内で代謝(グルクロン酸抱合)されて水溶性の『直接ビリルビン』(抱合型ビリルビン)となり、胆汁中に排泄されます



間接ビリルビンが主に上昇→ビリルビンの生成が肝臓の処理能力をオーバーするほど赤血球が壊れている病態(溶血)が疑われます


直接ビリルビンが主に上昇→肝で代謝された後の胆汁への分泌・排泄が障害され、肝臓から血液中へと直接ビリルビンが逆流します


両方とも上昇肝細胞障害のため、間接ビリルビンから直接ビリルビンへの変換と、肝細胞から胆汁中への直接ビリルビン分泌の両方が障害されていることが考えられます。



『胆道系酵素』

γGTP、ALP、LAP


原因を問わず胆汁欝滞がおこると、γGTP、ALP、LAPなどの酵素活性が血中で上昇してきます。合成亢進+胆汁への排泄障害のためといわれるが、機序はよくわかっていません。


胆道系酵素は胆汁鬱滞に関してはビリルビンよりはるかに鋭敏なマーカーですが、胆道系酵素上昇=胆道閉塞と即断してはいけません。



γGTP

γGTPは胆汁欝滞以外にも主に以下の三つの原因で上昇します。

アルコール:γGTPはアルコール摂取に敏感に反応して上昇し、禁酒後急速に低下、2週間で半分以下になるので飲酒マーカーとしても使用される。ただし、アルコールに対する反応には個人差があり、数百まであがる人と百ぐらいまでしかあがらない人があるので注意を要します。


薬物抗痙攣剤など神経科領域の薬物投与に伴うものが日常よく見られます。薬物の代謝の亢進に関係した生理的なものとされ、通常は特別な処置は必要ありません。


過栄養性脂肪肝:肥満による脂肪肝では、アルコールを摂取していなくてもγGTPの上昇がみられます。



ALP

ALP値は個人差が大きく、各個人での値は安定しています。したがって、基準範囲内であっても増加傾向が見られたら隠れた病気を疑わなければなりません通常の肝炎ではALPは基準範囲上限の2、3倍までです。それ以上の上昇を見たら胆道閉塞・肝内胆汁欝滞・肝SOLなどを考えなければなりません。


γGTPの上昇を伴わずにALPが上昇している場合は、下記の可能性を考える必要があります。


骨疾:骨折・転移性骨腫瘍・代謝性骨疾患など骨芽細胞が増殖する病態なら、原因を問わず、ALPが上昇します。小児は骨が成長中であるので成人の2、3倍の値になります。


妊娠:胎盤由来のALPにより高値になります。


軽い肝障害でも上昇しやすいのが長所ですが、γGTPとALPを測定しているときにさらにLAPを測定しても新たに得られる情報が少ないので、最近はそれほど使用しません。


以上です。




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