「いくおーる」オガワです。
皆さんご存じの通り、解散総選挙が確実視されています。
選挙となると、毎回聴覚障害者の参政権の問題がクローズアップされます。

以前月刊ニューメディア誌に掲載したものをここに再掲させていただきます。
状況のご参考になればと。
※内容は最新の状況にあわせ修正したつもりです。文責オガワ

■聴覚障害者と政見放送
 参政権は生存権、教育を受ける権利と並ぶ、国民の三大権利であると中学校の頃学びました。この参政権が十分に保障されていないのが障害者、特に聴覚障害者です。

 選挙のたびにテレビで候補者による政見放送が行われますが、これには字幕や手話の挿入は不十分で、特に字幕はほとんどありません。高齢で聴こえにくくなった方も大勢いますが、そういう方は見ても理解できないのです。
 かつて立会演説会に手話通訳が認められていた時代がありましたが、昭和58年の公職選挙法改正で立会演説会そのものがなくなりました。聴覚障害者に文字情報を伝える要約筆記にいたっては、公職選挙法上電光掲示のネオンサインなどと同様の扱いで、選挙期間中演説等での使用が禁じられています。それ以来、聴覚障害者の多くは候補者の生の声に接する機会を持てないまま、参政権が奪われた状態に置かれています。

 そうした中、20年以上に渡る当事者を中心にした運動と、その周囲の協力者、放送関係者の努力で、政治参加の保障を目指す取り組みが進められてきました。特にテレビの政見放送については字幕・手話通訳の挿入を盛り込んだ公職選挙法の改正をもとめ、政党や選挙管理委員会などに要望を出し、懇談や交渉を持って来ました。

 その結果、現在は衆参両院の比例代表制選挙で、放送局収録の政見放送について、候補者・党が望めば手話通訳付きで収録、放映されます。都道府県知事選挙でも、準備のできた地域から両院の比例代表制選挙と同じ方法で手話付きで実施されています(手話通訳者が準備できない地域では後回しになってます)。

 衆議院小選挙区では、政党持ち込みビデオはそのまま放送することになっており、政党の任意で手話・字幕を入れられますが、入れなかったり部分的に欠落している政党もあります。参院選選挙区の手話もこれからです。
 オガワが一番大きいと考えている問題は、衆議院小選挙区と参議院比例区以外の選挙では、政見放送に字幕が付与されないということです。

 このように現行の公職選挙法のもとでは、政見放送や街頭演説会等に字幕や手話通訳、要約筆記といった情報保障手段が部分的にしか行われていません。これは聴覚に障害を持つ有権者への差別であり、権利の侵害です。聴覚に何らかの機能障害を持つ人たちは、自覚していない人たちも含めて1,940万人もいます(補聴器供給システムの在り方に関する研究会報告書)。障害ゆえに、不公平な状況にあり参政権が保障されておらず、基本的人権が奪われています。

■乱高下!? 障がい者制度改革推進会議の動向
 そんな中で、「国連障害者の権利条約」が2008年に発効しました。(略)
 総務省では政見放送に関して、21年の閣議決定「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」に基づいて取り組み、政見放送についても22年度中を期限に一定の方針を出すことになっていました。手話については都道府県知事選挙にも手話通訳の付与をと改正されました。
 翌年字幕についても規定が改正され、参議院比例区選挙政見放送での字幕が実現しました。
 総務省では字幕付き政見放送の実施については現行法でも可能と考え、GOサインを出していますが、NHKが技術的困難を理由に実施されないままでした。
 大きいのは物理的問題です。放送局のスタジオに、候補者が来て政見を収録します。それを文字起こしして、本人がいる間に確認してもらうという流れでやっているのです。選挙を前に分刻み、秒刻みのスケジュールの候補者を留めて、その間に手話、字幕確認するというのですから、大変な作業です。
 また万一間違った字幕があったときに、立候補者に不利益になることを恐れているのかもしれません。
 ですが、字幕のないことが聞こえない、聞こえにくい多数の国民にとって大きな不利益であること、放送局や政党だけでなく候補者自身も考慮すべきです。そのへんはだんだん理解が広まっているのでしょう。

■政治関係の放送にこそ手話・字幕を!
 政見放送だけでなく、国会中継など、国民の注目が集まっているときにも、肝心の字幕放送、手話放送がほとんどない状態が長く続きました。聴覚障害者は関心があっても疎外されてしまいます。
 国会中継や党首討論などにも字幕、手話が必要です。最近は生放送番組に字幕が付くことが増えてきましたが、このような注目されている番組にこそ、ぜひ字幕、手話をつけてほしいと思います。
 私たちは政治的主張をしているわけではありません。それ以前の、皆さんの主張が伝わってこない状態に置かれているのです。政治へ参加する機会も奪われているのです。
 以前86年の参院選東京選挙区で手話で話すろう者が立候補したことがありましたが、そのときは手話通訳の読み取りが認められず、テレビ・ラジオで「音のない政見放送」が流れ、話題になったことがありました。単に字幕や手話を付ければよいわけではないことは、ご理解いただけるかと思います。
 障害者の人権、聴覚障害者の情報アクセス権を守ることは、全ての方が安心して暮らせる社会のために必要なことなのです。
 このような経緯があることを、ぜひ皆様にも知っていて欲しいと思います。
(以上)