久しぶりに小説始めましたところ、思わぬ人から「いいね」いただいたり、初めての方がいらしたりと、びっくりしながら喜んでおります。

ラブ、いいね! ってことか。

援護射撃の勢いに、執筆の弾みがつきそうです。

本日のサブタイトルは「社交辞令」なんですけど…!

手書きのタイムマシン 3.危険信号より。

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旧都の日常に戻っていた意識の上に。

まもなく、懐かしい名前の、2通の手紙が届いた。

真美と凛。

もちろんよく覚えている。夏の研修では同じ班だった。

 

中江真美(なかえ・まみ)はノリが良く、いつも大きな声で笑う女の子だった。

気が利き、準備も片付けも率先して小さな体でパタパタ動く。

何を聞いても一生懸命考え、応える。

その元気な声で俺を「さわにい」と呼び始めたのが真美だ。

打ち上げでは、真美の柔らかく小さな手に引っ張られて前に出て、混合チームで「白鳥の湖」のラインダンスを踊った。もちろん練習していなかったわけはないのだが、気後れして出られない俺の手を引き、舞台に引き出してくれた。

 

小野凛(おの・りん)は物静かで、とても言葉遣いの丁寧な女の子。

長い黒髪が印象的で、姿勢もよく、品の良い言動はしつけの良さを感じさせた。

彼女はいつも、ためらいがちだがきっぱりと俺の名前を呼んだ。

――おおさわさん。

とても几帳面な手蹟からは、その声が聞こえたような気がした。

最後の夜の打ち上げで、上気した顔で私にささやいた。

――こんなに楽しいの初めて。

彼女もつられて前に出て意外な特技を披露した。

「べん~せい~~しゅくしゅく~~…」

詩吟だった。『川中島』に、満場拍手の嵐だった。

 

彼女達の手紙が、「さわにい」だった数日の想い出を運んできた。

手紙を受け取ったのがうれしく、返事を書こうと決めた。

携帯電話の販売は始まったばかりで、まだ普及していない時代。

電話の手前のコミュニケーションは、手紙だったのだ。

手紙には当然社交辞令として、「またお会いできる日を楽しみにしています――」と書く。

行ったこともない遠い土地の二人。

本当に会えるとは思ってもいない。

 

真美は地元に彼氏がいたはずだ。

凛には想い人がいると聞いた。

何の始まることも、ないはずだった。

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この物語はフィクションです。