「で、結局アッシュは何が欲しいのか分からないままなんだ」
「ふぅん。。。」
シンは英二の話を興味なさそうに頷き、アイスティーにストローを刺した。
ガムシロップとミルクを入れ、コーヒーと混じり合う様子をじっと見た。
シンはブラックコーヒーが苦手だ。ミルクと砂糖を入れた方が甘くて美味しい。
親友の誕生日に何をあげれば良いか悩むこの可愛らしいオニイチャンはまさに”ミルクと砂糖’’で、クールで口の悪いアッシュは”ブラックコーヒー”だ。それぞれ正反対の特徴だが、混じり合うとより美味くなる。
「僕は真剣に聞いているのに、彼は僕をからかうんだよ。。。」
「へぇ。。。。」
グルグルとストローでアイスコーヒーをかき混ぜながらシンは何となく面白くなかった。
英二はただ愚痴を言いたいだけなのか、それともアドバイスを求めているのかよく分からない。
アッシュと英二の二人には誰にも介入できないほど深いつながりがあるのは明らかだ。
(俺はストローじゃねぇよ。)
「シン? 飲まないの?」
「あ”? 飲むよ。。。うまい。。。チッ。。。」
「どうしたの?」
「いや。。。あのさ、アッシュはおまえの魂が欲しいんだろ?いいじゃないか、それで」
「うーん、でもどうしたらいいのかな? はいどうぞ、ってあげれるもんじゃないだろう?」
眉をハの字にして腕を組んで悩む英二を見て、もしこいつが女だったらキスしてやってもいいとシンは思った。そんな事をしたらアッシュに殺されてしまうだろうが。
その時シンは名案が浮かび、ニヤリと笑った。
「いいか英二、アッシュみたいにモテモテで色々プレゼントをもらいまくってきたヤツはモノになんて興味がないんだよ」
「うん、確かに」
納得したようで、ふむふむと頷きながら英二は真剣にシンの話を聞き始めた。
「きっとアイツは精神的なものを求めているんだよ。信頼とか、安心感とか、癒しとか。。。」
「なるほど、それで ”命” ではなく ”魂”っていったのか!」
「いっとくけど、これは俺の想像だからな。。。保障はできないぞ。でも要するにお前と気持ちがつながっているって感じられればいいんじゃないか?」
「でも、、、どうやって?」
「そりゃー、あれだろ。’’キス’’でもすればいいんじゃないか?」
「は? なんで!?」
「シャイな日本人は絶対しないだろうけど、こっちでキスなんて挨拶みたいなもんだろう? 分かりやすい愛情表現じゃないか」
「うーん、でも男同士だよ? 男同士でキスし合うのって。。。。カップルみたいだ。それは違うんじゃないの?僕にはどうすればいいか分からないよ。ほら、唇の角度とか。。。あ、髭も剃らないと痛そうだし。。。」
急に生々しいことを言い出す英二にシンは驚き、もう少しでコーヒーを吹き出しそうになった。
「だれが口にしろっていった!頬で充分だろ!」
「あ、そうか。てっきり口かと。。。あはは」
頭を掻く英二を見て、シンはため息をついた。
その時、玄関のドアベルが鳴る。アッシュが帰ってきたようだ。
「よう、シン。来ていたのか」
「あぁ、、、あんたの悪口をいっぱい話していた」
「俺の? 酷いじゃないか、英二」
「悪口じゃないって!」
「アッシュ、よかったな。今年は英二からキスのプレゼントが貰えるようだぞ」
「ちょっと! そんなのしないって!!もう!」
「キス? 英二が?」
ちらっとアッシュが英二をからかうように見た。
その目は”このシャイなオニイチャンがキスなんてできるはずがない”と言っていた。
「アッシュ、今、、、心の中で僕をバカにしただろう?」
「まさか。俺は純粋ピュアなオニイチャンがキスなんてできるわけが無いと思っただけだ」
「思い切りバカにしているじゃないか! それに、、、キスなら、もうとっくに君としたじゃないか!!」
衝撃的な英二の言葉に、今度こそシンはアイスコーヒーを吹き出してしまった。
「えぇ!!!!!」
「おい、シン!きったねーな。噴くなよ」
英二は慌てて台所へと走って行った。
驚きすぎて、シンはむせながらもアッシュを睨みつけた。
「アッシュ。。。今の話、本当か? 酔っぱらったノリでほっぺに軽くキスしただけだろ?」
アッシュはニヤッと笑った。
「本当だ。それもディープな方だ」
即答するアッシュにシンは言葉がでない。
「。。。。。。。。。!!!」
台所からあわてて英二がタオルをもってきた。
「あーぁ、シン、大丈夫会?ほら、このタオルを使いなよ」
「英二。。。。」
振り返ったシンが落ち込んで見えたのは気のせいだろうか。
帰る、と言ってシンは英二の肩を軽く叩いた。
「英二、いくらでもキスしてやれ。。。。」
「は? 」
「じゃぁな」
シンが帰ったあと、英二はアッシュの方を見た。
「シン、どうしたの?」
「つまんねぇ事をしようとしたから、バチがあたったんだよ」
「??」
「オニイチャン、オレもコーヒーが欲しい」
「分かった。ちょっと待ってろよ」
英二はニッコリと笑ってテーブル周りを片付け始めた。
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