久しぶりに小説始めましたところ、思わぬ人から「いいね」いただいたり、初めての方がいらしたりと、びっくりしながら喜んでおります。
ラブ、いいね! ってことか。
援護射撃の勢いに、執筆の弾みがつきそうです。
本日のサブタイトルは「社交辞令」なんですけど…!
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旧都の日常に戻っていた意識の上に。
まもなく、懐かしい名前の、2通の手紙が届いた。
真美と凛。
もちろんよく覚えている。夏の研修では同じ班だった。
中江真美(なかえ・まみ)はノリが良く、いつも大きな声で笑う女の子だった。
気が利き、準備も片付けも率先して小さな体でパタパタ動く。
何を聞いても一生懸命考え、応える。
その元気な声で俺を「さわにい」と呼び始めたのが真美だ。
打ち上げでは、真美の柔らかく小さな手に引っ張られて前に出て、混合チームで「白鳥の湖」のラインダンスを踊った。もちろん練習していなかったわけはないのだが、気後れして出られない俺の手を引き、舞台に引き出してくれた。
小野凛(おの・りん)は物静かで、とても言葉遣いの丁寧な女の子。
長い黒髪が印象的で、姿勢もよく、品の良い言動はしつけの良さを感じさせた。
彼女はいつも、ためらいがちだがきっぱりと俺の名前を呼んだ。
――おおさわさん。
とても几帳面な手蹟からは、その声が聞こえたような気がした。
最後の夜の打ち上げで、上気した顔で私にささやいた。
――こんなに楽しいの初めて。
彼女もつられて前に出て意外な特技を披露した。
「べん~せい~~しゅくしゅく~~…」
詩吟だった。『川中島』に、満場拍手の嵐だった。
彼女達の手紙が、「さわにい」だった数日の想い出を運んできた。
手紙を受け取ったのがうれしく、返事を書こうと決めた。
携帯電話の販売は始まったばかりで、まだ普及していない時代。
電話の手前のコミュニケーションは、手紙だったのだ。
手紙には当然社交辞令として、「またお会いできる日を楽しみにしています――」と書く。
行ったこともない遠い土地の二人。
本当に会えるとは思ってもいない。
真美は地元に彼氏がいたはずだ。
凛には想い人がいると聞いた。
何の始まることも、ないはずだった。
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この物語はフィクションです。