本日は『低カリウム血症のアプローチ』についてです。


外来で下痢や脱水症で来院された患者さんで採血をとってみると血清カリウム値が2.5mEq/Lで低いなんてことはよくみますね。


こんな時にどうすればいいのでしょうか?


原因は次の4つの病態に分けることができますね。


①摂取量の低下(Kを含まない補液による医原性含む)

②細胞内への移動 

③腎外性カリウム喪失(消化管)

④腎性カリウム喪失



ここからの臨床診断のアプローチについてみていきましょう。



救急医の挑戦 in 宮崎
(水電解質と酸塩基平衡 黒川清 先生より)


私は上の表を頭に入れておくようにします。とても簡易な表ですが、わかりやすく整理してあります。成書をみるとより詳しい鑑別疾患やアプローチの方法が記載してありますが、腎、内分泌専門科でない限りそれらを正確に記憶しておくこくはできません。


どういうストラテジーなのかが分かるように、まずは頭に整理していれておくこと』が大切です。その上でじっくり時間がある時は成書をもってきてしっかりと検討していきましょう。


この場合は『尿中カリウム排泄量(スポット尿では濃度)』と『血液ガス』が大事なのが分かりますね(病歴で下痢や利尿薬投与など疑うものがあれば、検査する必要は勿論ありません)


そしてさらに血圧が高い場合には、『血中レニン活性:PRA』や『アルドステロン濃度:PAC』を測定して、原発性アルドステロン症や腎血管性高血圧、甘草などの服用を鑑別していくことになります。


血圧が正常の代謝性アルカローシス、低K血症をみた時には利尿薬投与(Pseudo-Bartter症候群)のみならずBartter症候群を鑑別にいれるのを忘れないように。

http://mymed.jp/di/afa.html


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ここで一つ『代謝性アルカローシス』のアプローチについてです


原因には下記のように分類できます。


消化管からのH+の排出(嘔吐、胃管からの吸引)

腎からのH+の排出(アルドステロン、Cushing症候群、偽性アルドステロン(利尿薬)、Batter症候群など)

H+の細胞内移行(低K)

循環血漿量の減少


他にも大量輸血(1~3日後、抗凝固薬のクエン酸Na代謝によりできたHCO3-による)などなどです。詳細は教科書をご覧ください


大事な検査は『尿中Cl濃度』なのです。尿中Cl濃度が20mEq/l以下であれば循環血漿量が減少している病態(胃液の嘔吐や利尿薬の使用も含む)と考えることができます


これらは生食(塩化ナトリウム)負荷に反応します。


一方で20mEq/l以上になると、アルドステロン症やCushingや低Mg血症(→低K血症になるため)といった少し変わった病態で生食を負荷しても反応しにくいのです。


でも何で尿中Cl濃度なのでしょうか?


尿細管でNaと同じような動きをして、循環血漿量が少ない場合には再吸収の方向に向かうためなのですが、代謝性アルカローシス(HCO3-が多い)になると電気的中性を保つためにNa+が尿細管で排出されてしまうために、Naよりも正確に循環動態を反映するClが選ばれたというのです。



では続いて『低カリウム血症の治療』についてお話してみようと思います。


血清カリウム濃度が3.5mEq/L以下を低カリウム血症と定義していますが、では一体どのくらいのカリウムが体内から失われているのでしょうか?


通常血清カリウム値が正常から0.3mEq低下するごとにおよそ体内のカリウムが100mEq失われていと考えられています。


きちんとした計算式があるようですが、ぱっとみて判断するにはこのような事を覚えておくと便利です。


次に血清カリウムが低下するとどのような症状がでてくるのでしょうか?


下表をご覧ください。


救急医の挑戦 in 宮崎


脱力感や消化器症状(嘔気、嘔吐)、周期性四肢麻痺などが出現してきますね。


また、低カリウム血症の心電図変化はT波の平定化、ST低下、U波の出現です。重症の低カリウム血症の人は危険な不整脈がでていないか心電図をとることが必要です。(カリウムが低くなっても胸痛いっ!なんて言いませんよ



救急医の挑戦 in 宮崎




救急医の挑戦 in 宮崎



軽度の低カリウム血症(3.0-3.5mEq/L)は無症状のことが多いと思います。こうした患者さんに関しては基本的に原疾患が何であるかを病歴と身体所見から推定することが大切になります。


多くの軽症の低カリウム血症の患者さんは原疾患が推定できコントロール可能であるようであれば、外来でカリウム値を正常化させる必要はありません。カリウムを多く含んだ食事を摂取するように説明して帰宅させることでいいでしょう。


中等度から重度の低カリウム血症(<3.0mEq/L)で症状を伴っていたり、危険な不整脈(VTが最もcommonです)を伴っている場合は経静脈的にカリウムを補うことが推奨されています。


経静脈的に投与する際にはカリウム濃度は40mEq/L以下とし10-20mq/hの速度を超えずに投与することが大事です(2hで40mEq/L)。しかしながら低カリウム性の心静止や危険な心室性不整脈を生じている場合は5分以上かけて10mEqを投与することができます。


また、必要に応じて1回だけ繰り返すことができます。20mEq/hを超えるような速度で投与する際にはモニターが必要になり、また末梢静脈炎を防ぐために中心静脈ラインが推奨されています。


糖を含む輸液に投与してしまうとグルコース/インスリン療法と同じ原理でカリウムが低下してしまうので糖を含まない輸液に投与することが原則です。


重症の低カリウム血症で緊急の場合は血清マグネシウム値にかかわらずマグネシウムも同様に補うことも大事です。


以前にマグネシウムの項でもお話しましたhttp://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11082215859.html が、カリウムを細胞外から細胞内に移送するナトリウム/カリウムポンプを回すのにマグネシウムが必要になるからです。つまり、マグネシウムが欠乏するとポンプが回らなくなるため、カリウムが細胞内に取り込めなくなってしまいます。


ただしこれだけでは低K血症にはなりません。腎の遠位尿細管からの排出が亢進するためであると考えられています。

http://jasn.asnjournals.org/content/18/10/2649.full


低栄養や慢性アルコール多飲の場合は低Mg血症を合併しているかもしれません。


重症例では硫酸マグネシウム50%5ml(硫酸マグネシウム2g:マグネゾール)を30分以上かけて経静脈的に投与します。



前述した通り、カリウムの欠乏量は正常値より0.3mEq低下するごとに100mEq失われていると考えられるので、かなりの欠乏量があると考えられます。


経静脈的の補給には速度の問題があり限界があります。重症例や経口摂取不能例を除いては基本は経口摂取となります。


塩化カリウムは経口であれば4-6時間毎に40-60mEqを摂取できると言われています。