数日後、マックスは再びアッシュと英二の元にやってきた。そして二人にせっかくアドバイスをしてもらったが失敗してしまったことを報告した。
「それは大変だったね。また誤解されちゃったのかぁ」
英二はマックスに同情したが、アッシュはバッサリと言い放った。
「火に油を注ぐようなやり方をするからダメなんだよ。この間も言ったけど、おっさんの場合はジェシカが弱った時にうまくフォローすればきっとお前の事を見直すぜ。チャンスがくるまで待てよ」
マックスはそれしか方法がないだろうと思っていた。
「そうだな、あいつ喜怒哀楽が激しいかなぁ。落ち込んだ時に優しくすれば案外うまくいくかもしれないな」
「頑張って信頼を取り戻してね!」
「しっかりしろよな、おっさん」
それぞれの応援を受けて、マックスは再びやる気を取り戻した。
***
数週間後、マックスがジェシカの元を訪れた。
「ジェシカ、入るぞ――。あれ、部屋が薄暗いな。どうしたんだよお前、元気なさそうじゃないか」
部屋に入ると少しアルコールの香りがした。テーブルにはウィスキーのボトルとグラスが置いてあった。
(珍しいな、あいつがウィスキーを飲むなんて…)
「ジェシカ?」
ジェシカはソファでうなだれてていた。ひどく落ち込んでいるようだ。マックスは母親の異変に気付きながらもどうしてよいか分からず、マックスを見るとホッとしたように彼の胸元に飛び込んできた。
「パパ! 来てくれたんだ?」
マックスはマイケルのあたまを撫でて、優しい口調で言った。
「マイケル、ママはちょっと疲れているからそっとしておこうね。お前は部屋で遊んでいなさい」
「うん、わかったよ」
マックスは息子を自分の部屋へと連れて行った。そしてジェシカの元へ向かった。
(どうしたんだろう?機嫌悪いのか、単に疲れているのかそれとも?)
「マイケルは自分の部屋に行かせたよ。なぁ……いったいどうした?」
「放っておいてよ」
酔っているのか機嫌が悪いのか分からないが、かなり無愛想な声だ。
「そんなこと言うなよ。元夫だろう? お前のこと、心配して何が悪い。お前の手助けになりたいんだ……」
できるだけ優しい口調でジェシカに話しかけた。
ジェシカはしばらく黙っていたが、ぽつりぽつりと話し出した。
「ちょっと仕事で……ムカつくことがあったのよ。私がずっとインタビューをさせてほしいとお願いしていた作家がいるんだけど……断られ続けていたの。それなのに、他の編集者の若くて可愛い女性記者がインタビュアーになるってわかった途端、そいつ、即OKしたのよ。信じられる?」
「それは腹がたつよな。その作家はしょせんその程度の男なんだ。お前がわざわざ取材するようなレベルの男じゃないってことだよ」
「そうかもしれないわ。でも……容姿や年齢で差別されたみたいな気分だわ」
(ジェシカのやつ、随分落ち込んでいるな。ここはアッシュと英二たちが言ったようにしっかりとフォローすれば俺の株があがるぞ、よし!)
マックスは気合を入れた。
(なんて言えばいいんだ? そうだ、『ジェシカ、人間は顔じゃないんだぜ。ハートだぜ?』 とカッコよく決めて言おう!)
「いいか、ジェシカ……よく聞け……」
「なぁに?」
真剣な表情のマックスにジェシカは思わず魅入ってしまった。
(マックスのこんな表情、久しぶりだわ。何を言うのかしら?)
ジェシカはマックスの言葉を待った。マックスは緊張しながら、キメ顔で言った。
『……お前の顔は人間じゃないぜ』
「……」
(――あれ? なんかおかしくないか?)
緊張のあまり、キメ言葉を間違えてしまった。
(ヤ、ヤバイ!大変なことを言ってしまった! )
「ジェ、ジェシカ。今のは冗談で……」
恐々とジェシカを見たが、彼女の姿は目の前になかった。
(――?? どこ行ったんだ?)
怒りを通り越して呆れて部屋へ行ったのかもしれないと期待したが、彼女はすぐに戻ってきた。鬼の様な形相で、しかも手にはライフル銃を持っていた。
「あ、あの……ジェシカ……さん? いったいそれは……?」
彼女は倉庫からライフル銃を持ってきてマックスに向けた。本当に今にも撃ちそうな彼女の様子にマックスは恐怖を感じた。
「悪かったわね!人間以下で!」
「いまのは言葉のあやだ……言い間違えたんだよ!」
「うるさい! あの世へ行きなっ!」
「神様、助けて――!」
銃声と共に、マックスは慌てて家を飛び出した。
<続> 次回最終です
今回のお話を読まれて、もしあなたが楽しいと感じて下さいましたら、拍手ボタンをクリック・またはメッセージ応援してくださいね。皆さまの反応を知る為と、らぶばなのブログ更新の励みになっております♪
また、失敗しちゃったマックス……いつ逆転するんでしょう?ライフル銃で撃たれるほど姉さんを怒らせてしまいました。
次回、最終回です。最後はびしっときめてほしいですね。