ブログ連載小説の先輩たちにほんと頭が下がります。

一回の分量の問題って難しいですね…

半端なところで切れないし。

結果、思わぬ密度の差になる。

あとでまとめ読みしたら楽しいかも。

手書きのタイムマシン 5.疑惑再燃から。

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もうスリルはたくさんだ。

…といいたい。

どっちでもよくなるには、秘密が秘密の意味を持たなくなればいい。

今なら。話してもいい気がする。話しておこう。

「そうだよ。俺、恋なんてしないもん、当分」

「…あっそう。当てにならないわよ、男心は」

「俺さ」

「んー?」

大分話しやすい雰囲気になったと思ったが、声色はわずかに緊張してしまったようだ。

彼女の返答も敏感に硬くなる。

「サラリーマンやめるとき彼女を捨てたんだ」

 

外池は黙ってみている。

「当たり前だけど初めは会社を辞める気なんかなくて。

 社内サークルで付き合いたいって俺から声を掛けた。

 おっとりした人でね。そのまま会社で勤め続けるんなら何も不満はない彼女だった」

切り出してしまえば、もう止まらない。

「初めておんぼろ車で彼女を家まで送ったらさ、閑静な高級住宅街でびっくりしたんだ。

 俺の人生にそんな風景が実在するんだって。人生初の”お嬢様”だったんだよ」

「なにそれ…田舎の子で悪かったわね?」にやっと彼女は笑う。

「知らないよ!

 …でも辞めなきゃって思い始めてから。この人を道連れにするのかなって考え始めて。

 どう考えても再受験が必要だったんだよ。ねえ、受からなかったら浪人生だよ?」

「てか無職よね」

「しかもそのころ、同期が何人も彼女を狙ってたって話を聞いちゃってさ。

 そいつはやっかみ半分応援気分でいったんだろうけど、とんだプレッシャーだった。

 あんないいとこのお嬢様なのに、いい子なのに、俺についてきたら苦難の道じゃないかって」

 

「なにより、俺のバカな選択を受け入れてもらって、それでも付き合ってほしいなんて、言えなかった。

 ぎりぎりまで言えなかった。辞める決心をしたから、彼女に別れを切り出したんだ」

「なんて?」

 

さすがにちょっと言葉が止まる。

思い切って声にする。

「あなたはどんな素晴らしい奴を選ぶこともできて、光の当たる道を歩いていける。それに、あなたが俺と一緒にいくのを耐えられると思えない。だから今、別れようって」

外池の目が一瞬細くなった。

 

「でも、彼女は言ったんだ。

 『どうして今まで言ってくれなかったの?』

 『わたしはあなたのなんだったの?』」

 相談もせず、勝手に決めて、サヨナラまで俺に決められて。

 そりゃ腹が立つよね。パートナーと思ってくれていたんなら

 でも俺は、彼女を人生のアクセサリーのように見ていたんだ。

 自分が会社から離れるって気づいて初めて、人間扱いして」

結論のつもりでため息とともに言った。

「彼女を傷つけた罰がこの胸の痛み…痛みが消えるまで恋はしないって決めたんだ」

 

しかし、そこへ外池は意外な言葉をかぶせてきた。

「違うよね」

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この物語はフィクションです。