もしもアッシュが女の子になってしまったら 第六話(最終話):ハッピーエンド!? | BANANAFISH DREAM

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もしバナナフィッシュがハッピーエンドで終わるなら~365日あなたを幸せにする小説■BANANAFISH DREAM



 二人は全力で走ってストリートキッズ達から逃げきった。


 
「はぁ、はぁ……ここまでくれば大丈夫だな――」



「……」



「あ――久しぶりだよ、こんなに走ったのは……」



「……」

「――?」



 アッシュは先ほどから全く話さない。その顔色は悪く、どことなく辛そうだった。



「アッシュ、どうしたの?」



 異変に気付いた英二はアッシュの顔を覗きこんだ。



「いや……別に……」



 実は走っている最中、アッシュは脚をくじいてしまったのだ。



(やっぱり男の身体よりも華奢なんだな。いつものようにはいかないな……)



 英二に心配を掛けたくないのでアッシュは誤魔化そうと立ちあがったが、痛みを感じて眉間に皺を寄せた。



「――痛っ」



 そのまま歩こうとしたが、痛みのせいか脚を引きずってしまう。



「アッシュ……やっぱり具合悪いんだろう?」



「いや……大丈夫だ」



 どうみても大丈夫そうではないことは英二も分かっていた。



(また無理しちゃって……。素直じゃないんだから……)

 英二はアッシュの両肩に手をかけて言った。



「お願いだ……僕には隠さないで言ってくれよ……」



「英二……」


 英二の真っ直ぐな瞳を見て、嘘はつけないとアッシュは観念した。



「ちょっと脚をくじいただけだよ……これぐらい何ともない……」




「そうだったのか、すぐに手当てをしよう……悪化したら大変だ」



(僕が無理に走らせたから、怪我をしたんだな)


 英二は手を差し出したが、アッシュは嫌そうに首を振った。



「本当に大丈夫だって! 俺はちゃんと歩けるから」



(大げさなんだって――くじいただけなのに……ったく!)


 しかし英二は頑なに言った。



「駄目だ!僕が君を運ぶよ」



「運ぶ?」




「僕の背中に乗りなって。君をおんぶしていくから――」



 英二におんぶされるだなんて想像できず、アッシュはためらった。


「はぁ? 恥ずかしいからいいって。俺は歩けるんだから」



 慌ててアッシュは移動しようとしたが、痛みで顔をゆがめた。



「――イテテテッ……」



「ほら……強がんなよ! 今の君は女の子なんだ、無理するなって」



「けど――」


 

 アッシュは躊躇して、なかなかYESと言わない。


(あ――っ、埒が明かない! 強硬作戦だ!)



 戸惑いを感じる気持ちもわかるが、自分の体を大切にしてほしいと思う英二はこれ以上聞いていられないと無理やりアッシュを運ぶことにした。



「ちょっとだけ我慢してくれよ」



「えっ?」


(何の事だよ?)


「――えいしょっと!」



 英二はアッシュの膝裏に手をかけて、お姫様だっこをした。




「う……うそだろっ!?」



(ありえねぇ! 俺が英二にお姫様抱っこぉ? どちらかと言うと反対だろう? それに…おんぶより、こっちの方が恥ずかしいぜ!)



 驚いて英二の顔を凝視しているアッシュを安心させるため、英二は優しくニッコリと笑った。



「大丈夫! 僕……絶対に君を守るから! 君の事を落としたりしないから!僕は男だ、大和魂を見せてやるよっ」



「……」



(いや、英二……そうじゃなくて――。男が男にお姫様だっこされて恥ずかしいんだよ!)



 心の中では「降ろしてくれ!」と叫んでいたが、英二には言えなかった。無言になったアッシュを見て、納得したのだと勝手に思い込んだ英二はアッシュを抱えたまま歩き出した。



 ふだん頼りなさげで、庇護欲をかきたてられていた英二に今は守られている。それが不思議でならなかった。



 気がつかなかったが――英二の腕は鍛えられていて意外とたくましい。アッシュはぼうっとしながら英二を見つめていた。急に大人しくなったアッシュに英二が優しく聞いた。



「どうしたの? 急にしおらしくなっちゃって……」



「ナンデモナイ……」



 そう言って、恥ずかしいのか英二の胸に顔をうずめた。珍しく甘えた様子のアッシュを見て、英二はクスッと笑う。



(黙っていたら、可愛いんだけどな……言うと怒るだろうけど……)




「脚……痛かったね。僕が無理に君を走らせたからだよ――ごめんね。アパートに帰ったらちゃんと手当てをするから、それまで我慢してくれ……」



「……」



(どうして……? どうしてそこまで俺に優しくしてくれるんだ?)



 英二の言葉に思わずアッシュの目が潤んだ。素直に甘える事の心地よさを知ってしまった今、アッシュはもう少しこのままでいたいという感情でいっぱいになっていた。




 ***




 二人はアパートへ戻ってきた。



「これでよし――っと!」


 
 英二はアッシュの細い足首に消毒をし、ガーゼと包帯を巻いて手当てをした。



「――」



 アッシュはさっきからずっと大人しい。それは痛みのせいだと思っていたが、何か言いたげに自分をじっと見つめていることに気がついた。


「どうした? まだ痛むの?」



「あぁ、少しだけな」



「――じゃぁ良くなるおまじないをしてあげるよ」



「おまじない?」



 英二はこくりと頷いた。



「よしよし……」



 そう言いながら、英二はアッシュの頭を優しく優しく撫でた。



(――えっ?)

 


 兄以外にそんな風に撫でられたのは初めてだった。温かい体温と共に、英二の愛情が伝わってくるようだ。



「ほーら、これでもう大丈夫」



 子供扱いされているのに、どういうわけか心地よい。「もっと……」とつい、ねだりたくなるほどだった。



「……」



「ん――? どうしたの? ぼーっとしてるよ?」




「ありがとう……」



 アッシュは英二の頬にそっとキスをした。



「え……!」


(え、えぇっ!!)



 魔法をかけられたかのように英二は硬直した。真っ赤になったまま、今度は英二が黙り込んでしまった。その様子を見て、アッシュはクスクスと笑う。



「英二、どうしたんだよ? 急に黙ってしまって……」



「い……いや……ぼ、僕……その……」



 アッシュからキスをされ、英二は動揺した。


(これはきっと僕をからかっているか、ただの御礼のキスかどちらかのはずだ。でも……)


 今まで感じたことのないほど、気持ちが高ぶっていることに気がついた。まともにアッシュの顔が見れず、目が泳いでいる。



「やっぱり変だよ?」



「変……? 確かに……僕は変だよっ。自分でも分かっているよ……」


 

 心臓がバクバク波打っていた。体温も上がってきた。そして目の前にいるアッシュのことが――愛しくてたまらなくなっていた。そのことに自分でも驚いていた。



「ふふふ――本当に変!」

 


 アッシュはそう言って英二の肩に手をポンと置いた。その瞬間英二の体はびくっと震えた。



「へ……変だから――そのついでにもうひとつ変な事を言ってもいいかな?」



「何を?」



「女の子になった君のこと……初めは驚いたけど、男でも女でもどっちでもいいって思うんだ。でもね、ちょっと困ったことがあってさ……」



「何に困ってるんだよ!?」



「君のこと、異性として意識しちゃうんだ。女の子の君はモテるしすごく心配なんだ。それは……僕は君のことを すっ……好きなんだ――」



「……好き?」



 アッシュは英二の言う 『好き』 がどういうものか気になった。

 


「うん……大好きだよ。胸が震えるほど……君が僕のガールフレンドだったらすごく嬉しいのにって……こんなこと言われて困るだろうけど――」



 英二は素直に自分の思いを伝えた。



「……!!」



(お、俺は……英二に告白……されてしまったのか?)


 

 困るどころか嬉しい気持ちでいっぱいだった。しかし、完全にパニックになったアッシュは更に聞いてしまった。



「ど……どうして俺なんだよ?」



「どうしてって? 分からない……気がつけば、好きになっていたんだよ。君が綺麗な女の子になったからじゃないよ。男でも女でも君は君さ。素直じゃないところも、可愛げのないところも、強いようでいてちょっと弱いところも……」



 しばらく沈黙が続いた。

「――英二、俺……なってあげようか?」



 肝心なところがよく聞こえず、もう一度聞いた。

「何になるの?」



「お前のガールフレンドになってあげようか?」



「――えっ……」



 二人の間に緊張が走る。ドキドキしながら二人は見つめあった。



「何だよ? 俺のことを好きだって言ったじゃないか……嫌なのかよ?」



「だ、だってさ、ガールフレンドって……」



(アメリカではHする関係の事を言うんだろう?)



「嫌なら、もういいよ」



 不貞腐れたようにアッシュはそっぽを向いた。その様子が可愛くて、アッシュの言葉は本気だったんだと気がついて、思わず英二は笑ってしまった。



「嬉しい――夢みたいだ、君が僕のガールフレンドになってくれるだなんて……。アッシュ、こっちを向いてくれ……」



「……」



 少し不安げに振り向いたアッシュを英二は抱きしめて、その頬に優しくキスをした。アッシュは驚いていたが、次第に英二を熱い視線で見つめた。



 ゆっくりと二人の唇が近づいて、そっとキスをした――。


  


   ***


もしバナナフィッシュがハッピーエンドで終わるなら~365日あなたを幸せにする小説■BANANAFISH DREAM


 

 ―― カフェにて ――



「――こうして二人は末永く幸せに暮らしました……。めでたし、めでたし……っと!」



 小説を読み終えたジェシカは満足そうに原稿をテーブルに置いた。



「やっぱり最後はハッピーエンドじゃないとねぇ!」



「――おいっ! ジェシカ、何だよこの小説の結末は!」



 納得のいかないアッシュは机をバンっと叩いたが、ジェシカは全く気にしていない。



「うるさいわねぇ……せっかく感動にひたっているのに……」



「ふざけんな! 結局……どうして俺が女になったのか、さっぱり分からないじゃねぇか!なんだよ、この話は?」



 原稿を奪ってアッシュは抗議をした。一方、英二はこれから始まるであろう二人のバトルを予想して、ため息をついた。


 


「読者はね、あんたが女になった理由とかどうでもいいわよ。それよりもハッピーエンドになったのか、二人が結ばれたかどうかが重要なのよ」


 

 アッシュの抗議など気にせず、ジェシカは持論を主張する。



「めちゃくちゃなストーリーじゃねぇか! それならはじめから登場人物を女にしておけよ――」


 

 ヒートアップしていくジェシカとアッシュのバトルを見ていた英二は、何とか止めようとした。


「まぁまぁ二人とも、落ち着いて……」



「英二、アッシュったら人の原稿にケチつけるのよ!」



 英二を味方につけようとジェシカが先手をうってきた。



「英二、お前も抗議しろ! ジェシカは俺達をネタにして、こんなふざけた小説を雑誌に掲載しようとしているんだぜ? たまったもんじゃねぇよ」



 アッシュも英二を味方につけようとする。



「ははは……」

 


 英二を挟んで、ジェシカとアッシュはギャーギャー騒いでいる。



(この二人、本当に似ているなぁ――)



「けっ、何が 『若いころの私と似ている』 だぁ? 単に昔の自分は綺麗だったって自慢したいんだろうが!」



「はんっ! あんたこそ、俺はもっとモテているだなんてつまんないこと言ってたじゃないの!」


 お互いをけなし合う二人を呆れて英二は見ていた。


(当分――終わらないんだろうな……僕、ずっと聞いていなきゃいけないのか? )



 英二は「ふぅっ」とため息をついたが、どちらの意見も聞かないと怒られるのがわかっているので、適当な相槌をうつのであった。



<完>



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ジェシカ姉さんの小説家メモデビュー2作品めです(笑)。 実は架空のお話でした……(^^;)。惜しい?にひひ(笑)

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