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デジタルガレージのネットVB目利き術――「有望株」創業期から投資

2012/01/26 日本経済新聞 



ツイッターにも注目
 ミニブログ大手の米ツイッターや、交流サイト(SNS)最大手の米フェイスブックなどに、早い時期から出資していた日本企業がある。業界の草分けで、ネット広告や決済を手掛けるデジタルガレージ(DG)だ。インターネットの世界ではいかに早く新しい技術やビジネスモデルを見いだし、果敢に投資をするかが死命を制する。DGの「目利き力」を探った。(杉本晶子)
 DGは今年1月、米ネットベンチャーのピボタルラボ(カリフォルニア州)のシンガポール子会社と、米オハイオ州のエッジケースを買収した。買収金額は合計で10億円弱とみられるが、業界では注目を集める。2社が最先端の手法とされる「アジャイル開発」の有力企業だからだ。
 アジャイル開発はソフトの開発・検証を週単位で繰り返し、迅速なサービス開始や柔軟な機能改善につなげる手法。ネット企業の素早い機能改善を支えている。特にピボタルラボは米ツイッターや米グルーポンなど有力企業を顧客に持つ。
 2社買収には伏線があった。DGは昨年8月に米ピボタルラボの最高技術責任者(CTO)だった米国人のイアン・マクファーランド氏をCTOとして迎え入れた。
 マクファーランド氏は旧知の間柄だったDGの林郁最高経営責任者(CEO)や伊藤穣一取締役とアジャイル開発の将来性などについて意見を交わすうちに意気投合。ピボタルは大企業からの業務受託が事業のメーンで、高い技術を持ちながら黒子的な存在だった。DGの一員に迎え入れ、ノウハウを他のベンチャー育成にも活用する考えだ。
業界人脈を活用
 創業18年目を迎えるDGは林CEOと伊藤取締役が共同で設立。日本で初めて個人のホームページ制作を手掛けたが、本業は決済など法人向け事業だ。
 地味な存在ながらDGは日米を問わず、数々のネット企業に創業初期から出資してきた。米ツイッターには創業から複数回出資し、ビジネス向け交流サイト(SNS)のリンクトインの株主でもある。今年にも株式公開が予想されるSNS世界最大手の米フェイスブックにも出資している。1996年に出資した検索大手の米インフォシークは99年に米ウォルト・ディズニーグループに売却。02年に出資した価格比較サイト、カカクコムは05年に東証1部に上場している。
 目利きのきっかけとなるのは、DG創業者で取締役の伊藤氏らがもつ業界人脈だ。伊藤氏は昨年4月、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの4代目所長にも就任した。メディアラボはITとアートの両面から、次世代のデジタル技術を研究する機関で、電子書籍端末向けに普及した「Eインク」など数々の新技術を生み出した。
 海外企業から見た場合、DGの魅力は1億人近いネット人口を抱える日本で法人顧客をおさえている点だ。DGはネット広告では約700社、決済では4万1000以上のサイトを顧客に抱える。ツイッターの日本進出では日本語版の開発や広告営業などを一手に引き受け、ユーザー獲得を支援。リンクトインにも同様のお膳立てをした。
 さらに日本でも起業家支援プログラムを設けている。年2回開催する同プログラムからはすでに10社が産声をあげた。そのうちの1社、ワンダーシェイクはスマートフォン(高機能携帯電話)の位置情報を通じ、近くにいる趣味の似た人と交流できるアプリ(応用ソフト)を開発した。同社の鈴木仁士代表は「『世界に打って出る』という考え方に共感してもらえる点は心強い」と話す。
 ネットの先端技術に着目した同社の投資時期は極めて早い。ある程度事業性を見極められる規模に育った企業に巨額の資金を投じて買収するソフトバンクや楽天とは手法が異なる。
時期誤り失敗も
 ただ時期が早すぎて失敗したり、収益に結びつかないケースもある。ここ数年では投資先企業の減損処理が響いてたびたび最終赤字に陥った。市況の見通しの甘さから株売却のタイミングを見誤ったことなどが敗因だ。資金力も乏しいため、米有力VCとの競争に太刀打ちできなかったケースもあるとみられる。
 ほぼ同時期に設立した楽天やヤフーは、株式時価総額1兆円超に育った。一般消費者向けの楽天やヤフーと単純比較はできないが、DGの時価総額は約440億円。林CEOは起業の次の大波をとらえ、「ベンチャー育成の新たなエコシステム(生態系)をつくる」と成長戦略を描く。
伊藤取締役に聞く
米MITラボ所長兼務
研究の独立性を重視
 ――米MITメディアラボの所長に就任した。ビジョンは。
 「『みんなが思いついてないことをやる』ことを徹底する。ラボでは300以上のプロジェクトが進行中。ベンチャーに似ていると痛感するのは、何が当たるかやってみないとわからないところ。思わぬところが面白くなることもよくある。研究の方向性は独立性を貫く。スポンサー企業が間違っていることもあり、スポンサーの見方を否定することも必要だ」
 ――デジタルガレージとラボとの関係は。
 「DGはラボのスポンサーでもあり、パイプを強めていく。新技術への投資案件も出てくるだろう。DGは海外で技術者採用を増やす。エンジニアとサイエンティストの両方だ。数学に強くないとつくれないサービスなどを開発したい」
 ――ソーシャルメディアなど草の根の情報発信の拡大で何が起きる。
 「日本でも震災を機に、ツイッターなどソーシャルメディアの社会における重要性が増した。民主化革命が起きた海外も同様だ。ツールとしてさらに進化していく必要がある。サービス提供者も人権問題も含めて、いまより責任が出てくる。例えばフェイスブックはある日、ユーザーのプロフィルに『誰が自分の友達か』を表示する仕様に切り替えた。中東の人たちは突然、どんなデモに行ったかなどが他の人に分かるようになってしまった。フェイスブックが中東の利用者が受ける影響を真剣に考えたようには思えない」
【デジタルガレージの過去の主な投資先】      
投資先企業   投資時期   現 状
米インフォシーク〓(検索エンジン)   1996年10月   1999年6月約7億3000万円でウォルト・ディズニーグループに売却〓(現在は楽天傘下)
米フェイスブック〓(SNS)   -   継続保有
米ツイッター〓(ミニブログ)   2008年1月から複数回   継続保有
米リンクトイン〓(ビジネスSNS)   -   継続保有
米パス(SNS)   2011年2月   継続保有
カカクコム〓(価格比較サイト)   2002年6月   2003年10月マザーズ上場、現在は持ち分法対象会社に
(注)―は非公表、米企業への出資比率・投資金額なども非公表