59丁目のアパートに仲間たちが集まった。今日は英二がリンクス達の為に食事を用意してくれていた。
「さぁ、みんな。今日はご馳走を用意したから食べておくれ」
ニコニコと笑いながら英二はテーブルいっぱいの料理を指さした。
「わぁすげぇ――」
「さすが英二」
「食おうぜ」
「おい、コング! ガツガツ食うなよ」
「ハハハ、飲み物を用意してくるよ」
英二は笑いながらキッチンへと向かった。
新入りのリチャードはアパートの中に入ったのは初めてで、しかも英二もいるのでかなり居心地が悪そうだった。
「おまえも座れよ、リチャード」
アレックスが声をかけた。彼が単に緊張しているのかと思ったようだ。
「あ、あぁ…」
リチャードもソファに座った。
「やぁ、リチャード」
新入りに気付いたアッシュが声をかけた。
「ボ…ボス!」
滅多に言葉を交わすことのない憧れのボスが自分に声をかけてくれたので、リチャードは舞い上がった。
「お前、見回りをよくやってくれてるんだってな。アレックスから聞いたぜ」
「は、はい! チャイニーズやブラックの連中なんかに縄張りを荒らされてはたまんねぇから…」
リチャードの声はうわずっていた。
「そうか、いざこざは避けろよな」
「わかりました」
憧れのボスと至近距離で話せてリチャードは夢心地だった。
しばらくして、アレックスがリチャードに声をかけた。
「おい、新入り。ボスの酒がねぇ。キッチンで英二が飲みもんの用意をしているから手伝ってこい」
「エイジが……は、はい。わかりました」
英二と顔を合わせたくはなかったが、ボスの酒がないと聞いてリチャードは渋々とキッチンへと向かった。
***
「なぁ、ボスの酒がないんだとよ」
キッチンへ入るとリチャードはグラスに氷をいれている英二に声をかけた。
「あぁ……えーっと君はリチャードだったね。よろしく」
振り返った英二は大きな瞳をリチャードに向けた。
「――俺の名前なんかどうでもいいだろ。ボスの酒は?」
「――?あぁ、アッシュのお酒ね…とりあえずビールでいいんじゃない? これ、渡してくれる?」
そういって英二は冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
「おい、ボスの酒だぞ? ちゃんとしたもん作れよ」
「あぁ、彼なら大丈夫。いつもまずビールから飲むから。後から持っていくって言っといて」
アッシュのことは何でも知っているような英二の口調が気になった。どういうわけか、英二を見ていると苛立ってくることにリチャードは気付いた。
「――リチャード?」
「けっ!」
奪うようにリチャードは缶ビールを取った。英二は彼がどうして怒っているのか理解できなかった。
「どうしたの? 心配しなくても大丈夫だよ。アッシュはそんなことで怒ったりしないから……」
さえぎるようにリチャードは質問した。
「あんたはいったい何者なんだ?」
突然の質問に、英二は理解できなかった。てっきり聞き間違えたのだと思った。
「は? どういう意味? ちょっと聞き取れなかったからもう一回言って?」
「ボスとあんたはどういう関係なんだ?」
「友達だけど―?」
それ以外に答えようがなかった。しかしリチャードは納得していない。
「ボスのこと、騙しているんじゃねぇの? あんた、本当はチャイニーズなんじゃないか?」
思ってもみないリチャードの言葉に英二は笑ってしまった。
「はははは! 違うよ…そりゃ、区別はつかないだろうね…でも僕は日本人なんだ。ストリートキッズじゃないよ」
「じゃぁ、ボスと一緒にいる必要はないだろう? ますます怪しいぜ」
「え……友達は一緒にいちゃいけないのかい?」
真面目な顔をして言う英二を見て、今度はリチャードが驚いた。
「それ、友達って…マジで言ってんの?」
英二はコクリと頷いた。
「ボスがお友達なんて必要としていると思うか? ボスはいつだって俺たち不良の憧れなんだ!ボスの命を狙う連中がゴロゴロしているが、俺は絶対にボスを守るつもりだ。だから――」
「おい、リチャード。酒はまだか?」
その時、アレックスがキッチンに顔をだした。
「あ、アレックス! リチャードと用意していたんだ。とりあえずビール持って行ってくれるかい?」
「ビール?」
「大丈夫、『英二がそれでも飲んで待っていろ』って言ってたと伝えてくれ――ははは」
「お前がそう言うなら大丈夫だな」
アレックスは笑って背を向けた。
「――!!」
英二がリンクス達から信用されていることをリチャードは実感した。
「リチャード……誤解だよ。僕はアッシュやリンクスの皆に危害を加えるつもりなんてないから……ただ、色々と事情があって一緒に行動しているんだ。僕とアッシュは友達だよ」
「……」
リチャードはどうしても英二を信用できなかった。それは単に彼の嫉妬心だということに本人が気付いていなかった。
<続>
おはようございます。皆さん、連休を楽しまれていますか?私は昨日、友人と新年会をしてきました☆
近況報告をしながら、自分の状況・夢・抱える問題等を改めて実感しましたよ。アウトプットするのって本当に大事です。
今までは目の前のこと・今日だけのことだけに目を向けていたのですが、ずっと先のことを考えて新しいことに挑戦する予定です。またそのうち語りたいと思うのですが。
そして小説の方ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです(^^)