上岡敏之 新日本フィルハーモニー交響楽団 河村幹子(ファゴット) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。


317日、すみだトリフォニーホール)

 久しぶりに上岡節がさく裂した。ベートーヴェンの交響曲第1番の第4楽章アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェの快速テンポと推進力のある指揮は、カルロス・クライバーの第4番終楽章を思わせるものがあった。

 

モーツァルトのファゴット協奏曲は、新日本フィルの首席河村幹子が、ややゆったりとしたテンポで確実な演奏を聴かせた。上岡&新日本フィルはきめ細やかに河村につけていた。


 シューマンの交響曲第2番は第2楽章スケルツォの速いテンポがすさまじい。特に3つ目のスケルツォとコーダの速さは聴いたことがないもの。また2つのトリオの歌わせ方もユニークだ。最初の木管による三連音のトリオは軽やかに浮遊するようで、第2トリオの流れる旋律も幻想的だった。

 一方で、第3楽章アダージョ・エスプレッシーヴォは主題を支えるヴィオラ、チェロ、コントラバスをしっかりと弾かせた。主題に注意が向きがちだが、上岡の解釈は知られざる部分を教えてくれた。また、情熱をこめて演奏されることが多いこの楽章で、上岡は繊細さを打ち出していた。第4楽章は、後半部分が前半とまったく違う主題になるので、最初の勢いを維持するのが難しい。上岡は、弛緩することなく、一気に聞かせた。終結部は輝かしいものがあった。

 

 定期公演では珍しいアンコールは、なんとモーツァルト交響曲第41番「ジュピター」第4楽章。ベートーヴェンとシューマンがともにハ長調であり、同じ調性であることから上岡が選んだのだろう。ベートーヴェンの第1楽章第1主題が、「ジュピター」の第1楽章冒頭と似ていることも思いだした。

 

 最後に、シビアな意見になるかもしれないが、コンサートを通して感じたことがある。上岡敏之の先鋭的な指揮に、新日本フィルの楽員が少しとまどっているのではないだろうか。両者の息が微妙に合っていないように見えた。動きの速い上岡の指揮についていくのは大変かもしれないが、楽員にどんな指揮でもくらいついていくぞという積極的な姿勢がこれまで以上に出たならば、更に白熱した演奏になるのではないか。上岡と新日本フィルの最初の出会いとなったR.シュトラウスの「家庭交響曲」の熱のこもった名演を思いだす。上岡敏之が音楽監督となった現在、あの演奏の再現は難しくないはずだ。今後の両者の熱い演奏に期待したい。
写真:上岡敏之(cNaoya Ikegami