ケープコッドでの思い出 【前編】 | BANANAFISH DREAM

BANANAFISH DREAM

趣味の漫画BANANAFISH二次小説を中心に日々更新中♩

短編小説・企画他のインデックスはこちら


ケープコッド 観光
このケープコッド の写真はトリップアドバイザーから無料提供されています



「これは……?」



 埃の積もった古い木箱の中には、色あせて黄色くなった封筒が数枚入っていた。中には手紙が入っていて、それを開くと、大きく丁寧に書かれた文字が見えた。



『アスラン、いい子にしているか? お兄ちゃんは元気だよ……』



(――あいつらしいな)



 マックスは手紙を読み、フッと微笑んだ。彼は亡き親友、グリフィンの遺品を整理していた。



 彼は仲間達と共にNYのコルシカ・マフィアから命からがら逃げて、ケープコッドにたどり着いた。アッシュの生まれ故郷、ケープコッドで 兄グリフィンの遺品を探すために。



(バナナフィッシュに関する情報はもうないのか?)



 遺品の中にバナナフィッシュにつながる情報がまだ隠れているかもしれない。昨日は全員で探したが、ドースンの写真以外は見つからなかった。



 マックスはグリフィンとベトナムの戦場で知り合い、仲良くなった。あの辛く苦しい環境の中で幾度も語り合った。心優しいグリフィンが年の離れた弟宛てに書いた愛情のこもった手紙を読んでいると、ベトナムでバナナフィッシュを投与され、銃を乱射した彼の狂った顔が蘇ってきた。



(あいつを助けたかった……本当に)



 そう思うと何としても情報を発見せずにはいられなかった。しかしもう一時間以上探しているが、特別な情報はでてこなかった。 そして次に出てきた手紙を開封した。



『アスラン――元気にしているかい? アスランの顔が見れなくて寂しいよ』


 

 出てくる手紙はすべて弟への愛情に溢れていた。マックスは天井を見上げ、天国にいる親友にむかって話しかけた。 


「……なぁ、グリフィンよ。――お前は本当にアッシュのことを可愛がっていたんだな……。アッシュにとってもお前が一番の『家族』だったはずだ……」



 ふいに涙がこみ上げ、マックスは目頭を押さえた。




       ***




 昨日、アッシュは父親と久しぶりに対面した。マックス達は初めて彼の父親を見たが、正直言って『良い父親』だとは思えなかった――。ドラマや映画のように感動的な再会シーンをほんの少し期待していたが、見事に裏切られてしまった。二人の仲は険悪そのものだった。



(本当にアッシュの父親なのか?)



 息子を侮辱する父親の言葉にマックスは殴りつけたくなった。彼にもマイケルという愛息がいるが、どうして息子にそんなひどい事が言えるのか心底理解できなかったのだ。アッシュは「こういう奴だ」と割り切っているようだが、本当は傷ついているに違いないと思う。



(あぁ、くそったれ! 思い出すと気分が悪くなる)



 気分転換がしたくなったマックスは、手紙を読みながら後ろにいるであろう友人に声をかけた。



「シュンイチ! 悪いがラジオをつけてくれ――」



 しかし、反応がない。マックスは振り返ってようやく気付いた。  



「そうか。あいつら、外出中だったな……」


 

 NYから運転してきた車の調子が悪くなり、バッテリーを換えるために伊部とショーターが近くの街――プロヴァンス・タウン――へと向かった。 そこは、メイフラワー号が新大陸に上陸した歴史的な場所だが、今は多くのお店、レストラン、ギャラリーなどが軒を連ねる、 ケープコッドで一番賑わっている街だ。



 マックスはグリフィンの遺品を整理するためにアッシュの家に残った。アッシュはどこか出てしまったし、自分の身を守れない英二を遠くへやるのも不安があった。消去法でショーターと伊部がプロヴァンス・タウンへ向かうことになったのだ。




――ズキューン……



 丘の上から銃の音がした。何発か規則正しい音がするのをマックスは聞いた。




(アッシュなのか……?)




 アッシュは父親との口げんか以来、ずっと機嫌が悪かった。



(たしか昨日、アッシュは銃の練習をしていて英二にも撃たせたって、シュンイチが言っていたよなぁ)



 不安定な気持ちを紛らわす為なのだろうか、朝から何も言わずにアッシュは飛び出していった。そしてそんな彼を見て、英二は心配そうに同じく外に出て、彼を追いかけていった。




       ***




 英二がドアを開けると風が舞い込んできた。



「うわっ、すごい風だなぁ――」



 風を全身に受けた英二は思わず目を細める。アッシュがこの街を 『いつも風が強い』 と言っていたことを思い出しながら、小さくなっていく親友の後ろ姿を追いかけた。



(絶対に追いつかなきゃ……)



「はぁ、はぁ、はぁ……っ」



 見失わないように英二は全力で走った。すると昨日銃を撃たせてもらった丘の広場にアッシュはいた。彼は無表情のまま銃を構えている。



 怒っているような、悲しんでいるようなアッシュの後姿。その背中が寂しく見えてしまって、英二の心はチクリと痛む。アッシュは素直に気持ちを表現しないが、英二には何となく彼がどう感じているか分かる気する。



 しかし英二はアッシュを慰めようとはせず、いつもと同じ口調で 話しかけた。



「やぁ、アッシュ――。今日も銃の練習かい?」



「……」



 振り返ったアッシュがどんな表情をしているのか少し怖かった。しかしアッシュは、子どもがいたずらが見つかって困ったような表情をしていた。



「いや、散歩だよ。ちょっと外の空気を吸いたくなっただけさ」



 そう言ってアッシュは静かに銃を持っていた手をおろした。彼は昨日、伊部から英二に銃を撃たせたところを見られたことを思い出し、銃の練習をする事を思いとどまったのだ。



「そう……気分転換できた?」



「どうかな……」



 遠くを見つめるアッシュの表情が切なく見える。それは気のせいだろうかと英二は考える。いつもと同じように見えて少し違う気がした。



(何かしなきゃ……でも何を? ……そうだ!)




 良いアイディアがひらめいた英二は目をキラキラと輝かせ、満面の笑みを向ける。



「ねぇ……君の故郷を案内してくれない?」



「はあっ?」


 アッシュは驚いた。

 ケープコッドには決して遊びに来たわけでない。そのことを英二は分かっているのだろうかとアッシュは戸惑いながら彼の澄んだ目をじっと見つめた。



 英二の黒い瞳の中に光り輝くような未来が見える気がした。太陽の光がまぶしいせいだろうか、それとも英二があまりにもまぶしい存在だからだろうか、などと考えていた。


「いいだろう?アッシュ!」



 黙っているアッシュにもう一度英二が言った。



(こいつ――本気だ……)



 こういう状態の英二に何を言っても通用しない。嫌な予感がしたが、彼はもうすでにアッシュが了解したかのようにウキウキしている。



「――散歩していたんだろう? じゃぁ、そのついでに案内してよ!」



「……残念だが、車はショーターと伊部が乗って行ったぜ。あいつらはまだ戻ってきていない」



 乗り気ではないアッシュは車がないことを理由に断ろうと思ったが、英二が古びた二台の自転車を指さした。それは兄グリフィンと父ジムが使っていた自転車だった。



「ほら、自転車があるよ」



「……」



「決まりだね!」



 英二はにっこりとほほ笑んだ。




  ***




 草原とも原っぱとも区別のつかない道を、二人は自転車をこいで進んでいた。懐かしい風景が二人の横を流れていく。



(また英二に押し切られたよ……)



 本当はサイクリングをする気分ではなかったのでアッシュは大きなため息をついた。英二が期待一杯の笑顔でお願いしてきたので彼は断れなかったのだ。どうにも英二の笑顔には弱い。



「自転車に乗るのは久しぶりだなぁ――風も気持ちいいし……」



 英二は周りの草原を見ながら気持ちよさそうに風をあびている。サイクリングを楽しむその横顔を見たアッシュはふっと笑った。



(英二が楽しいのならまぁこれぐらいいいか)



 彼を見ていると、そう思えるから不思議だ。アッシュはひんやりとした風が耳や首筋をなぶっていくのを感じ、心地よさに身をまかせた。



「ねぇ、君はこの辺りでよく遊んだの?」



 英二の問いかけに、



「そうだよ。ほら、あそこに森が見えるだろう? 近所の友達と探検して遊んだよ」



 アッシュは懐かしそうに森を指をさした。



「ひょっとして……前に君が話してくれた……お兄さんを驚かそうとした例の森?」



「あぁ、そうだよ」



 ハロウィンの思い出――グリフィンを驚かそうとして隠れていたことを思い出し、アッシュは微笑んで答えた。



「あの森を目指していこうか」



「本気か? かなり距離があるぞ」



「構わないよ。僕、自転車は得意なんだ」



「本当かよ? ははは……」



 そう言ってアッシュは笑っていたが、急に彼の自転車が止まった。 



「アッシュ、どうしたの? パンクでもしたのか?」



「……」



 アッシュはある場所をじっと見ている。昔は家が建っていたようで、今は更地になっている場所だ。



「――?」



 英二は突然身動きしなくなった彼が非常に辛そうな顔をしていることに気が付いた。アッシュはかつての悲しい記憶が蘇りそうになっていた。



 そこは子供の頃、野球部の監督にレイプされた場所だった。



(あの事件さえなければ、自分はもっとまともな人間になっていたかもしれない)




 痛みと苦しみがアッシュを襲い、息苦しさすら感じていた。



 しかしその時、強張っていた彼の手に温かいふわっとした感触が伝わってきた。



「……?」



 驚いて振り返ると、英二がアッシュの指先を握っていた。彼はアッシュの気持ちを敏感に察したようで、



「――行こうか。ちょっと疲れたよ……何か冷たいものでも飲んで休憩しよう」



 英二は優しく包み込むように笑った。指先から伝わる心地よい温かさがアッシュの冷えた心と体をほぐしてくれた。




(――俺は大丈夫だ、こいつがそばにいてくれるから……)



ふっと、強張っていた体の力が抜けるのを感じ、アッシュは穏やかにほほ笑んだ。



「分かった、行こう……」



「うん……」



 二人は自転車を走らせた。

  <続>



←こちらは拍手ボタンですニコニコ


もしあなたが今回のお話を読んで、楽しいと思って下さいましたら この拍手ボタンをクリックして拍手応援・またはメッセージを送って下さると嬉しいです。らぶばなのブログ更新の励みになっておりますドキドキ

メッセージ・ご意見は、記事の右下(なうで紹介・mixi チェック・ツイートする 各ボタンの下)に 「コメント」があるのでそこからお気軽にどうぞ。



新連載の小説がスタートしました。前編・中編・後編の三話予定ですよ音譜

原作とイラスト本ANGEL EYESの漫画をつなぐようなお話です。アッシュと英二の貴重な思い出になるといいなぁと思いながら創作しています♪ 



ほのぼの&しんみりした第一話でした霧。次回は元気よく(←?)いきたいと思います~自転車

ケープコッドでアッシュと英二はどのように過ごしたのでしょう? ほんの数日間だと思いますが…。


ぜひ皆様のご感想をお聞かせくださいませ!拍手だけでも十分ありがたいです♪得意げ



【お知らせ】


次回の恋愛版バナナフィッシュのメルマガ配信日は3月27日(火)18時の予定です♪

第一章最終話ですよ~。




【たった5分で】シミ・たるみのない小顔に!?