本日は『黄色ブドウ球菌とCNS』についてです。
本題の前に『皮膚常在菌』と『通過菌』の違いについてですが、手指に存在する微生物は皮膚常在菌(定住フローラ、resident skin flora)と皮膚通過菌(一過性フローラ、transient skin flora)に分けることができます。
常在菌は皮脂腺、皮膚のひだなどの深部に常在しており表皮ブドウ球菌などのCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、coagulase-negative staphylococci:後述します。)が含まれ、消毒薬による手洗いによっても除去しきれません。
一方、通過菌は皮膚表面、爪などに周囲の環境より付着したもので、大腸菌等のグラム陰性菌や黄色ブドウ球菌等のグラム陽性菌など様々な微生物が含まれますが、抗菌成分を含まない石けんと流水でほとんど除去することができます。
そもそもブドウ球菌属は現在36菌種19亜種に分類されており、自然界においてはヒト、家畜を含む哺乳動物、鳥類に広く分布しています.属名StaphylococcusのStaphylo-は「ブドウの房」を意味し本属は顕微鏡下で特徴的なブドウの房状の菌集塊がみられます。
ブドウ球菌属の中で最も病原性が高くヒトの化膿性疾患やブドウ球菌性食中毒を起こすものが黄色ブドウ球菌です。コアグラーゼ陽性であり、一方表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)など多くの菌種はコアグラーゼ陰性で、これらを一括してコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase negative staphylococci;CNS)と総称されます。表皮ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌に比べて弱毒菌であり、特別な状況下(血管カテーテル感染、人工弁置換した患者の心内膜炎など)で感染を起こしえます。
つまりブドウ球菌はコアグラーゼテストによって大きく2種類に分類することができて、その代表格が上で述べたものになります。
黄色ブドウ球菌にはメシチリン感受性のMSSAとメシチリン耐性を示すMRSAに分類できます。メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)との名前がついていますが、実際はペニシリンもセファロスポリンもカルバペネムも効かない黄色ブドウ球菌のことをいいます。
一方CNSは皮膚の常在菌ですが、尿路感染症や血管カテーテル関連血流感染症以外では起炎菌にはなりにくいです。ただし免疫能が低下した患者さんでは起こしえます。CNSのうちstaphylococcous saprophyticusは単純性尿路感染症の起炎菌となります。尿のグラム染色でグラム陽性球菌をみた場合はこのsaprophyticusや腸球菌、黄色ブドウ球菌を考えます。黄色ブドウ球菌は汚染によるものかもしれませんが、全身状態の悪い患者さんではグラム陽性球菌の敗血症状態になって尿中にでてくることもあります。
S.aureusの外来株は約60%がペニシリナーゼ産生菌、約20%がMRSAであり、PCG、ABPCへの感受性株は約20%にすぎません。そのため第一世代セフェム系薬を第一選択とします。セフェムにアレルギーのある場合はCLDMを選択します。また、入院中で基礎疾患のある場合などは全国平均でS.aureuの約65%がMRSAであるのでVCMを第一選択とすることも許容されます。
CNSもメシチリン耐性株はMRCNSと呼ばれ、MRSA同様にVCMを使用することとなります。CNSの外来株の約60%、院内株の80%がメシチリン耐性であることが黄色ブドウ球菌とは異なるところです。(CNSの多くが、ぺニシンやセフェムに対して無効となります。)
本日は以上です。