マックスの気苦労  第一話:父ちゃんは辛いよ | BANANAFISH DREAM

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もしバナナフィッシュがハッピーエンドで終わるなら~365日あなたを幸せにする小説■BANANAFISH DREAM


 コーヒーの入ったマグカップからはゆらゆらと白い湯気が揺れている。


(アルコールの方がいいな)


 マックスはそう思いながらも、自分の為に心を込めて作ってくれた英二のことを思い、言葉にはしなかった。その代わり、思わずため息がでてしまった。



「ったくーー。はーぁ」



 剃り残した髭が気になるようで、指で顎をなでまわす。



 さっきからため息ばかりつくその横顔をアッシュは横目でチラリと見た。



(アパートに来てから3度目のため息だ。何か嫌なことでもあったのだろうか)


 マックスの顔色は冴えず、少し酒臭かった。


「マックス、元気ないね。コーヒーよりお茶をいれてこようか?」



 英二もマックスの元気のなさが気になっていたらしい。



「あ……いや、大丈夫だ」
 
 
 弱々しい返事とため息を聞いて、アッシュはうんざりした。
 


(こっちまで気分が悪くなりそうだ)


 放っておこうと思ったが、たまらず言ってしまった。



「おっさん、ため息ばかりつくなよ。この部屋が陰気臭くなる。」



「おまえなぁ、そんな冷たいこと言うなよ。ジェシカじゃあるまいし……」


 『ジェシカ』と言った時、何かを思い出したようで再び大きなため息をついた。



「どうせ元嫁と喧嘩でもしたんだろう? それか馬券で磨ったとか?」


「……まぁそんなところだ。ジェシカだよ」


 マックスはようやく認めた。
 

「やっぱりな。英二、お茶より酒をもってきてやれ」


「あ、あぁ。……マックス、何があったの?」


「お前らに言っても仕方ないが、俺だって愚痴の一つくらい言いたいときもあるからまぁ聞いてくれ。将来お前らも結婚した時に直面するだろうからな……」


「何を偉そうなことを言ってんだよ、離婚したくせに。もったいぶらずにさっさと言いやがれ」



 アッシュのキツイ言葉に少々傷つきながらも事実そうなのでマックスは否定できなかった。



「う……、実は、昨日マイケルと会ったんだが――」



 マックスは昨日起きたことを話し出した。


    ***


 ジェシカと離婚したマックスは月に2回、息子と会う約束をしている。マックス本人はジェシカとやり直したいという気持ちが強いのだが、ジェシカにいまいち信用されていないこともあり、なかなか思うように進展しなかった。


 まずは息子との関係をしっかり築き、息子から 『パパともう一度住みたい』 とジェシカに言ってもらえるように努力しようと考えていた。


 日曜日、マックスはマイケルとファミリー向けのレストランで食事をしていた。親子連れのファミリーを見ると自分たちも早く親子三人で食事をしたい…と期待してしまう。



「ねぇ、パパ……デザートにホットアップルパイを頼んでもいい? ねぇ、パパったら!」



 ぼうっとしている父親に、マイケルがメニューを指さしながら声をかけた。



「……おっと。すまんなマイケル。ぼーっとしてた。デザートが食べたいんだな。分かった、頼めよ。お前、生クリームとフルーツのケーキも好きだろう? アップルパイでいいのか?」



 マックスはできるだけ優しい口調でマイケルに言った。



「パパ、もうすぐママのバースデーだよ。僕はママと一緒に生クリームとフルーツのケーキを作る約束をしているんだ」



「あ……そうだったな」


(忘れてたよ)


 本当は完全に忘れていたのだが、マイケルの手前 本当の事は言えなかった。



「パパは何をプレゼントするの?」



 マイケルからの突然の質問に戸惑った。全くもって覚えていなかったからだ。



(やべぇな、何も考えていなかったぜ!)



「パパは、ママの好きなお花でも贈ろうかな」


(とりあえず、花とか言っとけばいいだろう)



 本当は冷や汗が出ていたが、できるだけ冷静に答えた。



「そうだね。きっとママ、喜ぶよ!」



 マイケルが嬉しそうに笑ったのでマックスは安心した。



(セーフ。冷や汗もんだぜ)



 ふと、ジェシカと知り合って随分時間が経ったなと改めて思った。


「へへっ……あいつ、またひとつオバサンになるんだな、かわいそうに……」



 マックスはうすら笑いを浮かべて言うのを、マイケルは不思議そうにじーっと見つめていた。



  ***



 数日後、マックスの住むアパートに ジェシカから怒り口調の電話がかかってきた。



「ちょっとマックス!あんた、マイケルに一体何を言ったのよ!」



 キンキンと甲高い声で叫ばれて、マックスは思わず受話器から耳を離した。


「……? まて、何の話だよ」



「あの子、私のバースデーにカードを書いてくれたんだけど――」



「良かったじゃないか、それの何が悪いんだ」



 マイケルが何かしでかしたのではないかと不安だったが、そうではないと知り、ホッと胸をなでおろした。



「何が良いのよ!あの子のカードには 『おたんじょうび かわいそう』 って書いてあったわ」



「かわいそう? どうしてだ?」



 おめでたい日なのにどうしてそんな事を息子が書いたのか分からなかった。



「ふつうは 『おめでとう』 でしょう? どういうことか聞いたら、私がオバサンになるのが可愛そうだって言ったらしいじゃないの!」



 ジェシカの迫力に思わずマックスは額から冷や汗が流れた。


「うっ……それは……ちょっとしたつぶやきで……面白かったからつい口からでただけで、悪気は全くなかったんだよ」



「うるさいっ! あんたのそういうところが嫌いなのよ! ばかっ!」



 耳元でギャーギヤー叫ばれた上にガチャ切りされてしまった。



 

<続>


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あーあ、ジェシカ姉さんに嫌われちゃった(笑) 余計なことを言ってしまったマックス、反省しなさい…。