台所では、英二が笑顔で食事を配っていた。不思議なことに彼の食事を食べている連中は喧嘩もせず、穏やかだった。それどころか笑顔でグループの垣根を越えて接していた。ケインは驚きを隠せない。
(やっぱりSupermanかもしれないな……)
「アッシュ! ケイン! 良かった――間に合った……いま君たちの分、準備するよ」
満面の笑顔で二人を迎えてくれた。
英二は手早く食事の用意をして、自分の分も持って来て同じテーブルについた。
「牛肉が手に入らないから豚肉にした」だの「辛口と中辛とで迷った」だの、どうでもいいことを楽しそうに話している。
アッシュは「お前は甘口で良かったんだよな」と小馬鹿にしながらも彼も楽しそうに話している。
これから厳しい戦いが控えている前に不謹慎だと思いながらも、ケインは願った。
――英二ができるだけ長くアッシュのそばにいてくれるように――
***
英二は雑居ビルの屋上で星空を眺めていた。
「うーん、あまり星が見えないな。出雲ではもっと見れたのに……」
空を見上げてぶつぶつとつぶやき、ポケットの中から妹がくれた縁結びのお守りを取り出した。その時、アッシュも屋上へやってきた。
「英二、何やってんだよ? こんなところで……」
「別に……ちょっと外の空気が吸いたくなっただけさ」
そう言ってお守りをポケットにしまった。英二がお守りを見ているところを数日前にもアッシュは見ていた。
「お前、日本が恋しいんだな。この前もそれを見ていたじゃないか……」
「……あ、見てたのか」
英二は小さく笑った。
「――やっぱりな」
「あはは……君には隠し事ができないね」
「……」
わずかな沈黙の後、英二は続けて言った。
「確かに日本が恋しいよ。でもね、僕は帰らないよ。君の傍にいるって決めたんだから」
故郷が恋しくなるほど追い詰められた状況でも 自分の傍にいると言う彼の強さと、どんな時でも明るく笑顔を見せてくれる英二の優しさに、アッシュは心が救われる想いだった。
「――そうか……」
色々伝えたいことがあったのに一言しか言えなかった。
その時、英二が空に向かって指を刺した。
「ほらアッシュ、あそこ……星が見える!」
「本当だ……ひとつだけ見える――」
灰色の空に光る小さな星にアッシュは願った。
―― ただいつまでもその笑顔見せて欲しい……。そばにいてくれるだけでいい ――
「君――何か言った? 」
きょとんとした表情で英二がきいてきた。
声に出していないのに、そんなことを言う英二に驚きながら
「いや……でも……」
「でも、何……? 」
「時々……お前ってすごいなって思うよ……Supermanみたいだ」
「Superman? 僕が?――それって誉めてくれてるのかな? 」
英二が嬉しそうに笑うので、
「だから 『時々』 だって……勘違いすんなよ」
アッシュはわざと意地悪く言う。
「何だよ――、やっぱりバカにしてんじゃん」
「ハハハ……」
「悔しいなぁ――。 ……っくしゅん!」
英二がくしゃみをした。
「冷えてきたな、もう部屋に戻るぞ」
「そうだね。う――寒いっ」
「年寄りはこれでも着てろよ」
アッシュは自分が着ていたジャケットを英二に向かって放り投げた。
「……ありがとう」
ちょっと不服そうだが素直にジャケットを肩にかけた。
「君のジャケット、あったかいや」
「そうだろう? さ、戻るぞ」
アッシュは英二の肩に手を置いた。そして誰よりも強く優しい自分のSupermanと共に寝床へ向かった。
<完>
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アッシュにとって英二はSupermanなんですよ。ただそれだけを伝えたくて創作しました(笑)。最後までお読み頂き、ありがとうございます!たくさん拍手をしていただき、とても嬉しかったです!
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