子供が寝ているうちに少しだけ『膿胸』のお話をします。



肺炎随伴性胸水を診療する機会は多々あると思いますが、こうしたParapneumonic effusionは次の3つの分類することができます。



Uncomplicated parapneumonic effusion

Complicated parapneumonic effusion

empyema(膿胸)



上2つは病理学的な概念が違うのであって、それを臨床的に厳密に分けることは困難であることはしばしばです。それぞれみていきましょう。


Uncomplicatedは胸膜をこえて炎症が波及した状態です。肺間質の浸出液と好中球が胸腔内に漏れ出てきます。


Complicatedになると菌も胸腔内に出現した状態です。


Empyemaはcomplicatedよりもさらに進んだ状態で、グラム染色で菌を確認できるもしくは、肉眼的に膿を確認できるという事を定義としており、培養陽性となることを必要としていません。それは嫌気性菌の場合は培養に生えずらいことや、すでにほとんどの症例で抗菌薬が開始されているため陰性となることがほとんどだからです。

口腔内の菌を誤嚥して肺炎、肺炎随伴性胸水(uncomplicated→empyema)に進展する一般的な経過は下図のように言われています



救急医の挑戦 in 宮崎



誤嚥して2~7日で肺炎発症し、膿胸に進展するまでには4-6Wと考えられています(菌や免疫状態にもよりますが)



こうした経過の中でuncomplicatedなのかcomplicatedなのかの判断は胸水の性状をみることによっておおまかに鑑別することができます。(グラム染色で菌がいれば、それは膿胸であり、complicatedです。



つまり、胸腔内に菌が存在するようになると好中球(>25000)も当然増えてきます。そうした好中球が崩壊することによって胸水中のLDHは増加(>1000)します。また、菌や好中球が嫌気的に糖を利用することにより乳酸や炭酸ガスが発生しアシドーシスになります。つまり胸水中の糖の低下(<40mg/dl)pHが低下(<7.2)します。


(pHの異常は糖やLDHの異常より正確とされています。もしpHが得られない時は糖やLDHを用います。残念ながらpH、糖、LDHの3者すべてを用いることにより、より正確な診断が可能になる根拠はないと言われてます。)


こうしたpH、LDH、糖を調べて臨床的にuncomplicatedとcomplicatedを鑑別します。(どこにカットオフポイントを設けるかは成書によって様々です)



救急医の挑戦 in 宮崎


ACCP(American College of Chest Physicians)ではpH<7.2をドレナージの基準としています。


細菌でなくとも悪性腫瘍や結核、リウマチやSLEによる胸膜炎でも糖低下、pH低下することは忘れないでください。




  では、何が問題になってくるかというと、『ドレナージが必要になるかという事です。膿胸の場合にはドレナージが必要だと言う事は明白です。uncomplicatedではドレナージが必要ないだろうというのも分かりますね。complicatedになると抗菌薬のみで改善できるのかどうかの判断は難しく議論の多いところです


complicatedの中でドレナージが必要なものと、そうでないものを厳密に線引きすることは困難です。


また、先ほど説明したとおりに胸水の性状だけではuncomplicatedなのかcomplicatedなのか厳密には判断できません(おおまかに鑑別できるのみです)。


性状はuncomplicatedを示唆しているけれどドレナージをした方がよい症例もあります。(本当にuncomplicatedの場合もあれば、complicatedだけれども性状ではuncomplicatedのように判断されてしまう場合の2通りありますが主に後者の方です)


例えば画像で胸水量がとても多い場合や臨床的には抗菌薬治療に反応しない症例などです。


勿論、適切な治療がされていかったり、宿主の免疫状態や病勢が強い場合にuncomplicatedからcomplicatedへと進展していく可能性もあります。


ドレナージが必要な症例に対して処置が遅れることで予後に影響を及ぼすリスクを常に考慮しながら判断することが大切です。


胸水の性状だけでドレナージの適応を判断する訳ではないことを覚えておくといいでしょう。



本日は以上です。