雨用の靴&靴の製法色々 | ”Bench work study" Hand sewn welted製法の靴作り教室

雨用の靴&靴の製法色々

 今日お客さんと次に作る靴のことを話し合っていて、スウェードの革をお見せして『この革は撥水性がありますよ。』という言葉から、雨用の靴を作りましょうと言うことに急転換しました。『革底の革靴を雨用??』と不信がる人は多いいと思いますが、雨用の革靴も可能です。台風のような大雨じゃ、やはり不安ですが、小雨や『今日は雨の確率が50%だけれど、どの靴履こう?』と悩むようなときには是非お勧めしたい、というような靴は可能です。


 この場合、アッパーの革はエナメルかスウェードかヌバックの革を使います。エナメルは水をはじきますので、お分かりいただけると思いますが、スウェードやヌバックは”毛”がある為に、革の地肌(銀面)に直接雨が付きづらく、”毛”が守ってくれる。今回仕入れていたスウェードは油分が多い革だったので、水をつけても革の上で水の粒となって乗っかっていて、水を良くはじく。油分の少ないものでも、スウェード用の防水スプレーを吹きかければ同じように機能してくれるので、問題ない。


 さて、底材。通常と同じ革底材を使いますが、作る際にソールの革は良く水に浸して水気を取った後、じわじわと乾くように影干しを少しして、湿りけのあるうちにハンマーでガンガン叩いて、きめを潰しておく。こうしておくと革は硬くなって若干薄くなりますが、目が詰まってその後、水に濡れても、縮まなくなる。こうしておいて、出し縫いすると水に濡れても革の縮みも少なく、水の染込みも少なくなるのですが、さらに、雨用にするにはソールとフィラーの間に、防水性&撥水性の高い布を入れておくと、ソールが水に濡れても靴の中にまで染込むことがなく、さらに安心。この布は防水&撥水性のあるフィールド・ジャケットに使われるような布を入れるのが良い。下手にビニールのような通気性のない物を入れると、履いた後、水が靴の中に溜まって逆効果。布であることがポイント!


 以上のことで、かなり雨対応できますが、もう一押し。『水』を何が何でも入れないぞ!という場合に、ウェルトを『ストーム・ウェルト』にする。(日本ではノウィージョン・ウェルトって売られてる)これは、ウェルトの形状が普通のウェルトのように平らな革でなく、ウェルトの中央部に山が付いているもの。この山を木型の輪郭を縁取るように掬い縫いしていくと、ウェルトとアッパーの間の隙間がなくなる為に、雨をシャット・アウトできる製法です。


 こんな感じで、雨用靴が出来上がります。後は、雨の日に履いた後、新聞紙を丸めて靴の中に入れて、しっかり湿気を取った後、シュー・ツリーを入れて、トリートメント効果のあるクリームを靴底に塗って頂けたら、完璧!雨の日もダンディーでいられます(笑)。


 『ストーム・ウェルト』も『ヴェベルド・ウェイスト』も『スクウェア・ウェイスト』もインソールの作り方が違うので、生徒の皆さんには、実際にそれぞれを作ってみて製法の違いを楽しんでもらいたいです。この他の製法としては『ノウィージョン・ウェルト』(アッパーの脇に縫い目が見えるもので、アッパーをインソールと縫った後、アッパー下の部分をウェルトとして使う製法)こちらも、防水に良い。それから、『ノウィージョン・ストーム・ウェルト』ってのもある。こちらはノウィージョンとストームの合体型で、ウェルトとアッパーとインソールをノウィージョンの要領で縫い付けた後、ウェルトを倒してソールと縫う製法ですが、見ないと「何のこっちゃ?」って、感じですよね(笑)。そのほかに『ノウィージョン・ストーム・ノウィージョン・ウェルト』(他の製法名があると思いますが。。。)って、もういい加減にしてちょ!って感じの製法もあります。こちらは簡単に説明すると、やたらとステッチが多い製法です(笑)。(注:製法の呼び名は国や会社で違います。ノウィージョン系は特に!ややこしい。)


 その他は『ブラインド・ウェルト(またはドレスと言う』」(ウェルトを見えないように前周ヴェベルって感じです)、『パンプ製法』、『チャンネル・ウェルト』(ウェルトにチャンネル(ふた)を空けて縫う製法です。)とりあえず私が出来るのは上記の製法です。まだ、靴の製法は色々あるけれど。。。。『オパンケ(カ)』は日本でやり方覚えたけれど、見た目が『かっこいい』とも『美しい』とも思わないので、たぶん一生作らないと思うし、『マッケイ』は機械生産用に開発した製法なので、これをわざわざ手でやる必要性が全くわからないので、やらない。『マッケイ』については、生徒からも時々聞かれるんだけれど、マッケイ製法だと、オールソールの修理の限界回数が2回くらい。機械だと、元の穴と同じ穴に縫うことが不可能に近いらしいので、何度もオール・ソール取替えをするとインソールが穴だらけになってしまうので、2回位が限界だそうです。修理の場合、手で穴を見ながら縫えばもっとソール取替えができると思うから、修理用にマッケイ製法を知っておくのも良いかと思うけれど、仕事で賃金貰う場合、人件費がかなり掛かると思います。。。。


 それとマッケイは掬い縫いをしないでインソールとアッパーとソールを直接いっぺんに縫うので、縫うまでアッパーはインソールに糊付けしているだけで、アッパーとインソールの一体感が弱い。釘でグイっとつり込みしたまま、ウェルトを縫いつける掬い縫いがない分、テンションの掛かり方がハンドソーン・ウェルテッドよりだいぶ劣るし、生産性の良さ以外に長所が見つけられなく、興味もわかないので作らない。このテンションの弱さはパンプ製法でもいえるけれど。パンプはオペラ・パンプスとルーム・シューズ用なので知っておいても良いかなと。ま、日本でハンドソーンの革底のルーム・シューズを履く人はいるのだろうか?ですけれど、イギリスではベルベットのスリッポンで甲の部分に手縫いの豪華な刺繍が施される。家の家紋や会社のマークを入れる人もいるし、奥様が自分で刺繍して、『夫へのクリスマスプレゼントに!』なんて素敵なことする方もいました。私はあのルーム・シューズ見ると、バスローブ着てブランデーを片手に、葉巻をくゆらしてる姿を想像してしまいますが。。。(笑)私も一足持ってるので、今度教室に持っていきますね。ロブではクリスマスに社員に一足靴をプレゼントしてくれるんだけれど、その靴はお客さんがキャンセルした靴や、修行中の職人が作った靴の中から選ぶから、自分の足に合うものは見つからないので、何でもいいや!って、このスリッパを貰ったの。それが、なぜかサイズがぴったりで驚いたんだけど、履く機会は今だなし。今度、バスローブとブランデーと葉巻を用意して履いてみようかな?(笑)