もしもアッシュが日本に来たなら(第二十八話:夏祭り) | BANANAFISH DREAM

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 祭り会場は大勢の人でにぎわっていた。


「いらっしゃーい」


「焼そばはいかがですか?」


「ママー、かき氷買って!」



 屋台の売り子や家族連れ、カップルの声と盆踊りの音楽が混じっている。地元の夜店に初めてきたアッシュは興味深そうに眺めていた。


 ふだんは静かなこの地でも、お祭りになると大勢の人が集まり活気づいていた。


 



 奥村家――


「母さん、まだ?」


「英二、もう少しよ……よし、できた!」


 

 英二の母親はどうしてもアッシュに浴衣を身につけてもらいたいと張り切っていた。アッシュは英二の浴衣、黒地に波縞の浴衣に黄緑色の献上柄の角帯を着つけてもらった。色白のアッシュに黒地の浴衣はとても似合っていた。帯も彼の瞳の色に近い。


「まぁ!やっぱりアッシュ、似合うわぁ!」


「本当だねぇ。英ちゃん、写真を撮ってあげて!」


 浴衣姿のアッシュを見て英二の母親と祖母はきゃぁきゃぁと喜んでいる。


 一方、英二は紺色の甚平を着ていた。


(僕が浴衣を着たときはこんなにはしゃがないのになぁ)


 苦笑しながら英二はアッシュの浴衣姿をカメラにおさめていく。


 初めて着る浴衣にアッシュもまんざらではなく、気に入った様子だった。


 玄関先で草履を探す英二とアッシュの元に英莉が姿をあらわした。自分の部屋で母親に浴衣を着つけてもらっていたようだ。


「アッシュ! 母さんたちが言ってたけど……あなた、本当に浴衣が似合うわね」


「エリこそ、その浴衣似合ってるぞ」


「本当に? お世辞でも嬉しい!」

 

 英莉は紺地にピンクと白の大きな花模様の入った浴衣で髪も母親に結ってもらい、女子高生らしくキラキラ光るスワロフスキーのついたカンザシをさしていた。アッシュに誉められたのが嬉しかったのか、くるりとその場で一周した。


「おーい、おまえら準備できたか?そろそろいくぞ!」


 タバコをすっていた英二の父親がゆっくりと立ちあがり、車のエンジンをかけた。





「時刻は19時をまわりました。BFラジオ出雲 DJらぶばなの「スーパーバナナ・ナイト」です。皆さん、今日は夏祭りの日ですね。車の中でこのラジオを聞いて下さっている方も多いのではないでしょうか?さて、今日のリクエストは…Whiteberryの「夏祭り」です。テンションあがりますよね~ 楽しんできてください!」


君がいた夏は遠い夢の中

空に消えてった打ちあげ花火


music >> 夏祭り






「それじゃぁ、お前たち楽しんでこいよ。帰り、また連絡しておいで」



「わかった。父さん、ありがとう」

 

 英二が例を言うとアッシュも続けて言った。



「アリガトウ、オトウサン」


「おうよ!」



 父親の車が見えなくなり、三人は歩き始めた。河川敷に着くなり、英莉は一軒の夜店を指さした。



「ねぇお兄ちゃん! チョコバナナが食べたい!」



「あー、ハイハイ。分かったよ…」



(―ったく。すぐ甘えてきて…仕方ない妹だなぁ)



 英二はポケットから財布を出して、英莉の為にチョコバナナを買ってあげた。するとその様子を見ていたアッシュが英莉の口調を真似しながら言った。



「ネェ、オニイチャン! タコヤキタベタイ!」



「……ハイハイ、分かりました…」



(こっちにも甘えたの弟がいた! 仕方ないなぁ…)



 英二は再びアッシュのためにたこ焼きを買ってあげた。



「アリガトウ」



「いいえ。どういたしまして……アッシュ、今日は射的をしちゃ駄目だからな。英莉にまた怪しまれるから」



「分かったよ。オニイチャン、あの家は何?」



 アッシュが指さした先はお化け屋敷だった。


「あれはホラーハウスだよ」


「入りたい!」


「えぇ!」


「楽しそう!」


 英莉もノリノリだった。


(僕、ちょっと苦手なんだよな…気持ち悪いんだよな)


 多数決でお化け屋敷に入る事になった。



   ***



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「ちょっと!どうして僕が先頭なんだ?」


 英二は口を尖らせて文句を言った。


「いいじゃないの、お兄ちゃん」


「アッシュ、君の方が大きいから先に行ってくれ!」


「なんだよ、いつもは体の大きさのことを言うと怒るくせに」


「……わかったよ!」


 入るなり、白い着物を着た髪の長い人形が現れた。


「ギヤー!!」


 だれよりも大きな声を英二はだした。



 アッシュと英莉は耳をふさぐ。



「オニイチャン、うるさいよ」


「騒ぎすぎだって」



 英二はさっとアッシュの背中に隠れた。


「仕方ないな…おっサムライがいる!」


 アッシュは落ち武者を指さした。首はとれかかっていて顔は蒼い。死んだ魚の様な眼をこちらに向けてくるその姿を見て、英二は再び大絶叫した。


「うわぁぁぁ―こっち見るなぁ!」


「なんだよ、あれぐらいで!あれは人形だろう?」


 アッシュはワクワクしながら暗いお化け屋敷の中を進んで行った。意外と英莉は落ち着いていて兄とアッシュの反応を楽しんでいるようだった。



 驚くどころか楽しんで観察している余裕のアッシュに対し、英二はできるだけまわりを見ないようにアッシュの背中に張り付いていた。


(ふふふ、お兄ちゃん、からかうと面白いなぁ。アッシュは全く驚いていないし…)


「あははは――最高だね!」


 次に現れたのは人形ではなく人だった。お化け屋敷のスタッフがお化けになり済まして「バァ!」と飛び出してきた。


「キャッ!」


 英莉は驚いてその場にしゃがみこんでしまった。お化けはアッシュを見て、彼を驚かせようと体を揺らしながら近づいてきた。


『ぐぅぉぉぉー!』


(――攻撃してくるのか?)


 アッシュはさっと構えて目の前のお化けにパンチした。


「ギャッ!」


 加減したつもりだったが、お化けはその場に倒れこんでしまった。かぶっていたマスクがはずれ、スタッフの顔が見えた。


「なんだ、人間か。紛らわしいんだよ」


 予想以上にお化けは弱く、アッシュはしらけてしまった。



「……なに? 何が起きたの?」


 ずっと目を閉じていた英莉は目の前で伸びているお化けの格好をしたスタッフを見て驚いている。

 

 突然の展開に英二は口が開きっぱなしになっていたが、ハッと我にかえった。

 


「アッシュ! なんてことすんだよ!」


「別に。こいつが勝手に飛び出してきたんじゃないか」


 反省していないアッシュに英二はプルプルと体を震わせて、怒鳴った。


「こらぁっ!」


 顔を真っ赤にして怒る英二を見て、アッシュは英莉の腕をつかんだ。


「英莉、逃げるぞ!」


「え、何が?」


「すっげー怖い『お化け』が追っかけてくるぞ」


「やだ! 」


「よし、さっさと出ようぜ」


「こらー!何がお化けだ! 失礼な! それにどうして逃げるんだよ!こんな所に僕を一人にするなって! もう、待てったら!」


 英二は必死に二人を追いかけ、二人もまた全力で逃げた。


 三人はドタバタと走り、お化け屋敷を飛び出した。


<続>


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