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実は離職率の高いインド人、日本企業はどう対応するべきか?

東洋経済オンライン 3月 4日(木) 11時 1分配信 / 経済 - 経済総合
実は離職率の高いインド人、日本企業はどう対応するべきか?
対応にはノウハウが要る
 ITの能力に優れたインド人を雇用する日本企業は増え続けている。日本企業が成長していくためには、インド人エンジニアをうまくマネジメントしていくことが重要だ。

 そこで、インドビジネスに詳しい株式会社ネクストマーケット・リサーチの須貝信一代表取締役に、日本企業がインド人を雇用する場合のポイントを聞いた。同社はインド、南アジアの企業・金融・経済情報の提供のほか、インド進出支援コンサルティングなどを行っている。

――日本には独特の雇用慣行やビジネス習慣がありますが、インド人スタッフの雇用管理で気をつけるべきところはありますか。

 インド人は欧米式のビジネス習慣に慣れています。日本的な雇用慣行である「終身雇用」や「年功序列」にはなじめないでしょう。インド人に限らず、外国人には理解しづらいと思います。

 インド人は植民地時代に作られた英国式の義務教育システムのなかで育ち、欧米式のビジネス教育を受けています。特に年功序列は「遅い昇進システム」とも呼ばれ、自発的に行動できる社員、優秀な社員がやめてしまいがちです。

 ただでさえインド人は離職率が高いことで知られていますが、「長年勤務しても正当に評価されるとは限らないリスク」を抱えながら労働し続けることは、経済合理性を重視するインド人にはまったく向いていないと思います。インドでは一般的に成果主義です。

■離職率の高さを嫌ってインドから撤退
 
――インド人スタッフの離職率は高いのですね。

 そうなんです。解雇すると元従業員による訴訟が起きたりするのに、離職率は高い、というのがインドの労働市場の特徴です。

 今、世界中の企業がインドに進出していますが、その一方でインドから撤退していく企業もあります。そういった企業の撤退理由の一つとして「高い離職率」があります。特に幹部クラスの離職は、いろいろなリスクもはらんでいます。

 優秀な人にといっては売り手市場ですから、余計に離職率が高くなります。高給を提示してくる外資系企業や海外にいってしまうからです。ヘッドハンティングも珍しいことではありません。

 一方、企業と労働者の相性がよければ20年、30年勤続ということもよくあることです。

 日本にいるインド人IT技術者から話を聞くと、「今後もずっと日本の今の会社にいるかはわからない。欧米企業にいくいことも考えている」「インドに戻ると思う」と次のステップアップに欧米やインド企業への転職を意識している人も少なくありません。日本語をある程度覚えつつある人でもそうです。

 「今の会社でずっと働く」という意識は希薄です。また、転職ではなく独立する人も多く、日本でIT技術者として活躍した後、インドに帰国し、日本向けにビジネスを開始する方も増えています。

 話がそれますが、日本企業を相手にビジネスしていたインド現地のベンチャー企業が、金融危機のときにバタバタと倒産したという話も聞きました。それだけチャレンジ精神が旺盛かもしれません。経済が元気でチャンスもリスクもあふれているということも離職率の高い原因かもしれません。

■労働者側の権利意識が非常に強い

 そのほかの理由としては、歴史的背景があります。

 インドでは新経済政策に移行する1990年代初頭まで社会主義との混合型経済運営を行っていましたので、労働者側の権利意識が非常に強いことで知られています。

 経営側と労働側は対立することが多く、労働争議は過激、雇用契約では「主張しないと損」と考えるのが普通です。「企業に依存したくない」という思いや忠誠心の低さが伝統的にあると思います。

 また、待遇の問題では、やはり給与に関することでしょうか。インド企業では、おおむね年率15%程度平均給与が上昇、IT企業は20%程度上昇しています。賃金上昇率は世界で1位、2位を争うほどです。

 特にIT業界の場合は、インドが経済成長しているからというほかに、労働市場がグローバル化していることが理由と考えられます。転職の選択肢がグローバルなのです。

――毎年15%給料アップですか。高度経済成長時の日本という感じですね。日本のIT企業で働くインド人の給与水準はどうなのでしょうか。

 就職している企業にもよりますので何ともいえませんが、海外で働くインド人の給与水準は一般的に他の国の在留外国人よりも高いかもしれません。

 あるデータによれば在米インド人の平均所得は、米国平均を大きく上回っていて、国別では在米日系人に次いで2位です。また、在米インド人8人に1人がミリオネア(個人の金融資産100万ドル以上)であるとのデータもあります。

 シリコンバレーのネットワークがそうさせているのだと思います。在米インド人の6割以上が、専門職か管理職についています。3人に1人が大学院修了とのデータもあります。

 米国での統計をそのまま当てはめるわけにはいきませんが、在日インド人の給与水準は決して安くはないと思います。インド現地の場合は、大都市周辺部と地方都市などで給与水準に開きがあり、低いところはかなり低いです。

――なるほど、給与はそれほど安くはないと。それにしても、在米インド人8人に1人がミリオネアですか、すごいですね。離職率低減のためにむやみに給与を引き上げるわけにもいきませんが、高い離職率にはどう対応すればよいのでしょうか。

 雇用の流動性という面で、必ずしも離職率が高いから企業が悪いというわけではないと思います。たださすがに離職率が30%を超えるような企業は明らかにマネジメント上に何らかの問題があると考えたほうがよさそうです。

 会社の戦力となっている優秀な人材、教育訓練を受けさせた人材が簡単に辞めていくのは、会社にとって損失です。これを解決するには、「客観的で納得できる評価システム」が重要です。

 会社の評価が適切であっても、インド人の場合、昇進・昇給する同僚を横目で見ると、素直に納得しないことがあると言われます。そういう面で、インド人に向いている評価システムがあります。

 ズバリそれは、「360度評価システム」です。上司だけでなく、同僚、部下、場合によっては顧客や取引先が評価者となります。全員参加という負荷がかかりますが、客観的な評価や参加意識、チームワーク意識も生まれやすくなります。

 従業員は評価に対する納得感が高まり、言い訳を言うことも難しくなります。実は、この評価制度はインドに進出した日系企業でも見られる人事制度ですので、運用は難しくないでしょう。

 導入に負荷を感じる場合、中間管理職以上にだけ導入することも良いかもしれません。上司がどんどん退職するような環境では離職率は改善しませんので、マネジメントレベルに合わせ、まずは管理職に対する評価方法を変えることが重要です

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須貝信一(すがい・しんいち)
1973年生まれ。法政大学英文科卒業。外資系IT企業、インド関連コンサルティング会社にて取締役として事業の立ち上げ等を経て、現在はネクストマーケット・リサーチ代表取締役。中小企業診断士。

ネクストマーケット・リサーチ
インド・南アジアの企業・金融・経済情報の提供のほか、インド進出支援コンサルティング、インターネット関連事業などを行っている。http://nm-research.com

(聞き手:人事・労務マガジン編集部 田宮寛之)
※写真は本文とは関係ありません。