木下さんは何者か?の考察~ベスト版②~(パソコン読者用) | 新・バスコの人生考察

木下さんは何者か?の考察~ベスト版②~(パソコン読者用)

※過去の木下さんの記事をごちゃ混ぜにして再編集


 先日のことです。


 家の台所で、僕の母親と2人で昼ご飯を食べていたところ、近所のおじさんがやってきました。


 このおじさんの家は、昼ご飯が用意されていません。冷蔵庫に何もない日は、僕の家にきて食べるのです。


 ですが、僕の母親が「焼き飯でいい?」と訊いても、このおじさんは返事をしません。「ハア」とため息をついて、いかにも悩んでいる様子を見せつけてきたのです。


 僕が「どないしたん?」と訊いても、「うるさい!2人に言うことは何もない!」と怒鳴って、理由を教えてくれません。そこで僕の母親が、「いいから言ってみ。何を言っても驚かへんから」と、とびきり優しい言い方で話しか

けたところ、このおじさんが重い口を開いたのです。


 「2人、こないだ、俺を病気にしようとしたやろ?」


 言われた僕らは、何のことかわかりません。風邪を引いて咳き込んだ覚えもなく、まったく心あたりがないのです。


 「具体的に言ってくれ!言わないと俺らもわからへんから!」


 僕は声を荒げました。すると、ようやく事情を説明してくれたのですが、これが謎の言い分だったのです。


 なんでも、缶のジュースを飲み切らずに放置しておくと底に水銀がたまり、それを飲むと水俣病になる、と言うのです。先日、缶に残っていたジュースを僕がこのおじさんに注ぎ、「これ、飲んでしまって!」と言って、僕の母親も注いだらしいのです。


 何なんですか、これ!意味がわからないでしょ、こんなこと言われても!?


 たしかに、このおじさんはそのジュースを飲みませんでしたよ。今思えば、どことなく寂しそうに帰りましたよ。


 ですが、こんな理由で怒られる筋合いはありません。「そんなんで水俣病になるわけがないやろ!」と僕が怒ったところ、「いや、ほんまや!2人とも俺のことが邪魔になってんやろ!?」と取り乱したのです。


 僕はイラッときました。


 「ちょっと待っとけ!」


 こう言って2階に上がり、僕の部屋の冷蔵庫から、飲みかけのコーラを持ってきました。実は先ほど飲んでいた残りなのですが、「これは昨日の残りや!これを飲むから見とけ!」とウソをついて、ガブ飲みしてやったのです。


 これでさすがに納得するやろ……。これ以上の証明の仕方はないやろ……。


 僕はこう考えて安心していたのですが、途中で一気飲みに疲れて苦しそうにした途端、このおじさんが「ほら!」って言うんですよ!


 いやいや、一気したからや!炭酸を一気しすぎて苦しくなっただけや!


 「ほら!ほら!」


 ホラやわ!ほらじゃなくてそれはホラ!


 「たけちゃん、吐き!俺が悪かった、すぐに吐き!」


 そんなんと違うわ!そもそもすぐに水俣病になるわけないやろ!


 このおじさんの名前は、木下さん。


 僕の近所に住む、「天然の天才」なのです。


 雨宿りしている僕に、「傘を持ってきたるわ!」と言ってそのままこなかったり、こないだなんて道行く外国人に、「HOW DO DO DO DO DO?」と話しかけたのです。


 何回ドゥーって言うねん、お前!村上ショージでもそんなに言わんぞ!


 とにかく、おかしいのです。「日本一頭がおかしい」と言っても過言ではない、奇人中の奇人なのです。


 そこで今回は、「木下さんは何者か?」の考察~ベスト版②~です。


 木下さんは、うちの母親の同級生で64歳。ボロボロの自転車屋を経営し、奥さんとの共働きで、僕の小学校の同級生の息子(サラリーマン・既婚)と娘(フリーター)がいます。


 このプロフィールを踏まえていただき、以下、木下さんにまつわるエピソードをご紹介します。信じがたいお話ばかりなのですが、すべて実話です。


検証エピソード①『ソフトクリーム』
 これは、つい先日のお話です。


 その日の昼すぎに、僕は昼ご飯を買うべく、近所の弁当屋に並んでいました。


 弁当屋の近くには、木下さんの自転車屋があります。待たされるあいだに遠目に眺めていたところ、木下さんの息子家族が自転車屋の前にいました。


 木下さんの息子家族は、仕事の関係で京都に住んでいます。木下さんとはめったに会わず、休日を利用して帰省していたのです。


 木下さんが、3歳になる孫娘を見て笑っているのが見えました。頭をなでたり、高い高いをしたりと、めったに見せない笑顔だったので、僕はほっこりしながら見つめていました。


 しばらくして、木下さんが僕のところにやってきました。


 孫娘のためにソフトクリームを買いに行くらしく、僕の分も買ってきてくれる、と言います。その店はここから5分足らずのところにあり、コーンのフタをしてくれることから、お持ち帰りができるのです。


 いつもは、ごちそうなんてしてくれません。頼んでもいないのに、自分が勝手に買ってきたものを「はい、これ!」と言って渡し、あとでお金を請求してくるような人です。よっぽど機嫌がいいのでしょう、この日は、「たけちゃんもおごったんで!」と言ってくれたので、僕は厚意に甘えることにしました。


 10分後。


 「溶けるからどいて!溶けるからどいて!」


 遠くから叫び声が聞こえてきました。100メートル以上も向こうから、「溶けるからどいて!溶けるからどけよ!」と叫びながら、自転車に乗った木下さんが猛スピードでこちらに向かってきたのです。


 ですが、たいして人などいません。「どいてくれ!お願い、頼むからどいて!」と、人がいないところでも叫んでいます。僕は腑に落ちないながらも、そのさまがおかしくて遠目に眺めていたのですが、木下さん、そのまま自分の家の前を通りすぎたんですよ!


 なんでやねん、お前!お前、何年そこに住んでんねん!


 「どけよ!」


 もう行きすぎてんねん!お前の目的地はもうないねん!


 しかも、けっこう通りすぎてるんですよ!カーブを曲がりかねない勢いで通りすぎているのです!


 「おっちゃん、行きすぎてるわ!」


 結局、僕が教えてあげて、木下さんは気がつきました。ですが、溶けかけのソフトクリームを、先に僕のほうに持ってきたのです。


 孫のほうに先に持って行けよ!急いで帰ってきてんやったら、どう考えても孫のほうが先やろ!


 もう、あきれて声が出なかったですよ。


検証エピソード②『昼寝』
 これも、つい先日のお話です。


 僕は仕事に行き詰まると、近くの図書館に行くことにしています。たくさんの本に囲まれていると発想が出やすく、頻繁に利用しています。この日も仕事に行き詰まり、図書館に向かって原付きを走らせました。


 道すがら、ふと視線に入った公園のベンチで、木下さんが昼寝をしていました。


 木下さんは自転車屋が暇で、日ごろから街を徘徊しています。僕の家にくるか、どこかで昼寝をするかして時間を潰しているのです。


 そこで、何かおもしろいネタは拾えないかと、木下さんに近づくことにしました。


 ですが、天然百戦錬磨の木下さんといえども、そう簡単にネタは落ちていません。出すときは一気に出してくれるものの、口をムニャムニャしながら眠っているだけで、おもしろそうなことは何もありません。僕は仕方なく、図書館に向かいました。


 2時間後。なんとか仕事も完成し、僕は図書館を出ました。


 家に帰るために、再び、原付きを走らせました。すると先ほどの公園で、木下さんがまだ昼寝をしているのが見えたのですが、この段階で軽く雨が降っているのです。


 こんなもん、普通、目を覚ましません?小雨とはいえ、顔に少しでも雨がかかったら目を覚ますでしょ!?


 なのに、木下さんは平気な顔をして眠っています。大雨になりそうな感じがしたので、起こしてあげることにしました。


 「おっちゃん、起きろ!雨が降ってきたで!」


 木下さんは、顔に雨がかかっているのに寝息をたてています。僕が話しかけても、口をムニャムニャさせながら眠りこけていたのですが、僕が体を揺らすと目を覚ましました。


 「うわー!たけちゃん、どないしたん!?」


 僕を見て、木下さんは叫びました。口をムニャムニャさせながら寝ぼけていたので、「どうもこうもないよ!今から大雨になるかもしらんから俺の家においで!」と言って、原付きの後ろに乗せて帰ることにしたのです。


 ただ、木下さんが目を覚ましてもなお、口をムニャムニャさせていたので何気に口元を見たところ、これガムやったんですよ。


 なんでやねん、お前!さっきまで寝てたよな!?寝息たてて熟睡してたよな!?


 「ムニャムニャ。ムニャムニャ」


 ムニャムニャやあるか、お前!ちょっと待って、ガム噛みながら寝る人なん!?ムニャムニャはガム噛んでただけやったんや!?


 しかも噛んでるガムがまた、眠気覚ましのブラックガムなのです。


 どういうことやねん、お前!眠気覚ましのガム噛みながら寝るってどういうことやねん!


 僕は原付きに乗りながら、「おっちゃん、なんでガム噛みながら寝てたん?」と訊きました。すると、寝ぼけまなこでこう答えたのです。


 「捨てるの忘れてた」


 忘れるか!!!


検証エピソード③『ウコッケイ』
 これは、僕が高校生のときのお話です。


 当時、僕の家の庭で、ニワトリを飼っていました。僕の父親の知り合いが農場を経営しており、僕の家に庭があるというのを聞いて、ニワトリを二羽くれたのです。


 このニワトリは、「ウコッケイ」という最高級の鳥です。産んだ卵は大きさこそ小さいものの、店で買うと、1個500円もします。


 事実、黄身の濃さは半端ではありません。味も最高だったため、1日に2個産んでくれる卵が、僕ら家族にとっての宝物でした。


 ですが、飼って半年もしないうちに、一羽が亡くなりました。残ったもう一羽も、寒くなるにつれて、毎日は産まなくなったのです。


 その結果、たまに食べられる卵が、家族で取り合いになりました。そこで、「今日はお父さん、次はお母さん……」と、卵を産んだ日に、順番で食べることになりました。


 ある日、僕の家に木下さんがやってきました。


 木下さんは、「ウッコッケイが卵を産んだ」というのを聞いて、「俺もウコッケイが食べたい!」と言います。卵が2個あったときに何度か食べさしてもらったことで、味を占めたのでしょう。「ハア。ここ何ヶ月もウコッケイを食

べてないわ……」と、イヤなプレッシャーを与えてきたのです。


 木下さんの家は貧乏です。普段からろくなものを食べていないので、結局、木下さんにあげることにしました。


 「おっちゃん、これが最後やからな!本来は部外者に食べさせる理由はないんやけど、お情けで今日だけやるわ!」


 その日は僕が食べる番だったものの、こう説明して、木下さんに卵を渡しました。


 木下さんは大喜びです。僕の母親に頼んでゆで卵にしてもらい、家から持ってきたおにぎり片手に、できあがりを待っていました。


 しばらくして、ゆで卵が完成しました。


 皮をむき終えた木下さんは、「これが最後やからゆっくり味わって食えよ!」という僕の忠告を無視して、ひと口で食べようと、一気に口の中に入れました。僕はあきれながらも隣で昼ご飯を食べ始めたのですが、木下さんが勢い余って、ノドにゆで卵を詰めたのです。


 「アググググ!アググググ!」


 「大丈夫か?吐け!吐けって!」


 場は騒然です。僕の母親と2人して木下さんの首の裏を叩いたものの、取れません。そこで、僕が「飛べ!飛んだら取れるから!」と助言したところ、木下さん、スッパマンみたいに前に飛びやがったんですよ!


 縦や!縦にジャンプせえってことや!お前、こんなときに床でスッパマンさせるか、ボケ!


 それでも、立ち上がった木下さんがゆで卵を飲み込んだ結果、ノドの下部で止まりました。僕は、「飲み込め!そのまま飲み込んでしまえ!」と指示したのですが、わずかにある気道の間隙をついた木下さんが「イヤや!味わいたい!」って言いやがるんですよ!


 言うてる場合か!お前、死にかけてるんやぞ!?いつ死んでもおかしくないねんぞ!?


 焦った僕は、木下さんのノドにパンチをくらわしました。すると口からゆで卵が虹みたいに飛び出してきたのですが、木下さんが飛び出したゆで卵をすぐに手で拾い上げ、そのままパクッて食いよったんですよ!


 「ハアハア、おいしい」


 死ね!!!もう死ね、お前みたいな奴!!!助けて損したわ!!!


検証エピソード④『ザリガニ』
 これは、つい先日のお話です。


 僕の姉が2人目を出産するため、姪っ子が僕の家に遊びにきました。愛子という名の4歳の女の子で、台所で僕の母親としゃべっていた木下さんが、「ザリガニを捕りに行かへんか?」と、愛子を誘ってくれたのです。


 僕の母親からしたら、一緒に行くのが木下さんなので、心配です。いい人なのですが、いかんせん、頭がおかしいです。小さい子供を預けるのは不安なんですね。


 それでも、近所のちょっとしたドブ川なので、溺れる心配はありません。結局、僕の母親は「韓国ドラマを観たい!」と言って、木下さんに預けることにしました。


 ですが、あの木下さんなので心配になったのでしょう。しばらくして、部屋で仕事をしていた僕のところにきて、「あとで見てきて!」とお願いしてきました。僕も仕事で忙しかったものの、仕事がひと段落ついたら見に行くと、約束をしました。


 2時間後。差し入れのジュースを持って、僕はドブ川に向かいました。


 現場では、愛子がバケツを見ています。


 「ザリガニ、捕れたか?」


 僕が訊いたところ、何も答えません。もしや、と思ってバケツを見たところ、中にはアメンボ数匹しか入っていないのです。


 そう木下さん、「たくさんのザリガニを捕まえたる!」と意気込んだくせに、アメンボしか捕まえられなかったのです。


 僕は文句を言ってやろうと思ったのですが、現場に木下さんはいません。


 「おっちゃん、どこに行ったん?」


 愛子に訊いたら、近くの駐車場を指しました。僕は何気に向かったところ、木下さん、同じようにザリガニ捕りをしていた子供に、「それ、分けろよ!」と言いながら脅迫まがいのゆすりをしてるんですよ!


 勘弁してくれよ、おい!頼むからみっともないことせんといてくれよ!


 「渡さんかい!」


 警察にか!?お前を警察に渡すんか!?


 「愛子、こっちに来たらあかんで!」


 焦った僕は、愛子を近くのバス停に待機させました。


 ただ、「おっちゃん、みっともないからやめろよ!」と注意しても、木下さんは聞きません。


 「いっぱいあるからええがな!」


 「おっちゃんは怒らしたら怖いで!」


 「せめてフナをよこせよ!」


 このようにまくしたて、しまいには、「ザリガニの1匹や2匹、ガキやあるまいしやな!」って言ったんですよ。


 ガキや、こいつら!完全にガキや!


 結局、僕は「ごめんな。これ、おわびのジュースやから飲んで」と謝って、子供たちにジュースを渡しました。子供たちも許してくれたので、一件落着です。「暴動」は収まったので、僕は胸をなで下ろしました。


 ところがです。


 「長靴が抜けへん!」


 木下さんがこう言い出したので、僕が足を引っ張って脱がしてあげたところ、中からフナ出てきたんですよ!


 このオッサン、ありえない方法とはいえ、一応はフナを捕獲してるんですよ!ただ、「愛ちゃん、フナ捕まえたで!」と、かっこよく捕まえたみたいな言い方をしやがるのです!


 いやいや、たまたまや!捕まえたんじゃなくて、入ってただけや!お前の天然の勝利や!


 「愛ちゃん、おっちゃんが捕まえたで!」


 長靴や、捕まえたんは!お前じゃないねん、「奇跡の長靴」のおかげや!で、そのフナ、お前が踏んでたからほとんど死んでんねん!お前が得意げに手にしてるんは死体やねん!


 正直、おびえましたよ。「もし、この人が自分の父親だったら……」と考えたら、恐ろしくて涙が出そうでしたから。


検証エピソード⑤『漫才台本』
 僕は放送作家のほかに、漫才作家もやっています。芸人に漫才台本を提供し、アドバイスをしたり立ち稽古につき合
ったりと、僕にとっての漫才はライフワークなのです。


 その関係で、「この台本、見てもらえませんか?」と、お願いされることがあります。ただ、若手芸人や新人の漫才作家なら心よくアドバイスさせてもらっているものの、うちの母親はもちろん、親戚や友達、はたまた近所の人まで僕に台本を渡してくるのです。


 とはいえ、しょせんは一般の人が書いたものです。おもしろいはずもないのですが、その中でも群を抜いて、とんでもない台本を渡してくる人がいます。漫才の形になっていないのはもちろん、「お前、日本語知ってるか?」と、そこからダメ出しを必要とされる人物がいるのです。


 お気づきのとおり、木下さんです。


 もうね、ムチャクチャなんですよ。いや、ムチャクチャなんてものではなく、「これ、塗り絵か?」というぐらい、ダメ出しのしようもないのです。


 2年前に最初に渡してきたときなど、新聞紙にサインペンで記入したものを渡されました。文字が判別できず、「白の紙にボールペンで書いてこい!」と、そこからのアドバイスが必要だったのです。


 もちろん、ネタもムチャクチャです。「フランスの首都はどこか知ってるか?」「知らない」「今日はゴミの日だな」「そうだな」などと話が飛びまくるので、何のこっちゃわからないんですね。


 ですが、木下さんは粘り強いです。僕の母親など、僕に「才能ないからやめとけ!」と言われてすぐにあきらめたものの、木下さんだけは、めげずに何度も提出してきたのです。


 先日、度重なる僕のダメ出しに耐えた木下さんの台本が、ついに完成しました。完成というよりも、相手をするのがしんどくて強引に終わらせたのですが、なんとか完成したのです。


 正確には、僕が手直しをしました。おかしい部分は削り、読みやすいように手を加え、結果、3分以上あったものが1分ほどになったものの、それでも完成しました。


 そこで今回、せっかく2年も費やした台本なので、この場を借りて、陽の目を浴びさせてあげることにしました。どうかみなさま、とんでもない台本ですが、舞台を観にきたお客さんの気持ちになって、見てあげてください。


 木下さん作、バスコ監修で、タイトルは『我が家』です。どうぞ。


 「こんにちわ」


 「うん」


 「こんにちわ」


 「いらっしゃいませ」


 「きてくれて、ありがとうございます」


 「お客様は神様です」


 「ほんまにそう思ってます」


 「暑いな」


 「そうだな」


 「50度はあるな」


 「水風呂に入りたくなるな」


 「ビールが飲みたいよ」


 「飲みすぎると豚男になるぞ」


 「ヒエー!」


 「フランスの首都はどこか知ってるか?」


 「知らない」


 「ヒントをやろう。パがつく」


 「パ、パ、パームボール」


 「野球じゃないよ。じゃあもう少しヒントをやろう。パリ」


 「パリ!」


 「正解!あんたにはハワイ旅行をやろう」


 「火山が噴火するから行きたくなーい!」


 「(急にスイカ割りを始めて)めーん!」


 「俺を殴るな!」


 「♪ポーニョポーニョポニョ マイネームイズ木下!」


 「歌うな。オウムの奴に言って殺させるぞ!」


 「ヒエー!」


 「我が家はこんな感じです」


 「さようなら」


 「さようなら」


 お前、我が家って関係ないやんけ!お前の家のことなんかまったく出てきてないやんけ!もう無理、変にいい奴気取ってたけど我慢できひん、やっぱりツッコミ入れさせろ!


 まず、あいさつ多いねん!しかも、最初の「こんにちわ」に対して、相方が「うん」って返事してるやんけ!客のほうにあいさつせいや!なんで横同士であいさつしないとあかんねん!


 ほんで、最初のボケや!50度はあるなとか言われて、ツッコミ入れろよ!「そんなにあるかい!」とか言えよ!水風呂に入りたくなるとか言うてる場合か!だいたい、50度もあったら水風呂に入っても意味ないわ!


 豚男になるぞは、まあええわ!問題は次や!お前、ヒントやるとか言って答え言ってるやろ!「全部言うな!」ってツッコミ入れろよ!しかも、火山が噴火するから行きたくなーいって、それ何情報!?何テレがそんな誤報流してたん!?


 で、なんで途中でスイカ割りを始めた!?何か脈絡あったか?海系の話なんてあったか!?


 それでも、これらは許そう!俺は優しいから見なかったことにしよう!問題は次や!「ポーニョポーニョポニョマイネームイズ木下」って、これ何!?ごめん、これだけはどれだけ仏門に入っても見逃せんわ、この謎の替え歌は何!?


 ていうか人に渡す台本やのに、木下って言うてもうてるやんけ!俺、何回も言ったよな、他人が演じるもんやから自分の名前出したらあかんって!?


 極めつきは、オチよオチ!オウムの奴に言って殺させる?使えるか、そんなブラックジョーク!そもそも落ちてないねん、それ!もしかして、「地獄に落ちる」とかそういうことか!?


 で、ヒエー!って何?注意することが多すぎて危うく見逃すところやったけど、ヒエーって何!?で言うとくけど、ヒエーってこっちのセリフやからな!この漫才自体がヒエーって感じやからな!


 ほんで、最後!我が家はこんな感じですって、どんな感じなん!?そもそも、なんでお前の家のことをプロの漫才師が紹介しないとあかんの!?


 このように、全部がボケなのです。ほかにも、ツッコミが必要なところがたくさんあるもののキリがなく、前代未聞の「漫才自体がボケ」なのです。しゃべっていることすべてがボケで、「お客さんがツッコミになる」のです。


 ですが、見ようによれば、逆に斬新と言えないことはないでしょう。ムチャクチャすぎて、新しい漫才といえば、新しい漫才なんですね。


 というわけでみなさん、この斬新すぎる漫才に、何か感想を言ってあげてください。木下さんには、友達に見せたと言って報告するので、脳がご無事の方はぜひ、感想を述べてあげてください……。



 以上が、木下さんにまつわるエピソードです。


 ちなみに、冒頭でご紹介した水銀の話。


 いくら説明しても、木下さんは「水俣病になる!」と言って聞かず、結局、仕事中の息子さんに電話をして説得してもらいました……。