君のバースデーに花束を(後編) | BANANAFISH DREAM

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同じアパートに住む婦人に連れられ、英二はアパート近くのフラワーショップに来ていた。

アッシュからは『一人でアパートを出るな』と言われているので英二は内心冷や冷やしていた。

「どうしたの、エイジ? 誰か探しているの?」

落ち着きの無い英二を見て不信に思った婦人は声をかけた。

「いいえ!だ、大丈夫です!」

(まぁ、ミセスも一緒だし…厳密に言うと一人ではないからいいか)

二人はフラワーショップに入っていった。

店内は色鮮やかな花で一杯で、様々な花の香りがする。

英二はこういう場所に来る機会はほとんどないので、もの珍しそうに色々は花を見ていた。

「わー、綺麗ですね」

「ねぇ、エイジ。クリスはどんなお花が好きなのかしら?」

「どんな??えーっと……どうなんでしょう??」

英二は思い出そうとしたが、分からなかった。

(だいたい花の好みなんて男同士が話すことはないし……あ、でもそう言えば……)

リンクスの仲間たちとアパートで飲んでいた時、アッシュがどれほど女の子にモテるのか話題になったことがあった。誕生日には、アッシュあての花束やプレゼントが大量に届くが 本人は関心を示さず子分たちに『好きにしろ』と言っていたらしい。

そして、子分が「ボス、この花束はどうしましょうか?」と聞いたところ、

「お前のガールフレンドにやれよ。花なんて食えやしねぇからな」と笑っていたそうだ。

(まさかそんなこと婦人に言えるわけないし…)

返答に困っている英二を放っておいて、婦人は色々な花を手にとって嬉々としていた。

「正直どんな花が良いかなんて僕には分からないな……」

その時、英二は意外な花を見つけた。

「あれ? これって……?」

花の名前を確認して、英二は店員を呼んだ。

「すみません、この花ってもしかして……」

   ***

「あらまぁ!このバラとっても綺麗だわ!色もたくさんあるわね」

婦人は大きなバラを見つけて立ち止まった。なかでも深紅のバラは大きく目立っていて、高貴な雰囲気がでていた。その美しさに見とれた婦人は一輪のバラを取り出した。

「この真っ赤なバラ!なんて美しいの!クリスには赤がぴったりよ!エイジー?どこにいるの?」

「は、はい。ミセス コールドマン、どうかされましたか?」

店内を色々と見ていた英二は嬉々として自分を呼ぶ婦人の元に駆け寄った。

「私はバラがクリスのイメージにぴったりだと思うのだけど、どうかしら? エイジ、あなたの意見を聞かせてちょうだい」

婦人の中ではすでにバラだと決まっているようだったが、英二からの一押しが欲しいようで聞いてきた。

華やかなバラの花束を持つ彼を想像してみた。正装をしたアッシュと深紅のバラ。きっとゴルツィネなら大喜びするだろう。だが英二の知るアッシュはバラではないのだ。

婦人にどういうべきか英二は迷ったが、正直に話す事にした。

「僕は……」


 ***


ーー8月12日ーー

この日はアッシュの為に、アパートでバースデーパーティーが行われる事になった。

英二は朝から料理にてんやわんやで、コングとボーンズにも手伝ってもらってパーティーの準備をしていた。

和洋折衷の料理を作ろうと、この日のために色々な食材を買い集めていた。

キッチンに入ってきたコングは、鼻をクンクンさせて更にテーブルの上にある食材をじっと見ていた。

「英二、このパスタ……黒いけど腐ってないだろうな? それにさっきからキッチン中に魚みたいな匂いがするぞ」

コングが不思議そうに聞いてきた。

「それはパスタじゃないんだよ。日本の麺でソバって言うんだ。僕の故郷でとっても有名なんだよ。いま鰹と昆布で出汁をとっているから手が離せないんだ。コング、悪いけどビールとワインを買ってきてくれないか?」

「わかったよ。おいボーンズ! いつまで飾り付けしているんだよ。酒を買いに行くぞ!」

「うるせぇな、わかったからでかい声をだすなっての!」

コングとボーンズは買い物に出て行った。


そして入れ替わるようにアッシュがキッチンにやってきた。

「オニイチャン、頑張っているね。何か手伝おうか?」

ふだんは手伝おうとなんてしないアッシュだが、自分のために朝からパーティーの準備をする英二をみて嬉しいのか、ニヤニヤしながら聞いてきた。

振り返った英二の額には汗がにじんでいた。彼はニコッと笑って答えた。

「大丈夫だよ、ありがとう。今日は君のパーティーをするんだから僕たちに任せてくれ!」

「そうか……お、これはカツオブシだな」

「そうそう、よく覚えているね」

「まえにおかゆを作ってくれたからな」

「今日は日本料理を堪能できるんだな」

「うん、でも皆も来るから チキンやピザも作る予定だよ」

「大変だな……」

「でも大丈夫。楽しいから!」

「そうか」

自分の為のパーティー準備を楽しいという英二を見て、アッシュはなんだか照れくさくなった。

その時、玄関ドアのベルがなった。

「いいよ、俺が出る」

忙しいそうな英二のかわりにアッシュが対応した。

「ハーイ、クリス。お誕生日おめでとう!」

ミセスコールドマンは満面の笑みで立っていた。

「あ……ありがとうございます、ミセスコールドマン」

婦人が自分の誕生日を知っていることにアッシュは驚きながらも、クリスを演じていた。

「実はエイジがケーキを真剣に見ていたから話しかけたの。するとあなたの誕生日が近いって答えたから、教えてもらったのよ。それであなたにケーキを焼いてきたわ。お父様やエイジと一緒に召し上がってちょうだい」

嘘のつけない英二はきっと断りきれなかったのだろう。そいえば、英二はケーキの準備はしていなかったことを思い出してアッシュはクスッと笑った。

「わざわざありがとうございます。父や英二も喜ぶと思います……嬉しいです」

美しいアッシュの微笑みに少し照れた婦人は、花束を渡した。

「これはエイジと一緒に選んだの。私はバラにしようかと思ったのだけど、エイジがこの花があなたにぴったりだと言ったのよ。よくみると、素敵だわ」

「英二が僕に??」

「そうよ。彼って本当にあなたのことを大事に思っているのね。それじゃぁ誕生日パーティー楽しんでね」

微笑みながら婦人は出て行った。


アッシュはケーキをリビングにおいた後、花束を抱えて自分の書斎に入った。



 ***


オーブンに入ったチキンの焼け具合をチェックしていた英二の背後からアッシュは声をかけた。

「おい。おまえ、勝手に外出しただろう?しかも一般人と」

やや怒りを含んだその口調に英二は一瞬ビクッとし、ゆっくりと振り返った。


花束を抱えたまま、眉間に皺を寄せて睨みつけるアッシュが立っていた。

「う、うん…ごめん」

下手な嘘は通じないと悟った英二は素直に謝った。アッシュはため息をついた後、ニヤッと笑った。

「言っておくが、今回だけだぞ」

「……分かった」

「なぁ」

「ん?」

「どうしてこれを選んだ?」

そう言ってアッシュはグリーン色の花束を指差した。

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「あぁ、ミセス コールドマンが君の為にプレゼントしてくれたんだ。後でお礼を言わなくちゃ」

その言葉に納得しなかったようで、若干苛立ちながらアッシュはもう一度聞いた。

「おまえが選んだって聞いたぞ。どうしてこの花をお前は選んだんだよ」

アッシュは気になるようで、理由を英二に確認してきた。

「それは……」

「この花、『ジェイド』って言うんだよな?」

コンピューターでアッシュは花の名前を調べていた。

「この”ひまわり”のこと、君は知っていたの?」

「まぁ、そんなところだ……」

わざわざ調べたとは言えず、アッシュはごまかした。

英二はジェイドという緑色の綺麗なひまわりを見つけ、ミセスコールドマンにすすめていた。

「君の名前と同じだっていうところも正直気になったけど、君の瞳グリーンと似ていて綺麗なところとか、ヒマワリって太陽の光を浴びてすごくのびのびと自由に成長している気がしないかい? 僕はこのジェイドがすごく君にぴったりだと思ったんだよね」

(アッシュにはこうあって欲しいからな…)

「……英二」

「ははは、でも花は食べられないけどね」

「そうだな。でも、この花は嫌いじゃないよ」

そう言ってアッシュは『ジェイド』にキスをした。それを見ていた英二は思わず赤面してしまった。

「ほ、本当かい?それなら良かった」

そう言って英二はチキンの焼き具合をみようと振り返ってオーブンを見た。


「ところで俺へのプレゼントは?まさか花じゃないだろうな」

「プレゼント??……あっ!忘れてた!」

「まじかよ?」

「パーティーの準備で忘れてた。君、なにがいい?」

「仕方ねぇな、薄情なオニイチャンだ」


「ごめんごめん!ははは、本当に……今度穴埋めさせてくれよ、アッシュ」

そういって明るく笑う英二をみて、アッシュは英二は「黄色のひまわり」のようだと思った。

「仕方ないな……でも充分さ。俺のために準備をしてくれてるんだろう?」

「そんなこと言わずにさ、何が欲しいか言ってみてよ」

「そうだな……この花が実際に咲いているところを見てみたいかな」

ジェイドの花束を見てアッシュは言った。するとパッと英二の表情が明るくなった。

「ひまわり畑か!ジェイドの咲いている場所を二人で探しにいこうよ。それでそこで写真を撮るんだ」

「楽しそうだな。黄色のひまわりでも構わないけど」

「駄目だよ、ジェイドがいい。これは約束だ」

「約束か…了解、オニイチャン」

ジェイドの花束を抱えたアッシュはとても穏やかで幸せそうに微笑んだ。

「英二ー! 酒を買ってきたぞー」

「ついでにアイスも買ってきた!」

コングとボーンズのにぎやかな声が聞こえてきた。

「Hi ボス! あれ?花束を貰ったんスか? やっぱりボスはモテるなぁ」

冷やかすコングに対してアッシュは笑った。

「ははは。すっげーカワイイ子が選んでくれたんだぞ」

アッシュはクスクス笑いながら答えた。

「……!!!」

英二は驚いて声がでない。

「いいっスね~」
「羨ましいっス!」

子分たちは美女がこの花束をプレゼントしたのかと思い、羨ましそうにボスを見ている。
アッシュは一瞬ちらっと英二を見た後、楽しそうに言った。

「今度デートするんだ。二人で花畑を見に」

「なんかロマンチックっス!」
「羨ましすぎる!」

「アッシュ……!!」

これ以上聞いていられないと、英二は大声をあげた。

「きみたち、チキンが焼けたから運ぶの手伝って!パーティーを始めるよ! さ、早く!酒がぬるくなっちゃう!」

「お、英二。気合い入ってるな」

「うまそーなチキン。腹へったよ。お前の黒いパスタも食いたい」

コングは指をしゃぶりながら料理を見ている。

「ソバだってば! さーパーティーをはじめようぜ!」

「あぁ、でもその前にこの花束を花瓶に飾ってくれないか?大事な花束だからな」

その言葉を完全にのろけていると勘違いした子分たちはデヘヘと笑っていた。
一方、英二は困ったように苦笑いをした後、コクリと頷くしかなかった。

「さぁ、今度こそパーティーをはじめよう!」

グイグイとアッシュの背中を押しながら英二はリビングへと移動させた。

「英二、なんだよ?」

振り返ったアッシュに対して、英二は二カッと笑った。

「これ以上、”のろけ話”は聞いていられないからな。さー今夜は飲むぞ」

「そうだな、それでもっとのろけてやる」

「もういいって!」

英二をからかい、その反応を見て笑うアッシュの笑顔と共にバースデーパーティーは始まった。

(終)


★アッシュ、お誕生日おめでとう!そして吉田先生もおめでとうございます!★

無事に私からアッシュへの「バースデープレゼント」を渡す事ができてホッとしました。

そして皆様、お読みいただきありがとうございました!最終回は長かったですね。

今年はどうしようか考えていたのですが、少し前に『ジェイド』という緑色のひまわりがあることを知り、ちょうど夏だし、アッシュのお誕生日でこのお花をネタに書けないかなーと考えていたのです。

英二、プレゼントを忘れちゃだめでしょ(笑)でもプレゼントは英二との「楽しい約束」かな(笑)

アッシュはバラやカサブランカのような「華やかな花」のイメージがあるかもしれません。ジェイドは素朴すぎるとゴルツィネ様なら思うかもしれませんが。。。眩しいくらい明るい黄色のヒマワリはまさに英二のイメージ。でも控えめな色、やや小さめの可憐な形のジェイドはある意味アッシュっぽいかな~と。ちょっと負のイメージ(←オイオイ)があるけども、本来は太陽の元で風に揺られている元気なヒマワリなんだ(←アッシュは本来すっごく明るくて楽しい子だと思うから)と勝手に想像してしまいました。。。

少なくとも、英二にとっては、ゴルツィネ邸の庭で手入れされている薔薇よりも、ケープコッドのど田舎の野原で雑草と混じって自由に咲いているヒマワリの方がアッシュらしいと思うかもしれないです。


今日はきっとバナナファンサイトの皆様もお祝いされているでしょうね!バナナフィッシュファンにとってはとても大事な一日ですよね~。

皆様にとっても素敵な一日になりますように!!アッシュ、おめでとう~♩ 英二にもたくさん祝ってもらってね!


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