本日は『リンパ節腫脹の鑑別疾患』のお話をさせて頂こうと思います。
これも総合外来をしていると『首のしこりが気になって』という理由で来院されていますが、そのほとんどは問題ないものです。
あるstudyではプライマリケアで『リンパ節腫脹』を認めた患者さんのうち、1.1%が『悪性腫瘍』だったとの報告もあります。悪性腫瘍である可能性はとても低いのです。
では、どんな疾患で『リンパ節腫脹』をきたすのでしょうか?また、どんな時により詳しい検査が必要なのでしょうか?
まずは簡単に『リンパ』について
ヒトの体の中には血管のほかにもリンパ管が全身に広がっています。全身の細胞と細胞との間の『組織液(組織液は毛細血管からしみでた血漿成分です)』は再度毛細血管を経て(再吸収されて)血液中に戻りますが、一部(約10%)は『毛細リンパ管』に入り、静脈に送られます。この循環をリンパ系といい、その中を通る液を『リンパ』といいます。
リンパの流れている量は1日2~4リットルで主な細胞成分は『リンパ球』です
リンパ球はリンパ管を通じて血管系から組織液、リンパ系へと全身をくまなく移動することができます。(単球は顆粒球は血管から組織にでてしまうと戻ってくることはできません)
このことは異物の侵入に対してパトロールするという意味で免疫において非常に重要な役割を担っているのです。
リンパ管にはところどころ『リンパ節』というソラマメ状の丸いふくらみがついています。
リンパ球は骨髄で未熟な状態で産生された後、胸腺や骨髄などで成熟し、さらにはリンパ節に移動し、そこでも増生・成熟が行われるなど複雑な経過をたどります。
リンパ節以外のリンパ組織には扁桃、脾臓や粘膜に存在するリンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue:MALT)があります。
MALTには胃、小腸のパイエル板、虫垂のリンパ組織をはじめとする消化管粘膜のリンパ組織、気道粘膜のリンパ組織、膣、子宮粘膜のリンパ組織、唾液腺、皮膚、甲状腺、胸腺などがMALTに含まれます。
耳下腺MALTリンパ腫の一例
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshns/19/3/19_3_167/_pdf
『リンパ節腫脹』の鑑別疾患はいろいろな覚え方があると思いますが、“MIAMI”と覚える方法がありますが、あまり実用的でないかな(VINDICATEで考えていけばいいでしょう)・・・.。リンパ節腫脹が『全身性or局所性』、『急性or慢性』ということも有用な情報です。
Malignancies, Infections, Autoimmune disorders, Miscellaneous and unusual conditions, Iatrogenic causesです。
Infection:『感染症』の中のウイルス性ではCMVやEBVだけでなく、麻疹、風疹、単純ヘルペス、HIVなどです。
(反応性にリンパ球が増殖するために全身性腫脹になることが多いです。)
ウイルスが宿主に感染し増殖する場合は局所感染で終わる場合とウイルス血症を経て全身感染になる場合があります。
皮膚か気道粘膜、腸粘膜から侵入しここで増殖が終了すると局所感染で終わりますが、代表ウイルスとしてはインフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルスなどの呼吸器感染のウイルスがあります。ロタウイルスは腸管で局所感染で留まるウイルスですね。
CMVやEBVは全身感染まで進展するウイルスです。
細菌性では連鎖球菌や黄色ブドウ球菌によるものだけでなく、バルトネラによるネコひっかき病やリケッチアのつつがムシ病、レプトスピラ症、結核は忘れないようにしましょう。(直接リンパ節に感染したり、反応性に腫脹するため限局性腫脹になることが多い。)
Neoplasm:リンパ腫、白血病、癌の転移
Iatrogenic/drug:薬剤性(アロプリノール、フェニトイン、カルバマゼピンなど)
Autoimmune:
抗体産生するBリンパ球が増殖するためですね。核抗体陽性の膠原病(SLE、RA、シェーグレン症候群や皮膚筋炎、MCTD)やAOSDでも認められます。また稀なものとして、川崎病やサルコイドーシス、菊池病(壊死性リンパ節炎)などがあげられます。
菊池病69例の臨床的検討
http://journal.kansensho.or.jp/Disp?pdf=0830040363.pdf
表の疾患には私も知らない疾患がたくさんあります。大まかにカテゴライズして代表的な疾患を頭に入れておいてください。そして後で時間がある時にゆっくりと教科書を見ながら検討していけばよいと思います。
こうした鑑別疾患と想定しながらの問診と身体所見になりますが、特にこの中でも患者と同様に我々も心配しているのが『悪性腫瘍の可能性がないか』ということだと思います。
ポイントは
①硬くて固定したリンパ節
②2週間以上経過している
③鎖骨上リンパ節
これらは悪性腫瘍を考慮する上で大事な所見となります。①特に石のように硬いリンパ節は癌の転移を示唆し、リンパ腫や結核によるリンパ節はゴムくらいの硬さ(弾性硬)に感じると『Dr.Tierney』はお話していました。結核の場合は片側性のリンパ節腫大となり無痛性で弾性硬になります。
感染症でも無痛性になることはあるんです。痛みは非特異的な所見ですね。腫瘍によるものでも、内部で出血壊死して痛みを呈することがあります。
リンパ節のサイズについてですが、リンパ節腫脹は場所によっても異なりますが、分類上は1㎝を超えるようなものを指していいます。鎖骨上や腸骨や膝窩リンパ節、滑車上リンパ節(5mm以上)はどのサイズでも触れれば異常です。
ですからどのサイズになると悪性を示唆するかという統一されたものはないですが、最大径が2㎝や1.5cmを超えるようになると悪性腫瘍や肉芽腫性疾患(結核、非定型抗酸菌、サルコイドーシス)を考慮するという報告もあります。
ここまでは『malignancy』を示唆する所見かどうかをお話していきましたが、『リンパ節腫脹の鑑別疾患』についてはどのようにしていけばよいのでしょうか?
基本はやはり病歴です。感染症、薬剤、旅行歴、環境暴露、職業暴露、性交歴、家族歴などの聴取が大事です。
そして関連する症状の有無(自己免疫疾患を疑うような症状はないか、など)を聴取し、身体所見をとります。 身体所見の中ではリンパ節の腫大がないか全身をしっかりと観察してください。
後頚部のリンパ節というのはリンパの流れをみても口腔や咽頭粘膜の感染症で腫れてくることは少ないと考えていいです。感染症では全身性のウイルス血症、特に伝染性単核球症が鑑別疾患の筆頭ですね。
頭頸部のリンパ節だけでなく、腋カリンパ節や鼠径リンパ節もしっかりと診察してください。
頭頸部リンパ節腫脹で非定型抗酸菌や猫ひっかき病、トキソプラズマ、菊池病、サルコイドーシス、川崎病では数か月も腫脹が持続し悪性腫瘍との鑑別に悩むことがあります。
腋カリンパ節腫脹は乳癌の転移として有名です。鼠径リンパ節はmalignancyの可能性は低いですが、陰茎や外陰、肛門の扁平上皮癌やリンパ腫の可能性がないかしっかり観察してください。
全身性のリンパ節腫脹とは2つ以上、解剖学的に離れたリンパ節が腫脹していることをいいます。
限局性のリンパ節腫脹より、重症感染症、自己免疫疾患、腫瘍の播種を示唆しますので検査に値します。勿論、アデノウイルスや単核球症といった良性疾患の可能性もありますが、白血病やリンパ腫、進行癌の播種などを考慮します。
最後に頚部リンパ節の触診の動画を紹介します
http://www.youtube.com/watch?v=fHR2Tw6DxEg
本日は以上です。
医師や医療者に無料で相談・質問できるアプリ
「メディカルアンサー」