こんにちは。本日は『めまいのアプローチ』についての話です。

救急外来に『急性発症の回転性めまいで嘔気、嘔吐を認め、歩行もできない。見た目の印象も重篤感がある』なんて人きますね。

『めまいの持続時間も長くて、頭位変換でも誘発されない』なんて時は中枢性めまい(小脳梗塞、脳幹梗塞)と末梢性めまい(前庭神経炎、迷路炎)で悩んでしまいます。

何か特徴的な神経学所見を呈していれば鑑別に迷わないのですが、MRIでも急性期の感度は低いし、これって結構救急医泣かせなんです。

読んでいる人の中には『え?何のこと言ってるの?』っていう人や『うんうん、そうだよね。』っていう人もいると思いますが、一つずつ整理しながらみてみましょう。

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そもそも『めまいのアプローチ』というのはこれまで下記のように分類されていましたし、私自身このように研修医に教えてきました。

①near(pre)-syncope: 目の前が真っ暗になる感じ。前失神
②vertigo: ぐるぐる回る。回転性めまい
③disequilibrium: まっすぐ歩けない。平衡障害
④lightheadedness(dizziness): なんとなくふらつく。浮動性めまい。


Vertigoというようにはっきりするタイプのめまいで来院されることもありますが、実は『なんとなくふらつくというはっきりしない(分類不能型)④タイプでくることも多いです。

その場合には①②③の可能性がないか検討していく必要があります。

near-syncopeであれば『syncopeのアプローチ』ですね。
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-10968982596.html

disequilibriumであれば『平衡障害のアプローチ』ですね。
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11247821892.html

この場合の鑑別は多岐にわたりますが、救急外来では特に小脳や脳幹の障害を見逃さないことが大切です。

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こんな感じにアプローチしていくのが一般的でしたね。



しかしながら実はめまいを訴える872名を対象したstudyで、めまいの性状は初回と2回目の問診で実に52%の患者で変わったとの報告があります。

確かにこんな経験あります。研修医がとった問診を再度確認しにいくと、『あれっ?これってvertigoだよね。先生が先にとった時はlightheadednessだったよね。ちゃんと病歴とったのかー?』なんて。また、患者さんがはっきりしない答えを言うと『ぐるぐるなの?ふわふわなの?どっち?』『ぐるぐるでしょ?』なんて無理やりvertigoと解釈したり。。

そして、そもそもめまいの性状は『dizziness』などのはっきりしないタイプが多いんです。

そこで最近は新しいめまいの分類として下記のようなものが提唱されています(末梢性、中枢性の代表疾患を一つずつ挙げています)。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2676794/

①急性重度めまい: 前庭神経炎、脳梗塞
②反復性頭位めまい: BPPV、小脳腫瘍
③反復性めまい(頭位変換によって惹起されない): メニエール病、TIA


反復性頭位めまいでは必ずしもBPPVではなく、小脳腫瘍や多発性硬化症の可能性もあります。BPPVに合致しない所見をみたら疑うことが大切です。)

めまいの新分類というよりは、presyncopeやdisequilibriumは病歴で除外して、残りの『vertigo』や『dizziness』を主訴に来院した時にどうアプローチするかというものだと解釈しています。

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急性重度のめまいでvertigoのタイプは特に『acute vestibular syndrome:AVS』というように横文字でいうと格好よく表現することもできます。

そんな風にめまいの性状にとらわれなくても新分類ではいいのですが、AVSには予後良好な前庭神経炎や迷路炎などのだけでなく、小脳梗塞や脳幹梗塞が隠れていることがあります。

何度も言いますが、これらを見つけ出すことに苦労するんですね。

小脳や脳幹部にフォーカスを絞った所見をとるのも大事ですね。指鼻試験が正常でも歩行困難であれば体幹失調の可能性もあります。

他にはどんな検査がありましたか?

cerebellar dysfunctionである運動失調に的を絞ると以下のようなものがあります。一例としてご参考ください。


運動失調(ataxia)

①躯幹運動失調:立位・座位・歩行の異常
起立障害:Romberg徴候
歩行障害:小脳性失調歩行(酔っ払い歩行)

②四肢の運動失調
運動失調は測定障害、運動の分解、共同運動不能の3つの要素から構成されている。以下にあげるそれぞれの検査で、それぞれの要素の異常の有無を検討する。
変換運動障害(dysdiadochokinesis):回内回外試験
測定障害(dysmetria):指鼻試験(finger-to-nose test)、膝踵試験(knee-heel test)

③その他の協調運動障害(incoordination)
構音障害:話し方(speech)の異常。(爆発言語:explosive speech)、(緩慢言語slurred speech)、(断綴言語:scanning speech)
眼振(nystagmus)

以前の記事で『運動失調とロンベルグ試験』についてです。
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11247821892.html

小脳梗塞を疑う時にはこれらは有用な検査ですね。

小脳梗塞が怖いのは狭い後頭蓋窩に浮腫や出血によるmass effectで脳幹を圧迫する可能性があるということです。

他にも脳幹梗塞を疑うような他の神経学的所見がないか丁寧にとることも大事ですが、それでも鑑別がつかないなんてこともあります。

細かく所見を取ることの意義はsubtleな神経学的所見を見逃さないためですが、そこを頑張ってもなかなか鑑別は難しいのです。

どうすればいいでしょう?

そもそもAVSでの中枢性strokeの鑑別の対象は末梢性の前庭神経炎ですね。じゃあ、AVSで来院したときにこれは前庭神経炎だ!とか前庭神経炎じゃない!(=それはすなわち中枢性ですね)というような除外できる所見があれば、それはすなわち中枢性を疑うことができます。

この発想はおもしろいです。

中枢性をrule inするような所見を探すのではなく、前庭神経炎をrule in/rule outするような所見を探せばいいのです。


そんな所見あるのでしょうか?


・・・あるんです。


head thrust test(head impulse test)』というものです。

検者は患者の前に立ち、患者に検者の鼻を注視してもらいながら、その顔を10°程度傾けた後にすばやく水平方向に回転させ元に戻します。前庭神経炎の患者では頭をすばやく水平方向に回転させると前庭神経障害のために鼻を注視することができず、眼位が流れてしまい遅れて眼位が戻ってくる現象が観察できます。前庭眼反射を調べている検査で昏睡患者の人形の目現象と同じです。


百聞は一見にしかずです。正常の動画と異常所見を見比べてください。










このテストは1988年(そんなに前ではないですね)にベットサイドで簡易に末梢前庭機能を評価できるものとして提唱されましたが、しばらくして、AVSの患者でこのテストが陰性であればそれは中枢性を示唆できるというなんとも有難いことを発見してくれました。


この仮説をもとにいくつかの検証studyがこれまで実施されてきましたが、どうやらこのテストは特異度は期待できる程は高くなく、陽性だからといって前庭神経炎や迷路炎と言い切ることはできません。橋外側の梗塞などを9%で認めていたとする報告もあります。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18541870

現在のところ、AVSの患者でこの『テストが陰性であれば前庭神経炎は否定的、それはすなわち中枢性と考えることができる』というのが大方の意見のようです。

まずはAVSだと認識することが大切ですね。

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他に眼振(方向交代性眼振、垂直眼振)や眼位の異常(skew deviation:斜偏位。垂直方向に眼位が偏位するもの)も中枢性を示唆する所見と言われています。


(Skew deviation)

でも垂直眼振skew deviationって滅多にみないです。


3ステップでできるベットサイドの評価として、①Head-Impulse-②Nystagmus-③Test of Skew:『HINTS』を行うとより感度が高くなり中枢性を除外できるとの報告もあります。

101人のAVSの患者(25人が末梢病変、76人が中枢性病変で69人が脳梗塞)に3ステップアプローチをしたところ、このアプローチのstrokeに対する感度100%で特異度96%であった。skew deviationは延髄外側の梗塞3人のうち2人を検出した。これは前述したHead Impulse Testで陽性になり誤って末梢性を示唆してしまう可能性があるものに対して有効であったと思われます。

ポイントのひとつは前述したように回転性めまいの患者さんの中から正しく『AVS』をpick upできるかどうかです。私自身はこのHITの有用性には半信半疑のところがまだありますが、いろいろな先生の意見も伺ってみたいものですね。

発症3時間以内の急性期脳梗塞に対するのMRIの感度が73%ということを考慮すると、MRIを上回る感度であるということが分かります。
http://stroke.ahajournals.org/content/40/11/3504.full.pdf

以前記事にした急性期MRIの有用性についてはこちら
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11054809733.html


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またまた、話が長くなってしまいました。


最後になりましたが、コメントですばらしいご意見を頂きましたのでそれを少し解説したいと思います。


小脳を栄養する主要な血管はSCA,AICA,PICAがあります。

$救急医の挑戦 in 宮崎


AICAは脳底動脈の主要分枝の一つで、主に橋/小脳に血流を供給し、分枝として橋の蝸牛神経核に血流を供給しているのみならず内耳の蝸牛にも血流を供給しています。

PICAは椎骨動脈から分岐する主要血管で、その閉塞はしばしば延髄外側梗塞(Wallenberg症候群)を起こすことで知られています。

Rombergでは前庭神経障害なのか小脳パターンなのか、厳密に鑑別に苦慮する場合もあります。それはPICA内側梗塞では小脳だけでなく前庭神経核もやられてしまうので評価が困難になるためです。

また、眼振で鑑別できるかというと、これもなかなか難しいようです。特にAICA梗塞のように中枢だけでなく、末梢内耳がやられてしまうと前庭神経炎と同じパターンになってしまいます。

head impulse testはPICA梗塞による核性前庭神経障害と末梢性前庭神経障害の鑑別に有用と考えられています。

しかしながらAICA梗塞では内耳障害のためにHITが末梢性パターンをとって陽性になってしまうことが言われています。

以上。