理容師の悪夢
床屋の若主人、ヒデさん。
彼が、モヒカン刈りが得意なのには、
ちょっとした訳がある。
先日、「ヘアーサロン・秀治 」 に行った時のお話。
ヒデさん 「ムッチーさーん、最近、夜中に見ちゃうんですよ…、あれを…」
そんな奇天烈な話題を振りながらも、
ヒデさんの操るハサミは、シャキシャキと規則正しいリズムで、
オイラの髪の毛を刈っていくのである。
ヒデさん 「女房も辟易してるらしいんですよ…、うるさくて眠れないって…」
ますます要領を得ない話に、戸惑うオイラ。それでも
ヒデさんの操るハサミは、シャキシャキと規則正しいリズムで、
オイラの髪の毛を刈っていくのである。
ヒデさん 「そんな夜は決まって…ベ、ベッドが…、ぐ、ぐぐ……」
オイラ 「ベッドがどうしたんだい?ヒデさん…」
ヒデさん 「ぐ、ぐっしょり…、濡れてるんですョ…」
怯えた視線を、鏡越しにオイラに送りながらも、
ヒデさんの操るハサミは、シャキシャキと規則正しいリズムで、
オイラの髪の毛を刈っていくのである。
(中略)
つまり、ヒデさんの話を要約するとこうだ。
・ ヒデさんは現在、禁煙2ヶ月目である。
・ しかし最近、ニコチンの誘惑に負けそうで怖い。
・ そんな中、タバコを吸っている夢を見るようになった。
・ その夢を見ると、悔恨と自己嫌悪で、悲鳴を上げて起きてしまう。
・ 奥さんはその悲鳴で眠れず、ベッドはイヤーな汗でぐっしょり。
とまあ、そういうことらしい。
その話聞いて、ヒデさんに同情してしまったので、
最後に慰めてやったんだぁ。
オイラ 「ヒデさーん、夢ん中で吸えるから いいじゃねえかよぉ。
夢の中は煙草も無料、煙出ないから人にも迷惑掛けない。
割りきって楽しめばいいよ、夢の喫煙ライフを!」
そしたらヒデさんも、やっと笑顔になってくれて…
「ムッチーさん、ありがとうね!お礼にカット料金安くしとくよ!」
なんて、気前のいい事を言いながらも
ヒデさんの操るハサミは、シャキシャキと軽快なリズムを刻みながら、
オイラの髪の毛を刈っていくのである。
鏡の中には、笑顔のヒデさんと、
頼んでもいないのに、モヒカン刈りになったオイラ が、映ってたっけ…。